英語はもっと科学的に学習しよう

科学的・効率的な英語習得の正しい手順

×とにかく文法 ×やたら音読 ×ひたすら暗記→これらは全部ダメです。

本書は、第二言語習得の研究成果に基づき、科学的事実を示しながら、効果的に語学を身につける方法を解説した本です。語学の学習では、学習法と動機付けの問題があるとし、使える英語を身につけるための英語の学習法を紹介しています。また、インプットとアウトプットの有効性なども紹介しており、英語を効率的に学習できる方法が示されています。

科学的な理論に沿って勉強することで、効率よく外国語を身につけることができ、内容は、エッセイ風に展開されているためとても読みやすいです。自分に合った勉強法を確立することができるでしょう。

まえがき

人の心の中には、「信念」とか「ビリーフ」というものがあって、それははっきりとしたものの場合もあれば、漠然としている場合もあります。しかし、多くの場合、そこには何の科学的な根拠もありません。血 液型で性格が決まるなんていうのは、まさにそれです。この仮説を支持する科学的データはありません。し かし、なんとなく信じられている。

僕自身、高校生のときの生物の授業で調べた結果B型だったので、ずっとB型だと思い、「自分は典型的 Bだ」などと考えていたのですが、手術をしたときにA型だということが判明しました。そこで血液型に関 する本を読んでみると、なるほど、自分にはA型的なところもある。まあ、どのタイプの特徴も、だいたい 誰にも当てはまる部分があるわけです。

今、手元にたまたまUCLAの卒業生に送られてくる雑誌があるのですが、この雑誌には、UCLAの教 授の最先端の研究成果を一般向けに紹介する記事が毎回出ています。
今回は、記憶の専門家のある心理学者の記事がのっているのですが、それによると、「一般的に人々が記 憶にいいと思っている方法と、実際に科学的に明らかになった事実とはずいぶんとかけ離れている」という ことです。このようなことは、世の中にはたくさんある。

人々は限られた経験に基づいて信念やビリーフを持つようになり、多くの場合その漠然としたビリーフに 従っていろいろ行動しますが、そこにもう少し科学的なアプローチを入れたらいいのではないかと思われる ことはたくさんあります。英語学習もそのひとつです。

ちまたに、英語学習法に関する本はたくさん出ていますが、多くの場合、個人の経験やビリーフにもとづ いて書かれたものです。大量のデータの蓄積から科学的に導きだされたものではありません。その本を書いた本人にしか効果はないだろうな、ということもよくあります。
本書は、そのような個人のビリーフではなく、科学的に導きだされた外国語学習理論、すなわち「第二言 語習得(SLA)」という学問分野の知見を、一般の英語学習者向けに還元するという目的で書かれています。

英語学習がうまくいかないと言う人はたくさんいます。そしてそれは、理論から見たら当たり前というケースも多いです。
本書では、理論的なことは最低限に押さえて、「具体的にどうしたらいいのか」、という点にしぼって書 きました。もう少し理論的なことが知りたい方は、僕がすでに書いた何冊かの本をご覧いただければと思います。

海外に行かなくても、日本で英語はできるようになります。それは、ただ単に必要な学習ができるかでき ないかにかかっています。その道筋をできるだけわかりやすく書きました。英語が使えない人の理由は2つ です。

「やり方が間違っている、効率が悪い」
「学習にかける時間が不足している」

前者は学習法の問題、後者は動機づけの問題です。両方が欠如している人も多い。
本書を参考に、使える英語を身につけてほしいと思います。Where there’s a will, there’s a way. 「意志あ るところに道は開ける」と言いますが、意志だけではだめなのです。「正しい」道を開けるよう、本書を参考にしてください。
なお、本書の執筆は、筆者がオランダ、マックスプランク心理言語学研究所に客員研究員として滞在中に行われました。快適な執筆環境を提供してくれたホストのロバート・バンバリン氏に感謝いたします。ま
た、本書第2章の内容は、名古屋学院大学で行った講演「英語を勉強したことがいかに私の人生を変えた か」に基づいています。
最後になりますが、中経出版の城戸千奈津氏、細田朋幸氏には企画の段階より大変お世話になりました。
2013年1月
白井恭弘

白井 恭弘 (著)
出版社: KADOKAWA/中経出版 (2013/1/30)、出典:出版社HP

もくじ

まえがき

第1章 使える英語を身につけるためにとりあえずこれだけは理解しておこう
まず何よりもインプット(聞くこと)がカギ
大量のインプットと少量のアウトプット(話すこと)が学習の基本
スピードが身につけば使える英語が生きてくる
なぜ日本人は英語ができないか~日本語と英語の間に距離があるのも難しさの原因~
「使える英語」を身につける必要性はますます高くなっている
インプットの少ない今の学習法を根底から見直そう

第2章 海外留学をしなくても「使える英語」を習得できる
第1節 プロレスで英語に出合った小学生が海外に出ずに英語を身につけるまで
学習者はひとりひとり違う
たくさんのケースを体系的に研究することの必要性
とりあえず自己紹介
ピッツバーグ大学
【Column】ピッツバーグというところ
過去形と進行形の研究
どのようにして英語を学習してきたか
英語との出合い〜祖父とプロレス英語~
仲間がいれば動機づけが強くなる
競馬に関する大量の文章を読み、国語力がアップ
競馬の予想で「仮説を立てて検証する」訓練
「エルピー、エルピー」は「レット・イット・ビー」
子供心にもショックだった「英語が通じない」
落ちこぼれの高校時代
「現役合格できなければ就職」でスイッチが入る
多読・直読直解の訓練が「使える英語」の基礎
ネイティブの英語がまったくわからない
分野をしぼって大量にインプットする
アウトプットにはサークルが一番
サークル活動はコミュニティ・オブ・プラクティスだった
環境破壊ドキュメンタリーを見て教師の道へ
「インプット仮説」を応用したプログラムで偏差値が10アップ

第2節 アメリカ留学からコーネル大学へ
7年間の英語教師時代にTOEFLはほとんど伸びなかった
TOEFLの得点を上げた学習法
目標に特化した単語学習
文法は繰り返し学習
リスニング力を伸ばすには
「聞き流し」と「集中リスニング」
試験直前の「英語漬け」が効果的
試験当日も英語漬け
【Column】 「飛行機が落ちてもいいや」という達成感
コーネル大学でテニュア審査を受ける
【Column】 Welcome to the other side!
これまでの軌跡を振り返ってわかったいくつかのポイント
怠けられない環境に身をおく
計算されたリスクを冒す
自分に力をつけると一生の財産
大切なロールモデル
動機づけは何でもいい
英語メディアにより情報の質を高める
人生は一度だけれどやり直しもきく

白井 恭弘 (著)
出版社: KADOKAWA/中経出版 (2013/1/30)、出典:出版社HP

第3章 SLAから見た効果的な英語学習法
第1節 英語習得のカギは「理解できるインプット」
自分の好きな分野を徹底的にインプットする
英語で「情報収集」する
教材が難しいときはタスク(作業)をやさしくする
ある程度理解できるものを何度も聞く
文法よりも内容理解を重視
言語ベースを増やすには例文暗記も有効
第2節 アウトプットなしには習得できない
アウトプットの本当の意味を知っておこう
アウトプットはインプットによる学習効果を上げる
アウトプット練習の方法
聞いた教材を文字で確認することで文法習得が進む
「独り言」「日記」「会話」は一番手軽なアウトプット
困ったことが起きたときに使うストラテジー
完璧な英語でなくても、意味を伝えればいい
多読だけではなかなかつかない語彙力を伸ばす方法

第4章 SLAの観点から答える英語学習法Q&A
Q1 ネイティブと話せば英語は使えるようになるか
Q2 音読で英語は使えるようになるか
Q3 最大限の効果を上げる教材とはどんなもの?
Q4 リスニング力はどうやって伸ばす?
Q5 英語は「突然話せる」ようになるか
Q6 TOEICテスト満点にどれだけの意味がある?
Q7 単語はどのくらい覚えたらいいのか
Q8 単語は丸暗記してはだめか。語源などから覚えたほうがいい?
Q9 発音記号を知ることは大事?
Q10 ネイティブみたいな発音にならなくてもいい?
Q11 多くの文を読むのと、ひとつをじっくり読むのと、どちらがいい?
Q12 ライティングの力はどうやって身につける?
Q13 映画を見れば、英語はできるようになるか
Q14 現地に行かないと英語は身につかない?
Q15 文法をマスターすることはやはり必要?
Q16独学で英会話や発音は身につくのか
Q17 英語学習はモチベーションを上げればなんとかなる?
Q18例文を大量に暗記すれば、英語は話せる?
Q19 日本人は本当に英語が下手?
Q20 日本語の力がないと、英語力も上がらないか
Q21 「読む」「書く」「聞く」「話す」どの技能から学ぶのがいい?
Q22 ひとりでできるスピーキングの練習にはどのようなものがあるか
Q23 ひとりで勉強したほうがはかどるが、友達と学習するときの注意点は?
Q24 適性の低い人は英語の習得ができないか
Q25 英語はどうしてこんなに例外が多いの?
Q26 物まねが得意な人が、語学が堪能になるの?
Q27 いくつになっても、英語学習を続けている限り上達するか
Q28 アメリカ人と日常会話をするためにはどうやって勉強すればいい?
Q29 英語を話すためには滑舌をよくしなければならない?
Q30 日本人は英語が苦手? 特に発音が下手?そうなら、その原因は?
Q31 学校教育で直接法を行うことは難しいか
Q32 リーディングができるのにリスニングができない人が多いのはなぜ?
本文デザイン/新田由起子(ムーブ)
本文イラスト/ツダ タバサ

白井 恭弘 (著)
出版社: KADOKAWA/中経出版 (2013/1/30)、出典:出版社HP

第1章
使える英語を 身につけるために
とりあえずこれだけは理解しておこう

中学、高校、大学と英語を勉強しても話せるようにならない、という人は多いと思います。なぜでしょう か。英語を勉強する時間が足りないからでしょうか。それももちろんあります。しかし、一番大きな問題 は、勉強のやり方に問題があるのです。
学校の勉強では、単語を覚えて、文法を覚えて、その単語と文法を使って、英語を日本語に訳して理解し
たり、日本語を英語に訳すことが中心です。このような練習は、言語を使う、という活動とはあまりにもか け離れています。もちろんこれらの勉強が無駄ということはありません。単語も文法も重要です。しかし、 それだけやっていては、「絶対に」英語が使えるようにはなりません。断言します。
泳げるようになりたいと思ったら、手の動かし方とか、足の使い方とか息のつぎ方の勉強ばかりしていて も、泳げるようにはならないのと似ています。車の運転でも、交通法規とか車の動かし方とかをいくら教わ っても、実際に運転しなければ運転ができるようにはなりません。
英語の学習も同じです。英語が使えるようになるには、実際に英語を「聞く、読む、話す、書く」ことが 必要なのです。つまり、どんなにたくさん単語や文法の「知識」を身につけても、それが実際に使える知識 になっていなければ、多大な努力は無駄になってしまう、ということです。

白井 恭弘 (著)
出版社: KADOKAWA/中経出版 (2013/1/30)、出典:出版社HP