『トシ、1週間であなたの医療英単語を100倍にしなさい。できなければ解雇よ。』

 


 

小説を読みながら英単語を覚える!

日本に来る外国人が増えていることで、医療現場でも外国の患者さんが急増しています。そのため、医療関係者にも英語力が必要になってきています。本書は、覚えにくいとされている医療英語がわかりやすく紹介されています。短期間でマスターできるようになっているため、時間のない人におすすめです。

田淵 アントニオ (著)
出版社: SCICUS;  版 (2009/6/29)、出典:出版社HP

はじめに

教科書も小説みたいに読めたらいいなと思いませんか? 本書は、そんな単純な思いつきから企画されました。
専門用語に限らず、基本暗記が必須になる単語の記憶法は星の数ほど出版されています。それこそ、さまざまな創意工夫を凝らして….。
これをお読みのあなたはおわかりかと思いますが、本書は医療英単 語を効率的に覚えることを目指しています。 そのやり方は、まさに王道そのものです。 運動も食事制限もしないで健康的にダイエットなんてできないように、楽して覚えられる方法なんかはありません。

そういう意味で、どんな学習法でも最後までやり抜くことさえできれば、必ず力が身につくのです。
本書では、何千という接頭辞や接尾辞、語根などを解説しながら、ひたすら専門用語の問題をあなたにぶつけていきます。
本書は、正直分厚いです。もちろん、医療英単語の知識を身につけたいと思っている人には、役立つ知識が満載です。逆を言えば、普通の日常生活では役に立たない知識で満たされています。「普通なら、容赦ない医療英単語のパンチの雨あられにKOされてしまうかもしれません。

しかし、ご安心ください。本書には、あなたが最後までやり遂げるためのさまざまな仕掛けが 用意されています。
7日間の学習スケジュールを実現するための魅力的な主人公トシとソフィーが織りなすストーリー。
医療英単語の知識を効率よく身につけるための単語構成システムの解説。「疲れた心と頭をリフレッシュさせるオリジナルハーブティーレシピ。 文字を消せる赤いセロファン、美しい解剖図や挿絵のアートワークに、栞としても使えるおかしな取扱説明書。その他にも、思わずニヤリとしてしまう雑学知識など、気がつけば、あなたはトシとソフィーに導かれるまま、本書を読破してしまっていることでしょう。

ここで、本書をやり遂げるためのおまじないをひとつ。
医療の専門職の方もそうでない方も、英語の専門用語の知識を深めたい方も、学生の方も、生涯学習に英語を選んだ方も、本書をやり遂げた後にかなえたい願いごとをひとつ考えてみてください。
そして、次のページに、七夕の短冊のようにその願いごとを書き記しておきましょう。本書を読破するまで、決して誰にも見られないように気をつけること。
想像してください。この分厚い学習書を読破したら、知識が100倍になる以上に、あなたの身に何か素敵な出来事が起こるような気がしませんか?

t
そう、本書には、頑張った後のあなたの「ささやかな願いごと」をかなえてくれる力がきっとあります。
まずは本書を信じてください。 私がこの本と出会ったあなたの力を信じているように。
最後に、本書の単語選定に多大なる協力をいただいたコロラド大学の鈴木繁氏に心からの謝意を込めて。
2009年6月 リスボンにて
田淵 アントニオ

田淵 アントニオ (著)
出版社: SCICUS;  版 (2009/6/29)、出典:出版社HP

本書をやり遂げたら、きっとかなう!
私の願いごと

登場人物紹介

トシ (トシユキ・オオハシ)
腫瘍免疫学が専門の日本人医師。32歳独身。 ポスドクとして、ニューヨークに留学中。 ふとしたことから、医療英単語の知識を 100倍にする羽目に…。

ソフィー
トシの先輩ポスドク。フランス出身。33歳独身。トシに医療英単語の知識を100倍にする方法を伝授する。

ボス
トシとソフィーが所属するラボのボス。47歳。 トシに医療英単語の知識を100倍にする指令を出す。

ヘンドリック
ラボの中ボス。ドイツ出身。 優秀な研究者でハンサムで好人物。

その他の登場人物
ラジュ
インド出身のポスドク。
クリスティアン
ポーランド出身

目次

Prologue
1日目「とりあえず光あれ!!」
頭とお尻に気をつけて!!
2日目 「神は空を作り、僕は空っぽな胸を満たす。」
モチベーション維持の方法を考えて!!
3日目 「神は大地を作ったが、僕の足は地につかない。」
単語の構成要素を意識して発音しましょう。
4日目 「神は太陽と月と星を、僕はハーブティーを作る。」
ここからは五感を総動員!!
5日目 「神は魚と鳥を作り、僕はぐうの音を出す。」
体調管理に気をつけて。
6日目「神はついに人を作り、僕は人として決意する。」
やり遂げた人間だけが頂きを見られるのよ。
7日目「神は休むが、僕は休日を返上する。」
最後は自分を信じること。
Epilogue
Index

Prologue

Prologue 1

僕の名前はトシユキ・オオハシ。 ニューヨークでポスドクリをやっている。年齢は32歳。日本人 血液型はO型。ちなみに独身。誕生日は…やめておこう 300 の独身男の誕生日なんて本人も覚えていたくない。
日本では腫瘍免疫学 (cancer immunology) が専門の医北だったけれど、ご多分にもれず、雑用に追われるのが目に見えていた 目の前の就職と、どっぷりと研究三昧の日々を天秤にかけて、異国 でのポスドクの道を選んだクチである。
別に臨床が嫌いなわけではなかったけれど、やはり研究の方が 好きだったのだ。
ちなみに、僕は今、ラボから程近い喫茶店の隅の席でひとり途方に暮れているところだ。
こちんまりとした今のラボはまるで多国籍軍で、ポーランド、ドイツ、 フランス、インドとさまざまな国からのフェローが肩を並べている。
残念ながらどんな研究をしているか教えることはできない。地味 な研究成果は時として莫大な成果につながる。それでなくとも、アメリカのバイオラボの情報流出対策の厳密さは、日本の比ではない ことは知っての通りだ。
日本の研究室の先輩から、アメリカじゃ上司との付き合い方も身 の振り方に大きく影響するらしいぞと散々脅かされての渡米から早半年。
夢と不安と希望が失敗したプースカフェ2)みたいに混じり合って いた留学当初から比べれば、僕も大分こなれたニューヨーカーに なりつつあったと思う。
ラボでたった一人の東洋人である僕は、下手なりに英語を駆使し て、多国籍軍内での実験器具の争奪戦にも慣れてきた頃だったの に、こんなことになるなんて。
先ほど、僕はボスのオフィスに呼び出され、そして、途方に暮れ るような状況に陥ったのだった。
話は数時間前にさかのぼる。 僕がボスのオフィスをノックすると、いつもよりもさらにとげとげした声が聞こえてきた。
ここしばらく細胞もご機嫌斜めで、なかなか彼女(ボス)の望むようなキレイなデータを出せないでいたのは事実だったけれど、まさか、それほど不興を買っていたとは想像もしていなかった。
「トシ、あなたとプロジェクトを共有する上で、コミュニケーション に不安を感じるという声があがっているの。あなたの意見は?」
「冗談でしょう、うまくやっていると思いますけど。アハハハハ… あれ。」
確かに、このコミュニケーションには不安を感じる。 たった一人のエイジアンの陽気な受け答えはお気に召さなかった らしい。ミセス・ティングル3)に似たボスの目は、残念ながら笑ってはくれなかった。
「トシ、1週間以内に、あなたの医療英単語の知識を100倍にし なさい。できなければ解雇よ。」
この国で黙るのは敗北と同義だが、残念ながら日本人(僕は…と言った方がいいか)はこういう押しにはめっぽう弱い。 Oh! 恐るべき競争の国アメリカ! 格差と平等の国の厳しい現実。確かに、同僚たちと比べて僕の英語はうまくはない。しかし、業務にはほとんど支障はなかったはずだ。
そもそも面接の時点で、僕の語学力については認識していたはず。専門知識に関しては、他のフェローに比べて正直僕の方が上のような
気もするし、実験だって僕の方が緻密だと思う。少なくとも無菌室じゃなくても実験の前に手は洗う。
変だと思う。少なくとも、僕は、
「いいこと、トシ。1週間後にテストをするわ。それにパスしなかったら…。」
かくして、僕は1週間で、自分の医療英単語の知識を100倍になくてはいけなくなったのである。
100倍なんていう恣意的な数字といい、こんな無茶苦茶な言いがかりは、日本でいうリストラ部屋行きと同じことじゃないか!!
こんな小さいラボだと、「キャリアセンター」とか「人材開発セン ター」とかいうスペースもないってことか。
100倍っていっても、僕だって日本では立派な医者をやっていたのだ、専門用語の知識は人並み以上にある。まぁ確かに、英語の論文が“それなりに”読めるけど、日常的に自由自在に使いこなせるってほどじゃない。
そもそも、医療英単語なんて、アメリカ人だってわからないじゃないか!! こんな理不尽が許されていいのか!!
ぶつけたい言葉は頭から爪先まで駆け巡っているけれど、ぶつける相手がいないのだ。 そんなこんなで、僕は途方に暮れていたのである。

Prologue 2

「どうしたの?トシ。浮かない顔して。」
ふと顔を上げると、白衣の上からでも相像できる、まるでケルダールフラスコを逆さにしたような魅惑のプロポーションがそこあった。
「まるで滅菌処理し忘れて、死滅した細胞みたいよ。」
「そっちの方が、まだマシかもしれないよ。」
頭上で存外無造作に束ねられたブロンドが小刻みにゆれている。ラボの先輩ポスドク、ソフィーだった。フランス出身の彼女とは、 好きな歌手がゲッシュ・パティ4)ということで意気投合して以来 たまにランチを一緒に食べる仲ではある。
とはいっても、彼女が僕の手製弁当のライスボールを時折かすめ 取っていくだけだったりするのだが。
思った以上に深刻な僕の表情に、彼女は黒縁の眼鏡の奥から大きな瞳を見開いて見せた。
「どうしたのよ、本当にデータ消しちゃったりでもしたの?」
僕がボスに呼び出され、1週間で医療英単語の知識を100倍に しなければならなくなった状況の顛末を話し終えるまでにかかった時間は、5分程度だったろうか。
泣き言に聞こえないように気を配っていたつもりだが、やはり、 話を聞いてもらえるだけでも気持ちの整理ができる。 「黙って聞いていたソフィーは最後のフレンチフライをつまみあげ ると、小さいため息と一緒に言葉を吐き出した。
「そういや、クリスティアンが言ってたわ。あなた、先週、ボスの データの間違いを指摘したでしょ。ボス、えらくプライドを傷つけられたって当たり散らしてたって。」
クリスティアンはポーランド人の技術者だ。僕にはそんなこと一戸 も言ってなかったくせに。
確かにデータの誤りは指摘した。でも、間違ったデータのままである方がよかったはずもない。というより、研究技術者として当然 の職務だと思う。
「間違ったことしてないって顔ね。」
「いや、僕の出したデータが彼女の期待していたデータと違うって言われたんだ。イライラしてたせいか、彼女、僕の機械の使い方 が適切じゃないんじゃないかって言ってね。僕は同タイプの装置は日本でも使っていたので、間違っていないと答えたよ。そしたら、私が見本を見せてやるって話になってね。」
「で、彼女の操作方法が適切じゃないって指摘したわけね。トシ、 あなたの前任者のドイツ人フェローが、同じようによかれと思った 進言をして解雇されたのを知らなかったの?」
まったくもって初耳だ。そもそも、希望するデータが出ないなんてことでイライラしてたら 研究なんてできるもんじゃない。 半ば呆然としている僕に、ソフィーはさらに追い討ちをかけた。
「前任者のドイツ人は、肘の高さまで積まれた過去のデータ10万件を、1週間以内にデータベースに打ち込めって言われたらしいけど、あなたは?」

Prologue 3

「トシ、あなたは優秀よ。こんなことで解雇されるのなんて馬鹿 げてる。でも、私も立場は同じ、ボスに意見することはできないわ。 要するに、あなたに残された時間は1週間しかない。この1週間で 医療英単語を100倍マスターしなくちゃいけないってこと。」
「無理だよ。100倍だぞ。そもそも100倍なんて数字に もないじゃないか。リストラの口実に過ぎないよ。そある! ポスドクで採用されるぐらいの専門知識は持っているんだね
10倍なんて数字になんの根拠
ないよ。そもそも僕だって、
「最初から無理だなんて思ってたら、実験なんてできないんじゃない?」
ソフィーは父親がアメリカ人、母親がフランス人のハーフで、フランス人特有の英語のフランス語読みがまったくないネイティブだ。
「トシ、あなたは日本で医師の免許を取った時、日本語の専門 用語ってどう覚えたの?」
「それはもう、一所懸命に覚えたよ。まるで、英語の試験対策みたいにね。」
「あなたは、日本人なのに、日本語の専門用語をまるで英語の試 験のように覚えたわけよね?」 。
彼女が何を言いたいのかがいまひとつ理解できない。確かにそうだが、それは日本語だからできたことだし、100倍の英語の専門 用語を丸暗記するなんて、それこそあり得ない話だ。
「私は、もちろん英語はトシよりも上手よ。でも、専門用語なんて、 まったく知らなかったの。私だって、覚えなきゃいけなかった。専門 用語はネイティブでも自然に獲得できる言葉じゃないでしょ。」
「僕の困惑した表情を見て取ったのか、ソフィーは、コーヒーを一口飲むと意味深な微笑を浮かべた。
「トシ、私、自分の英語の専門用語を簡単に100倍にする方法知っているのよ。」
なんだって!! 専門用語を100倍にする方法だって!?
「そう、私の家に伝わる父さん直伝の専門用語を覚える方法。トシ、あなたにそれをマスターするという覚悟があれば、道は開ける かもしれないわ。」
僕は一瞬考え込んでしまった。 数時間前に、医療英単語の知識を100倍にしろという無茶振りをされ、さもないと解雇という理不尽な宣告を受けた。
そして、その数時間後、今度は同僚の美人ポスドクは、それを可能にする秘密の方法があるという。
僕はうつむいていた顔を上げると、目の前のソフィーの顔を見つめた。1週間後に、この美人と会えなくなるのもつらい。
「どうすればいい?7日しかないんだよ。」
ジャック・バウアー5なら7倍の時間があるじゃないかと怒鳴りそうだ。
正直、僕も生きるか死ぬかだ、こんなことで異国の地でまで、路頭に迷いたくはない。
「研究だって、やってもやらなくても結果が同じなんてことはないでしょ。何万回もの失敗のデータの上にしか、期待していた結果なんて現れないのよ。」
うん、そうだ。わずか1週間でも、無理な話じゃないかもしれない。本当に100倍 にできたかどうかのテストなんてできっこないはずだ。 それに、このソフィーが個人授業をしてくれるというのだから…。

1)ポスドク (postdoctoral fellow)
ポストドクター。博士号取得してすぐの任期付きの研究者のこと。英語圏では省略してPostdoc と呼ばれることが多く日本でもポスドクが通称である。文部科学省が1996年からの5カ年計画で策定した「ポストドクター等一万人支援計画」により急激に人数が増加したが、ポスドク後の アカデミックポストがあまりに少なく、35歳を過ぎても恒久的な就職先がないといういわゆる “高齢ポスドク”の問題が指摘されている。2009年文部科学省がポスドクを採用した企業へ1人 につき500万円を支給する施策を打ち出したが、正直なところ決定打になるとは思えない。
2)プース・カフェ (Pousse-cafe)
比重の異なるリキュールを利用し、比重の大きいものから順に積み重ねて色の層を作るカクテ ル。扱う酒に制限はなく、特に7つの層になるものをレインボーと呼ぶ。作成にはかなりの手間と 根気が必要である。Pousse-cafeはフランス語。意訳すれば“コーヒーの後で”。食後のコーヒーを飲んだ後に楽しむという意味らしいが、それじゃ食後の酒はほとんどがプース・カフェじゃないかとも思う。グチャグチャに混ぜて飲んでしまう方法と、層ごとにストローを差し込み、色を崩さないように飲むという2つの飲み方があるが、個人的には、美しく作りをあげたものをうち崩す快感を 味わえる前者の飲み方がおすすめ。当然、単なるリキュールの積み重ねであり美味ではない。
3) ミセス・ティングル(Mrs. Tingle)
映画「スクリーム』シリーズを手がけたケヴィン・ウィリアムスン初監督の心理サスペンスコメ ディ、邦題「鬼教師ミセス・ティングル』(1999年)の主人公。ハーバード大学への奨学金獲得を 目指す優等生と、それを阻もうとする鬼教師との壮絶な戦いを描く。特に、ミセス・ティングルの生徒の心を切り刻み、夢も希望も与えない言葉の暴力は必見である(『フルメタル・ジャケット』の ハートマン軍曹には遠く及ばないが…)。正直、あえて紹介するほど目立った実績をあげた映画で はないが、主演のケイティ・ホームズ(生徒の方でミセス・ティングルではない)はトム・クルーズの 再婚相手である。
4)ゲッシュ・パティ(Guesch Patti)
本名パトリシア・ポラス。1946年4月19日パリ生まれ。フランスの舞踊家・歌手・女優である。 日本では一般的にはまず無名の存在といっていい。フランスでは80年代後半から90年代にかけて活躍したが、ソフィーとトシがお互いにファンであったのは非常にレアな偶然だ。ちなみに、ピーター・グリーナウェイ監督が清少納言の随筆『枕草子」をモチーフに映画化した『The Pillow Book」に出演、彼女の曲もサウンドトラックに使われている。この映画のあまりのとんでもジャパネスクな耽美展開は、ある意味必見である。
5)ジャック・バウアー(Jack Bauer)
アメリカのテレビドラマシリーズ「24 -TWENTY FOUR-」の主人公。演ずるのはキーファー・サザーランド。最終的にどんな過酷な任務でも達成することがことができる。学習に詰 まった時は、ジャック・バウアーのように頑張れば必ず達成できるはずだ。ただし、ジャックはルールをよく破るが、本書の学習のルールは破らない方がいい。

田淵 アントニオ (著)
出版社: SCICUS;  版 (2009/6/29)、出典:出版社HP