英語コンプレックス粉砕宣言 (中公新書ラクレ (678))

受験勉強を終えた大学生も、社会人も

英語に対するコンプレックスは多くの日本人にとってなかなか払拭することのできない問題でしょう。読み書きはできるけど話せない、英語でのコミュニケーションが取れないという方が多いかと思います。

本書は、そんな劣等感から解放されるための学習法や対策が具体的に書かれています。

まえがき

本書は、月刊誌「中央公論」の企画で行った齋藤孝さんとの対談をもとに、雑誌には 掲載されなかった部分も入れて一冊の本にしたものです。齋藤さんとは初対面でしたが、 対談は毎回、とても話が弾んだので、紙幅の関係で誌面からは落ちてしまった話題が生 かせることになったのは、非常に嬉しいことです。
齋藤孝さんの印象―――最初は、びっくりしました。まず、ともかく速い。早口ではないのですが、頭の回転も、話の進めかたも、決断も、超高速。おかげで対談は、話題が途切れることなく、どんどん進み、次をどうするかもすぐに決まりました。その回の対談が終わるや否や、齋藤さんは即座に手帳を開き次回の日程を提案。私が慌てて自分の手帳を取り出し提案された日を確認していると、「一一時でどうでしょう」と時間の提案。「えーと、大丈夫そう」と答えると、それで即決。 あっという間に次回の日程が決まりました。

次に、驚くほどの創造力。感心するような表現や企画が次から次へと創出され、目を見張るようでした。「ペラペラ需要に応える英語教育」とか「ペラペラ・コンプレックスに終止符」とか「違和感のセンサー」とか、面白い表現が続出するのは、本書でたっぷり満喫できます。

さらに話に興が乗ってくると、手元のメモ用紙に何やら判読不能な図を描き始め、「ここで、こうしたら、こうなるでしょ。で、次にああしたら、こうなって、あっ、これで教科書ができますよ!」。驚いた私が「すごいですねえ」と感心すると、「僕ね、本を書くとき、こうやったらいいって、ずっと先まで見えちゃうんですよ。

企画の段階で、何から始めてどう進めて最後をどうするか、見通せちゃうんだな。僕って、天才かしら」。私は、「それを自分で言っちゃ、おしまい」などと突っ込みながら、内心は「だから、あのように次々と本を出版して、そのどれらがベストセラーになるんだ」と感嘆。考えながら書き、書きながらあれこれ考え、あっち寄りこっち寄りしながら一冊をようやく仕上げる我が身を振り返り、違うなあ、とため息をつくのでした。

違うといえば、英語教育に関する楽観性も、私とは正反対でした。なにごとにも前向きで、積極的な具体案が次々と出てきました。問題山積の小学校英語教育についても、「発音を教えましょう!」。「小学校の英語は、英語が専門ではない学級担任が中心なんで、発音指導はムリ。音声学を知らないで英語の音は教えられない」と反論しても、まるでめげない。齋藤「CDで音を聞かせれば?」鳥飼「ダメ、聞いただけでは発音できない」齋藤「DVDで発音しているところを見せれば?」鳥飼「ダメ、見ただけでは発音できない。

口をどう開けて舌をどう動かすかを説明しないと」のようなやりとりの後に、きわめつけの提案。「じゃ、そういう教科書を作って下さいよ」。そして「先生たちも助かるし、教職課程の学生なんか泣いて喜ぶなあ」と楽しそうにつぶやきながら、メモ用紙に何やら企画を書き続ける。小学校英語、このままではどうなるのだと悲観的な私に対して、この前向きな楽観性と積極性。あまりに悲観的な自分が露わで自己嫌悪に陥りながら、思わず引き込まれてしまうのでした。

そこで、教科書の前にまずは、この対談をまとめて本にしましょう、となったのが、本書です。身体論からコミュニケーションを考える齋藤さんの、「カラオケ英語学習」など発想力豊かな提案がつぶてのように飛び、目からうろこの齋藤式指南が満載です。

ただし、齋藤さんの提案は、奇抜で面白いだけではありません。外国語学習の基盤は母語である、だから訳すことは効果的だという主張は私と同じです。英語を学ぶ最終目標は、「意味のあるコミュニケーション」という主張も私の持論と重なります。今の英語教育の流れは自己植民地化だ、という点でも見解は一致しました。国語教育改革で「論理」が重視される点について「論理を理解することと心情を理解することはつながっている。文学が論理的でないというのは誤り」という意見にも同感です。最初は、「私とは違うな」と思っていたのですが、対談を重ねているうちに、気がついたら「その通り」「そうなんですよ」と深くうなづいていました。そして、対談を振り返って分かりました。

齋藤さんは対話しながら相手を理解し、それによって対応を変える柔軟性があるようです。これは相手によって主張をコロコロ変えるということではありません。そうではなく、自分が蓄えている内容の中から相手に合うテーマを引き出している感じなのです。たとえば、初回の対談では、どちらかというと英語教育の方法論など技術的な話題が多かったのですが、回を重ねるうちに、英語と母語の関係、言語と思考などについての割合が増えた気がします。相手の興味を見極めながら対話の内容を軌道修正する気配りは、コミュニケーションの極意ですが、それをしっかり実践していただいた対談でした。

さらに加えれば、齋藤さんのコミュニケーションは、難しいことや複雑なことも、あっけらかんと明るく楽しく伝えるのが特徴です。重くなく、軽やか。深刻な話題でも、暗くならない。ふっと明るいほうに切り替える言葉の力は、私にとって大いなる学びでした。

読者の皆さんにも、この対談を笑って楽しみながら、二人のメッセージを受け取っていただけたらと願っています。 鳥飼玖美子

鳥飼 玖美子 (著), 齋藤 孝 (著)
出版社: 中央公論新社 (2020/2/6)、出典:出版社HP

目次

まえがき

一章 混迷の入試制度改革を検証する
センター試験は悪くない/日本人に根強い「ペラペラ」コ ンプレックス/「話す力」をどう測定するのか/全国学力 調査の試験問題から見えること/読み書きができなければ話にならない/読み書きの英語教育は悪くなかった/サモアの小学校で見た徹底トレーニング型授業/「アクティブ・ラーニング」も基礎力が前提

二章 「英語植民地化」する日本
日常的に英語が必要な日本人は一%以下?/「吹き替え映画」への違和感/英語力で人の能力を測る危険性/大事な交渉ほど、プロの通訳者に任せるべし/英語の、植民地、になりたいのか/「授業をすべて英語で」の虚妄/異質な世界を知る――英語を学ぶ意味/姓名のローマ字表記をどう考えるか、

三章 (小学校編〉発音のペラペラ「感」を身につける
小学校の英語の授業に意味はあるか/スポーツのトレーニングのように/教職課程は音声学を必修にすべし/英語の 持ち歌で発音を学ぶ/「きらきら星」を英語で歌おう/聞き取れる快感を経験させる/目指すべきはペラペラ「感」 /「意味のあるコミュニケーション」は後から/ポイントは教師力とテキスト/鳥飼・齋藤版学習指導要領

四章 〈中学校編〉文法を「日本語で」教えよ
文法の基礎が分かっていない中学生/文法は優先順位をつけて教える/英文法を英語で教える必要はあるのか/ネイ ティブ・スピーカーの弱点/文法と音読はワンセットで/ 意味が分からないままの音読は無意味/英語の教材として“Swimmy”を/正しい発音をどう教えるのか/語彙力の強化は文学から/言語によって身体のモードチェンジが必要

五章 <高校編>「意味のある話」ができる力を身につける
難解な英文解釈がもたらす快感/なぜ英文解釈が苦手なのか/「英語で考えよ」で読解力はますます落ちる/リスニ ングの訓練が第一歩/日本語訳を読ませてからリスニングを/英文解釈で頭が良くなる/最高品質の英文を読む楽しみはなぜ見捨てられたのか/「論理国語」の勘違い/論理的な「哲学」の底流にも感情がある/論理だけでは解釈できない/「頭の良い」高校生を育てよう

六章「とりあえず話したい」人のために
「スモール・トーク」と「インテレクチュアル・トーク」/ 日本人の「オーマイガー」はみっともない/困ったときの “by the way”/パーティでは “My Favorites Map” を用意せよ /「リアクション能力」を高める/真摯に相手の話を聞く /時事問題を英語でコメントできますか?/世界を渡り歩くメンタルを英語の曲で鍛える

column
イギリスの学校で、こんなほめことばを使うよ!鳥飼玖美子姉

あとがき 齋藤孝

構成/島田荣昭 本文DTP/今井明子

英語コンプレックス粉砕宣言

一章
混迷の入試制度改革を検証する

鳥飼 玖美子 (著), 齋藤 孝 (著)
出版社: 中央公論新社 (2020/2/6)、出典:出版社HP