より良い外国語学習法を求めて―外国語学習成功者の研究

 


 

外国語学習成功者の共通点はあるか?

様々なデータや理論を利用して、効果的な外国語学習法を紹介しています。本書は、外国語学習に関する膨大な量の先行研究をまとめあげ、解説しています。内容が重く、読みにくいと感じる部分もあるとは思いますが、外国語学習について詳しく知りたい方、研究をしていきたい方にはとても参考になる本です。

はじめに

人は何事をするにしても、相当な準備がなければ、伸びることも、登ることもできない。
新渡戸稲造

効果的な外国語の学び方について調べてみよう。そう思いついたのは、いまから15年ほど前のことであった。恵まれた環境で、子どもの頃から学習を始めることのできた人たちを除けば、 外国語を高いレベルまで習得するのは無理なのだろうか。成人になってからの外国語学習には、あまり成果が期待できないの だろうか。もしそうだとすれば、外国語教育など、たいして意味がないのではなかろうか。このような疑問が出発点となった。

当初7、8年あれば、なんとか目処が立つだろうと考えていた。しかし、おおいに見通しが甘かった(明らかにメタ認知方略の失敗である)。外国語教育学の研究は、ここ数年の間に飛躍的に量が増え、文献をレビューするだけでも相当な時間が必要となった。また、学生たちには一つの研究アプローチだけにこだわるなと教えている手前、「まずは兜より始めろ」ということで、仮説検証的な量的アプローチだけではなく、仮説形成的な質的アプローチにも手を染めることになり、そのおのおのでいくつかの研究を進めたためか、予想外に苦戦を強いられてしまった。

このため、気がついてみると、結局十数年の時間を費やしてしまうことになった。これから紹介する研究の内容が、十数年の年月に値するものか否かは読者諸賢のご判断にお任せするとして、とにかく一つの区切りをつけるという意味で、一連の研究を、質的アプローチの部分を前面に出しながら、本書にまとめてみた。口の悪い友人たちの「幻の本はまだか?」の問いや、学生たちの「はやく読ませてくださいね」と言う熱い(?)激励にようやく応えることができ、少しホッとしている。

本書は、まず第1章において、研究の契機と意義をまとめることからはじめる。続く第2章では、外国語学習の成否が年齢という要因だけで語られる風潮に疑問を呈し、文献レビューを通して、成人の外国語学習の可能性を探ってみることにする。第3章では、前章での議論を受けて、成人の外国語学習の成否を決める重要な要因の一つとして学習方略(=方法)をとらえ、その定義をおこない、いくつかの実証研究をもとに、方略は学ぶことができる(=教えることができる)ものでることを示す。

第4章では、これまで学習方略がどのように抽出・分類されてきたのかを、方略の選択や使用に影響を与える学習者変数との関係も含めて概観したのち、北米中心の研究に対して、いくつかの疑問を呈する。これを受けて、第5章からの3章(5、6、7章)を使い、12才以降に学習を始め、日本の外に出ることなく高いレベルの外国語能力を身につけた学習成功者の方略を、質的アプローチで記述していく。続く第8章では、先の3章で明らかにされた学習方略の共通項が、外国語教育学とその関連分 野の実証データや理論と、どの程度の整合性を持つのかを検証する。

第9章には、ここまでのまとめとして、学習を成功に導く可能性を持った方略とはいかなるものなのかを記述してみる。最終章の第10章では、これまで筆者がおこなってきた量的アプローチによる研究のうち六つをまとめ直し、前述の質的アプローチによる研究とも関連づけて、いわゆる三点測量 (Triangulation)の試みをおこなう。なお、巻末には、学習方略や年齢要因などに関する網羅的な参考文献リストを掲載する。

本書の出版に際しては、実に多くの方々から貴重な助言や協力、励ましの言葉をいただいた。まず、関西大学の同僚からは、かけがいのない学問的刺激を受けた。とくに、斉藤栄二、中島 露、北村裕、宇佐見太市、河合忠仁、杉谷眞佐子、山本英一、八島智子、吉澤清美、菊地敦子、山根繁、靜哲人の各氏 (順不同)には、いろいろな面で刺激や励まし、ご助力をいた だいた。ここに記して深く感謝したい。

また、筆者の学生時代から、温かい助言と指導を惜しまなかった恩師の河野守夫先生 (神戸市外国語大学名誉教授)、K. Bailey先生(モントレー大学院教授)、前任校の時代から親しく接していただいている小田 幸信先生(同志社女子大名誉教授)、枝澤康代、B. Susser、三根浩、B. Fujiwara、若本夏美の各氏(順不同)、折りに触れて研究への励ましの言葉をいただくR. Oxford先生 (メリーランド大学教授)、参考文献リストの作成と校正に協力を惜しまなかった教え子の池田真生子氏、研究や議論に参加してくれた学会の仲間、多くの院生・学部生の諸君、そして安息の場所を提供してくれた家族にも、この場を借りて心より感謝したい。

最後になったが、この未曾有の出版不況のさなかに、本書のような研究書の出版を一瞬のためらいもなくお引き受けくださった(株)松柏社社長の森信久氏、ならびに、遅れがちであった編集作業で大いに筆者を助けてくださった担当の森 有紀子氏 に、衷心より感謝の気持ちをあらわしたい。

2003年5月
千里山の研究室にて、
竹内理

本書の各章は、以下の助成金を受けておこなわれた調査・研究を基徴としています。

1995年度科学研究費補助金 奨励研究 A
第3、4章における文献研究の一部
1996年度 科学研究費補助金 奨励研究 A
第10章における実証研究の一部
1998年度-2002年度科学研究費補助金基盤研究 B2
第5章における実証研究の一部、
第10章における実証研究の一部
2001年度-2002年度 関西大学学術共同研究資
第8章における実証的・理論的裏付けの検証
2002年度 関西大学学部共同研究費
第2章における臨界期仮説の検討

竹内 理 (著)
出版社: 松柏社 (2003/12/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 ハンガリー人の教授
1.1 ハンガリー人の教授
1.2 驚くべき結末
1.3 カトー・ロンブの学習記録が語るもの
1.4 関口存男の学習記録が語るもの
1.5 学習成功者の研究へ

第2章 12才では遅すぎるのか
2.1 臨界期とは
2.2 臨界期仮説を支えるデータ
2.2.1 発音面でのデータ
2.2.2 文法面でのデータ
2.3 臨界期はなぜ生じるのか
2.4 反証の存在:臨界期は絶対か
2.4.1 敏感期という考え方
2.4.2 発音面での反証:自然環境
2.4.3 発音面での反証:訓練環境
2.4.4 文法面での反証
2.4.5 臨界期の神話
2.5 開始年齢以外の要因

第3章 学習方略とは何か
3.1 方略の定義
3.2 方略は教えることができるのか
3.3 データを誰から集めるのか
3.3.1 特異な学習成功者の場合
3.3.2 早期学習者の場合
3.3.3 本書で対象とする学習成功者たち

第4章 先行研究の示すもの
4.1 先行研究の範囲
4.2 Nida(1957)の研究
4.3 Rubin (1975)の研究
4.4 Stern (1975)の研究
4.5 Naiman et al. (1978) の研究
4.6 Rubin & Thompson (1982) の研究
4.7 O’Malley & Chamot (1990) の研究
4.8 Oxford (1990a) の研究
4.9 Cohen (1998)の研究
4.10 学習者変数と環境変数の影響
4.11 まとめ

第5章 大学生の学習記録が語るもの
5.1 質問紙SILLの問題点
5.2 日本人大学生の学習記録:目的と方法
5.2.1 目的
5.2.2 被験者
5.2.3 データ収集・分析の方法
5.2.4 方法論に関する若干の考察
5.3 日本人大学生の学習記録:結果と解釈 85
5.3.1 上位群の学習方略
5.3.2 下位群の学習方略
5.4 まとめ

竹内 理 (著)
出版社: 松柏社 (2003/12/1)、出典:出版社HP

第6章 達人たちとのインタビューが語るもの
6.1 「達人」とは
6.2 被験者とデータ収集・分析の方法
6.2.1 被験者
6.2.2 データ収集・分析の方法
6.3 達人たちとのインタビュー:結果と解釈
6.4 まとめ

第7章 成功者の著した書籍が語るもの
7.1 成功者の著した書籍
7.2 データ収集・分析の方法
7.2.1 対象とした書籍
7.2.2 分析の方法
7.3 成功者の著した書籍:結果と解釈
7.4 まとめ

第8章 理論や実証データとの整合性169
8.1 背後にある理由をさぐる
8.2 使用機会の増大と一段上の言語使用の必要性
8.3 「深く聞く」ことの大切さ
8.4 「意味を聞く」ことの大切さ
8.5 音読や音声化の有効性
8.6 行動主義的な基盤形成の重要性
8.7 「流暢さ」と「正確さ」のトレー
8.8 発音・韻律への強いこだわり
8.9 多重経路と手がかりの大切さ
8.10 意識化の必要性
8.11 まとめ

第9章 成功につながる学習法とは
9.1 個人差と共通性
9.2 メタ認知方略では
9.3 スキル別の方略では:リスニングとリーディング
9.4 スキル別の方略では:スピーキングと発音・韻律
9.5 スキル別の方略では:ボキャブラリー
9.6 スキル別の方略では:ライティングと文法
9.7 おわりにかえて:外国語学習に王道はあるのか

第10章 量的アプローチによる研究
10.1 量的アプローチからの眺め
10.2 量的アプローチによる研究:その目的
10.3 研究
10.3.1 被験者
10.3.2 方法
10.3.3 結果と解釈
10.4 研究2
10.4.1 被験者
10.4.2 方法
10.4.3 結果と解釈
10.5 研究3 220
10.5.1 被験者
10.5.2 方法
10.5.3 結果と解釈
10.6 研究4
10.6.1 被験者
10.6.2 方法
10.6.3 結果と解釈
10.7 研究5
10.7.1 被験者
10.7.2 方法
10.7.3 結果
10.7.3.1 分散分析の結果
10.7.3.2 相関分析の結果
10.7.4 解釈
10. 8研究6
10.8.1 被験者
10.8.2 方法
10.8.3 結果と解釈
10.9 まとめ

付録
1. SILL for ESL/EFL (Ver.7.0)
2. 読解方略に関する質問紙(Ver.3.2)

参考文献
初出一覧
索引(英語)
索引(日本語)

竹内 理 (著)
出版社: 松柏社 (2003/12/1)、出典:出版社HP