「英語の学び方」入門

英語の学び方を1日で知る!

同じくらいの英語力の人が同時に英語学習を始めても、方法によって力のつくスピードが変わってきてしまいます。本書は、第二言語習得研究を基にして、英語学習をする時に知っておいた方が良い知識をまとめています。やる気をなくさず、バランスの良い英語力を身につけたい方におすすめです。

はじめに

本書のテーマは、「英語を学ぶときに知っておくべきこと」です。 英語学習のヒントとなるような知識をまとめています。また、英語 の2つの知識(ボキャブラリー・文法)と、4つのスキル(リスニング・ リーディング・スピーキング・ライティング)の学び方についても、具体 的に説明しています。

この本の内容の土台となっているのは、「第二言語習得」と呼ばれる研究分野です。「第二言語習得」(Second Language Acquisition, 略して“SLA”)とは、私たちが母語を習得したあとに、 2つ目以降の言語(例えば日本人にとっての英語)をどのように身につ =けることができるかについて研究する分野です。

私はこの SLA という分野で研究を行ってきました。本書では、 SLA の研究で得られた知見をもとに、「英語学習に役立つ知識」を まとめています。
現在、私は大学で学生に英語を教えていますが、それを人に話す と、「昔から英語が得意だったんですね」とよく言われます。

でも自分では、英語には人並みに(あるいはそれ以上に)苦労して きたという自覚があります。実際、大学時代は「どうすれば英語が 話せるようになるのか?」と効果的な学習法を探しまわり、さまざまな教材を試しては挫折するという経験を繰り返していました。

その後社会人になってから偶然出会ったのが SLA です。私はその面白さにたちまち心をつかまれ、すぐに会社を辞めイギリスの大学 院で研究することを決意しました。それから長い時間が経過しましたが、SLAへの情熱はますます強くなっています。それくらい、 SLAは面白い分野なのです(何がそんなに面白いかは、ぜひ本文をご覧ください!)。

世の中にはすでに、英語学習に関する本があふれています。なか でも多いのは、英語学習成功者が実践した方法を紹介する本です。 これは、いろんな人の学習体験について知れるという点では興味深 いのですが、どれもあくまで「個人的な体験談」なので、理論的根 拠(「ラショナール」と言います)に欠けます。一方、第二言語習得や 英語教育の専門家による本は、逆に理論的側面を強く打ち出しすぎ ていて、英語が苦手な読者には読みこなせないものが多いと感じて いました。

私は、理論と実践をつないだところに、英語学習のカギがあると 信じています。両者をもっと有機的につなげた本があればいいなと 思い、本書を書くことにしました。

本書の内容を、簡単に概観しておきます。

「最初のプロローグから第4章までは「理論編」として、英語学習 の基本的な考え方について見ていきます。取り上げるのは、「第二 言語習得」の視点から見た英語の学び方(第1章)、「第二言語」と して目指すべき英語力(第2章)、英語を学ぶモチベーションを維持 する方法(第3章)、英語学習全般に共通するプリンシプル(原則)( 第4章)です。

続く第5章から第9章までは「実践編」として、英語の2つの 知識(ボキャブラリー・文法)と、4つのスキル(リスニング・リーディング・スピーキング・ライティング)について見ていきます。それぞれ、 基本的な仕組みを押さえた上で、具体的な学習方法とおすすめの教 材を紹介しています。

手っ取り早く学習法を参考にしたい方は、理論編をスキップして 実践編から読み始めることもできます。また、「とにかくスピーキ ング力を高めたい」など、具体的な目的がある場合には、その章だけを読んで参考にするのもいいでしょう。

でも、おすすめは、最初から順番に読むことです。それは、「理 論」と「実践」の両面をバランスよく理解することが、長期的に学 習を続ける土台になるからです。ですので、できれば全体を通して 読んでもらえると、より一層、本書を役立ててもらえると思います。

私はこの本を、大学時代の自分に語りかけるつもりで書きました。 当時の私は、英語を使って世界中の人たちとコミュニケーションすることを夢見ながら、どうやって学んでいけばいいか分からずに試 行錯誤していました。そんな当時の自分に伝えたい内容をまとめた のがこの本です。

本書が、同じような思いを持ちながら、日々英語学習に取り組んでいる方々の役に立てれば幸いです。
新多了

新多 了 (著)
出版社: 研究社 (2019/8/22)、出典:出版社HP

『「英語の学び方」入門』 目次

はじめに
理論編
第1章「第二言語習得」から英語の学び方を考える
英語学習の「通説」は本当?
通説1 早く学習を始めれば、高度な英語力を容易に身につけることができる
通説2 英語をたくさん聴けば話せるようになる
通説3 海外留学をすれば英語が話せるようになる
英語学習に最も大切なことは? 8 「第二言語習得」という学問
第1章のまとめ
コラム 子どもの母語習得能力

第2章「第二言語」として目指すべき英語力とは?
「ツール」としての英語
「アイデンティティ」としての英語
英語化の進行と「複言語主義」
目指すべき英語力は「マルチ・コンピタンス」
英語力を高めるには、日本語力も重要
第2章のまとめ
コラム 2つの言語能力

第3章 英語を学ぶモチベーションのメカニズム
英語学習で最も大切なことは?
モチベーションとは?
「選択」のモチベーション
「理想的な将来像」
「実行」のモチベーション
内発的動機づけと外発的動機づけ
内発的動機づけを生み出す要因
自分で自分の学習を管理する
「振り返り」のモチベーション
モチベーション・グラフを描いてみる
自己定義的記憶
「ライフストーリー」をつくる
第3章のまとめ

第4章 英語学習のプリンシプル
「プリンシプル」とは?
6つのプリンシプル
プリンシプル1 英語を使っている自分の姿を思い描く
プリンシプル2 ロードマップをつくり、たえず更新する
プリンシプル3 習慣的に英語を学ぶシステムをつくる
プリンシプル4 「知識」と「スキル」のバランスをとる
プリンシプル5 「インプット」と「アウトプット」のバランスをとる
プリンシプル6 「個人」と「協働」のバランスをとる
第4章のまとめ
コラム 両極端の間で最適なバランスを探す

実践編
第5章 ボキャブラリーの学び方
ボキャブラリー学習の重要性
ボキャブラリーの「広さ」
基本となる語彙数
ボキャブラリーの「深さ」
「定型表現」とは?
ボキャブラリーはどのように記憶されているのか?
ボキャブラリー学習のポイント
辞書の使い方
記憶に定着させる工夫
第5章のまとめ

第6章 英文法の学び方
英文法を学ぶ意義
「明示的学習」と「暗示的学習」
「規範文法」と「記述文法」
「距離としての文法」
英文法学習のポイント
英語の文型
「使える」英文法の学び方
第6章のまとめ

第7章 リスニング・リーディングの学び方
リスニングとリーディングの共通点
リスニングリーディングの「目的」を明確にする
インプットの処理プロセス
ボトムアップ処理とトップダウン処理
インプット処理のプロセスに基づく学び方
リスニング・リーディング学習の方向性
集中型学習1音読
集中型学習2シャドーイング
集中型学習3パラグラフ・リーディング
拡大型学習1多読
拡大型学習2多聴
第7章のまとめ
コラム 英語テキストの構造

第8章スピーキングの学び方・
「とにかくたくさん話す」しかない
なぜスピーキングは難しいのか?
まずは「定型表現」を身につける
定型表現を覚えるときのポイント
「プレイン・イングリッシュ」を心がける
建設的な繰り返し
発音学習のポイント
「モノローグ」と「ダイアローグ」は異なる能力
「やりとり」の練習機会を持つ
第8章のまとめ
コラムトレードオフ仮説と計画時間の効果

第9章 ライティングの学び方
「書く力」が重要な時代に
書くことは考えること
そもそも「書く」とは?
ライティングのメリット
ライティングの難点
ライティング学習のポイント
学ぶために書く:ダイアリーライティング
書くために書く:ライティング・ジャンル
ビジネスライティング
アカデミックライティング
インターネットを使った英語ライティングチェック
第9章のまとめ
コラム ラーニング・ピラミッド

おわりに
参考文献

新多 了 (著)
出版社: 研究社 (2019/8/22)、出典:出版社HP