暗記も努力も我慢もゼロで英語力向上
「多読」は、外国語習得における効果的な学習方法の一つです。本書では、英語に苦手意識を持たず、何より楽しく学習を進めていくことができます。これから多読を始めようとしている方、またすでに実践している方にも役立つ情報が満載です。
はじめに
最初から失礼します。この本を手に取ったということは、あなたは今までの英語学習に満足できていないのではありません か?
もしそうであれば、この本はきっと今まで英語学習に抱いていたモヤモヤやイライラをすっきりさせてくれます。
この本はまず、これまでの英語学習の欠陥を明らかにします。
それから、欠陥を補う方法として「多読」を提案します。
つらくて成果の見えない英語学習
日本は英語を勉強したい人であふれています。 そのほとんどの人は英語に苦手意識を抱き、それを解消しよ うとして努力してさらに落ち込み、時には傷ついて、それでも いつか英語を習得したいと考えていると言っていいでしょう。
これまで皆さんがやってきた英語学習はつらいものだったで しょう。 しかも、成果は思うように上がらなかった…。
例えば、もし身近にTOEICテスト800点以上、900点以上な んていう「上級者」がいたら、こう尋ねてみましょう。
「ペーパーバックは読めますか?」
「映画やドラマは字幕なしで楽しめますか?」
「緊張せずに英語を話せますか?」
いわゆる上級者でも、どれか一つでも「もちろん」と答えられる人はめったにいないようです。
でも、英語学習がつらく成果が見えないのは、皆さんの努力 が足りないからではありません。まして能力が足りないからで はありません。
(日本語が使えれば、英語を習得するための潜在能力としては十分!)
実は、悪いのは、これまでのさまざまな学習法なのです。いや学習法という考え方そのものが、私たちの前進を邪魔しているのです。
学習法そのものに欠陥があったなんて、にわかには信じられ ませんよね。そこで「第1章 これまでのあなたの英語学習法は間違いだらけ!」で、学習法の大きな欠陥と、根本的な対策についてお話しします。
多読はまったく新しい道
この本では、つらく苦しい学習法に替えて、ゆったり楽しい道を紹介します。
それが多読です。多読はまったく新しい道です。とても変わっていて、とても本当とは思えない、眉に唾を付けたくなるような方法です。
多読には、1つのモットーと2つの特徴があります。どれもこれまでの学習法とは正反対のものです。 いや、すでに「学習法」と呼ぶことさえ似合わない…..。 英語学習とさっぱり手を切るために、以下をご覧ください。
多読のモットーは「楽しく!」
学習法はたいていその学習法の提唱者が実践した方法を唯一 の道としてレールを敷き、誰でもそのレールに従って進むこと を要求します。 ところが、その提唱者の方法がぴったり合うという人はそう多くはないわけで、英語学習のモットーはたいてい自分には合わないやり方で「頑張る」「継続」「コツコツ」「根性」「辛 抱」することになります。
「頑張る」と力が入ります。力が入ると頭も心も固くなります。固くなった頭や心は新しいことを受け付けません。
多読のモットーは「楽しく!」です。 「楽しく!」は「頑張る」よりはるかに強力です。 楽しいことをしていると、体も頭も心も喜びます。 世の中に対して肯定的になって、新しいことを柔軟に受け付 ける――。
多読が前提とする心と頭と体の状態はそういうやわらかさ、 しなやかさと言えます。
楽しく多読した人たちはどうなるか?
「楽しく!」は人によって違うので、道は多読する人の数だけあります。
「第2章「多読」にはどんな効果があるのか?」で、さまざまな多読における成長の目安と実例を紹介します。
多読の特徴<その1>多読三原則で頭を柔軟に!
心や頭のやわらかさやしなやかさを前提にするなんて、これ までの英語学習にはなかったことに間違いありません。けれど も多読は英語学習ではないので、一見とんでもないと思えるようなことを言わせてください。
1つ目は、多読は「多読三原則」にのっとって読んでいくこ と、2つ目は、絵本から始めることです。 順番に話しましょう。
まず、多読三原則です。
1 辞書は捨てる
2 分からないところは飛ばす
3 自分に合わないと思ったら投げる
捨てる・飛ばす・投げる――英語学習ではあり得ない指針で すね。そこで…
「第3章 「多読」を可能にする3つの原則」で分かりやすく解説します。
多読の特徴<その2>絵本から始める
もちろん、いきなり英語のペーパーバックを辞書なしで楽しめ、なんて言いません。 多読の特徴の2つ目は、絵本から始めること。最初はなんと、文字のない絵本をたっぷり読みます。 文字なしですから誰でも「読む」ことができます。 次は、1ページに1語の絵本をたっぷり。 その次は、1ページに2語の絵本、次は3語、4語…。そんなふうに少しずつ長い英文に親しんでいくと、あれほど 難物だった英語が、情景や表情と一緒にじわっと心に染み込んできます。そしてごくやさしい絵本をたくさん読むと、挿絵入りのやさしい本が楽に読めるようになっています(なお、絵本 はどうしても嫌だという人にはいくつか別の道も用意してあり ますから、安心してください。こちら(王道のやり方に違和感 がある人へ)でお話しします)。
第一、英語を見ることが少しも苦痛ではなくなっている! いつもバッグに多読用の薄い本を忍ばせるようになります。 それを、電車やバスの中や待つ間にさっと取り出して読む癖 もつきます。 最初は、絵本を電車の中で広げるのは恥ずかしいかもしれませんが、中には面白くてそんなことは忘れてしまう絵本があっ たり、先を読みたくてわざわざ電車を乗り越すほど面白い挿絵 本に出合ったりするかもしれません。
歯医者やバスの待ち時間が楽しみになる!
絵本から始めて、楽しい楽しいと言っているといつの間にか ペーパーバックが読めているこんなこと、これまでに聞いたことがないのではありませんか? まずは、実際に始めてみましょう。
「第4章「多読」の始め方――まず100万語を目指して」 で、その方法をお話しします。
読むだけじゃない!
聞くも話すも書くも多読から
この本の著者の一人である私(酒井)が多読を提案したのは 2002年でした。
その時の著書『快読100万語!ペーパーバックへの道』(ち くま学芸文庫)ではまさか「読む」だけでなく、「聞く、話 す、書く」にもそのままつながるとは予想していませんでした。
ところが、実際たくさんの人が多読を始めると、すぐに「聞 く」にも効果があることが分かりました。そのうち書いたり話 したりもできるようになったという報告も出てきました(さら に試験対策にも有効!)。
それで私は考え直したのです。多読の考え方、多読の育てる 力はそのままほかの技能にも当てはまるので、今では4技能すべてを含めて「Tadoku」という表現をするようになりました。
「第5章 読むから観る、聴く、話す、書くへ」で、その事情 を詳しく書きます。
ネットで英語学習を越える!
インターネットの普及で外国語は一気に身近なものになりました。それ以前は英語に触れる機会はほとんど文字だけであっ たのが、音や映像も伴うようになりました。
幸い、多読の考え方はそのままほかの3技能に通じることが 分かってきました。
それとともに多読の素材も大きく変わりました。 2002年当初の素材は段階別読み物で、ほぼ文字だけでした。
でも、すぐに絵本がとても有効だというので、文字+絵 とな りました。
続いて朗読CDやダウンロード音源が加わって、文字+絵+音と豊かになりました。
そこへさらに YouTubeやDVDやネット配信が加わって、文 字+絵+音+動画 になりました。 いよいよ外国語を実際に使われるのと同じ環境で、丸ごと疑似体験できるようになったわけです。
これこそ多読から(ほかの3技能も含めた) Tadokuへの展開 を可能にした大きな変化でした。
この本では、従来の多読本にはない音声や映像の情報を、 「第6章 広いネットの空間で自分に合った素材を探す方法」で たっぷり紹介します。
多読を始めるといろいろ疑問は湧く・・・
第6章までで、多読の考え方とやり方と素材をじっくりお話ししますが、従来の英語学習法とは正反対なので、いろいろ疑問が出てくるはずです。
この本の著者は、過去15年以上の間に何千人という人たちの 多読を間近に見て、その人たちの疑問や質問に答えてきました。そうした経験から、最もよく聞かれる質問を集めてまとめたのが次の2章です。
「第7章 多読についての疑問と悩みに答えます~始める 前、始めたばかりの人へ~」「第8章 多読についての疑問と悩みに答えます~実践中の辞書を捨てるなんてできない、分からないところを飛ばすなんてもってのほか、絵本はどうしても嫌だ……そうして始める前の疑問に第7章で答えます。また、始めたけれどもレベルは どうやって上げるのか、再読してもいいのか、といった始めて からの疑問にも第8章で参考になる答えを用意します。
また、ここにない疑問や質問にお答えするために、インター ネット上の質問フォームも用意しました(こちらに案内のある ウェブページ一番下にあります)。
2002年当時は、「多読」をGoogleで検索しても10件ヒット したかどうか。それが今では82万5000件もヒットします。
多読は広がると同時に深まりもしました。読むから聴くへ、 話すへ、書くへと深化して、それらをまとめてTadokuと呼ぶようにもなりました。
この一冊で、2002年以来の多読の成果を実感し、Tadokuを通してあなたの英語の未来を予感していただければと願っています。
酒井邦秀
目次
はじめに
第1章 これまでのあなたの英語学習法は間違いだらけ!
これまでの学習法の問題点とは?/多読の吸収量対英語学習の吸収量/多読の読書速度対英語学習の読書速度/多読の質対英語学習の質/多読は楽しい!
第2章 「多読」にはどんな効果があるのか?
多読を始めるとこんな変化が!/多読の効果が感じられないケース/多読に関するよくある質問/その道は、ゆっくり登る広い坂道/2歳から80歳までの多読体験談
第3章 「多読」を可能にする3つの原則
あなたの心と頭のマッサージ、「多読」/辞書を捨てよ。多読 の街へ出よう/分からないことは、なかったことにする/究極 の荒業、読めないなら投げる/多読三原則、そのココロは?/富士山を目指して、まずは目の前の一歩/仲間は自分を引き上げてくれる
第4章 「多読」の始め方――まず100万語を目
指して 1ページ1行の本から始めよう/多読のオーソドックスな取り 組み方/王道のやり方に違和感がある人へ/そもそも本を読む ことに抵抗がある人へ/ハードルを上げずにのんびりと
第5章 読むから観る、聴く、話す、書くへ
読めるだけじゃない! 多読の効用/正確なのが絶対じゃない /字幕を消して「多観」の世界へ/たくさん聴いて耳慣れさせ よう/添削、訂正なしのアウトプット法/「聴く」と「話す」両方に効果大の「シャドーイング」
第6章 広いネットの空間で自分に合った素材を探す方法
ネットで初めの一歩――まず絵本とアニメから/素材の幅を広 げる――やさしい言葉をたくさん/それぞれの道を行こう! 好きなものをたくさん/ネットで素材を選ぶときのヒント
第7章 多読についての疑問と悩みに答えます~
始める前、始めたばかりの人へ~
第8章 多読についての疑問と悩みに答えます~
実践中の人へ~
おわりに~やさしいことをやさしく、楽しいことを楽しく~
【コラム】
S氏の英語史
群盲象を評す
「脱学校英語」のススメ
やっぱり字幕を見ないと不安?
英語には顔がつきものです