CD付 英語リプロダクショントレーニング ビジネス編: 通訳メソッドだから「確実に話せる」を実感できる! (CD BOOK)

留学なしでも英会話ができる!

本書は、英語リプロダクショントレーニングのビジネス編です。ビジネス編は、文章量がかなり多くなっており、入門編や通常版で物足りないと感じた方でも取り組みがいのある内容になっています。英語で話を振られた時の対応力の向上に非常に役立つ本です。

はじめに

ビジネスに即役立つ、社会人向けスピーキング・トレーニング

筆者は現在は大学教員をしていますが、プロ通訳者・翻訳者として活動し、通訳学校ではビジネスマンを対象に講師をしていた時期があります。また、現在も企業から英語研修を頼まれることもあります。

今年の初めに、ある大手メーカーで、通訳訓練法を使ったビジネス英語スピーキングの研修をした時のことです。学習意欲のある社員30人ほどが受講生でした。研修終了後に一人の男性社員が私のところへ来てこう言ったのです。

「自分は英語が苦手です。でもこういう英語のトレーニングならやってみたい。今回の研修は1回きりなので、一人で練習できるいい参考書はありませんか?」
時間の都合で詳しい事情は聞けませんでしたが、彼は何度も英語の学習で挫折 しているようでした。おそらくこう言いたかったのではないでしょうか。「目的の はっきりしない一般英語の学習は、なかなか上達しないし、あまりやる気が起き ない。しかし業務に直結する、ビジネスパーソン向けのスピーキング訓練ならやってみたい。英語力があまりない人でも取り組め、すぐに効果が上がるものがいい」。

結局、「いい参考書はありませんか?」という問いに対して、私はこう答えるしかありませんでした。「今日使ったテキスト、進め方は私のオリジナルで、同じようなビジネス参考書はないんですよ。これから私がいい参考書を作りますから、それまで待っていてください」。

“世界規模の人材争奪戦”が始まった

私は現在、大阪大学の非常勤講師として外国人留学生に通訳・翻訳の実務指導 もしています。私の授業を受講する外国人留学生の約半数は、すでに母国語(ま たは英語)と日本語の通訳・翻訳の実務経験があります。帰国後に、自国に進出 している日本企業で通訳をする学生もいます。最近は、日本企業が外国人留学生の優秀さを認めて積極的に採用するようになったので、また日本に舞い戻り、日本の企業に就職する学生も増えています。

こうして10年も教えていると、留学生を通じて、世界中の若者の英語力が手に 取るようにわかるようになります。世界の大学生の英語力は近年急速に伸びまし た。もちろん日本の大学生の英語運用力も、昔と比べると向上しましたが、それ でも、日本はアジアで一国だけ取り残されているのが現状です。「本書の学習をはじめる前に」(P.12~)でも触れていますが、アジア各国の若者は、学校の授業だ けで、英語で問題なくコミュニケーションする力をつけているのです。

ほぼ全世界規模で、若い世代が、学問・ビジネスの共通語として英語を使う時 代になった、といって間違いはありません。そのため世界中の大学・企業で、優 秀な人材の争奪戦が始まっています。当然ながら、日本企業も優秀な人材を放っておくわけがありません。最近は日本人大学生が就職後、たった数年で会社を辞めるケースが増え、日本企業は昔と同じように長期的に社員教育をするのが難しくなっています。そこで、即戦力となる優秀な外国人留学生を採用する企業が増 えています。また、英語を社内公用語にする日本企業もいくつか出てきていま す。これらは、世界規模で優秀な人材を確保するための必然の流れととらえることができます。すでに日本も“世界規模の人材争奪戦”に巻き込まれようとしているのです。

ビジネス英語スピーキングの画期的入門書

本書は、2011年刊行の『英語リプロダクショントレーニング』(以下『英語リ プロ」)、2012年刊行の『英語リプロダクショントレーニング入門編』に続く、 シリーズ3冊目に当たります。『英語リプロ」では、日本で英語を勉強してきた人 が「なぜ英語を話せないか」を明らかにし、通訳訓練法を一般学習者向けにアレ ンジした、一人でできるスピーキング・トレーニング法を紹介しました。幸い『英 語リプロ」は好評を得て版を重ねています。

シリーズ1・2冊目は一般学習者向けに執筆したわけですが、こうした“世界規模の変化”を身近に感じるにつれ、「ビジネスパーソンが“話せるようになった”と実 感できる英語のスピーキング・トレーニング本が日本人に必要だ」と思うように なりました。また先ほどの受講生の要望も強く印象に残っていました。そこに、 DHCからの“ビジネスパーソン向けスピーキング訓練の本を”という依頼を受けて執筆したのが、本書『英語リプロダクショントレーニング ビジネス編』なのです。

本書は、TOEIC5500~600点以上の英語力の人を対象に、ビジネス英語のスピー キングをどうやったら学べるか、どうしたら業務に直結する英語を身につけることができキャリアアップできるか、という多くの人の疑問に答えたものです。 私が本書執筆にあたって特に心がけたのは以下の3点です。

(1) 比較的平易な英語を用いたこと
一般にビジネス英語の参考書は、高度な内容、難しい英語を使ったものが多い ようです。ですが実際は、そんな難しい英語を使いこなせる日本人ビジネスパー ソンはほとんどいませんし、その必要もありません。簡単な英語でも十分に業務 を遂行できるのです。そういう考えから英語はできるだけ平易なレベルにしまし た。といってもあまりやさしくしてしまうと、「カタコト英語」になってしまうの で、TOEIC8500~600点以上の英語力がある読者を想定した、格調のある英語を 心がけました。
(2) 応用性(汎用性)の高い厳選されたシチュエーション
次にどの分野のビジネス英語を扱うかです。ビジネス英語と一口にいっても網 羅的に扱うと分厚い百科事典のようになってしまい、実用的ではありません。ビ ジネスのどの分野でも使う可能性があり、応用の効く20のシチュエーションに絞 りました。本書には500以上の重要単語・語句のクイック・レスポンス(詳細は後 述)の練習がありますが、これだけでもビジネス英語スピーキングの入門として 即効性があると思っています。
(3)“英語を使えるビジネスパーソン”になれる方法を明らかにする ビジネスで英語を使って活躍している人のほとんどが、海外留学経験があるか、もともと英語が得意であった上に企業の実務で磨かれた人がほとんどです。「あまり英語が話すのは得意ではない」、「今のところ企業の実務でも英語を使う機会 があまりない」というレベルの人にとっては、国際派ビジネスパーソンは「高嶺 の花」と思えるかもしれません。しかしビジネス英語入門の人でもやがて頂上に たどり着けるような“道筋”があります。その道筋を「本書の学習をはじめる前に」 (P.12~)に書きました。

将来グローバルに活躍したい大学生や、入社数年目の社員で今一つどうしたら いいかわからない、という人のために「当たり前」のことを書いたつもりです。 すでに第一線で活躍しているビジネスパーソンとっては「当たり前」のことでも、 些細なことで躓いている人が多いのです。頂上にたどり着くには、さまざまな障 害を克服していかなければなりません。たとえば皆さんは次の4つの問題をどう 克服していますか?
つまり

1 グローバル人材の前提となるTOEIC5800点以上を取得するにはどうしたらいいのか?(→「まず基本的な英語力を身につけよう」p.22)
2 そもそも社会人として、経済・ビジネス分野に精通するためにはどうしたらいいのか?(→「基本的なビジネス・経済知識を身につけよう」p.23)
3ビジネスパーソンとして、ライバルに差をつけるには?(→「広く、深く勉強する」p.24)
4本書でビジネス英語の基礎を勉強した後、自分の専門分野の英語(単語・語句) を身につけるにはどうしたらいいのか?(→「フリーランスの通訳者が使う裏 ワザ」p.25)
「本書の学習をはじめる前に」ではこれらの質問に、筆者のビジネス通訳の経 験、通訳指導の経験から、わかりやすく回答しています。

プロ通訳者もやっている“話すためのメソッド
『英語リプロ」でも書いたように、英語を話す力を劇的に向上させるには、1 日に最低30分は英語を話す訓練をしなければなりません。といっても、たとえ英 語国へ行っても、努力しなければ1日30分間英語で話す時間を取ることは困難です。まして日本で、1日に30分間連続で英語を話す練習をすることは、多忙なビ ジネスパーソンにとっては難しいことでしょう。しかし、このテキストを使って 1日30分練習すれば、30分間ずっと、英語を話す効果的なトレーニングができ ます。1時間練習すれば、1時間の効果的な話す訓練ができます。なぜなら本書 のStep 1~4の練習は、すべてひたすら口を動かすトレーニングのみだからで す。本書の構成は、かなりの練習量をこなす仕組みとなっているので、とりあえず3週間続けていただければ、「目が自然に動く」「話せるようになってしま できるはずです。
本書を活用し、皆さんが将来グローバル人材として活躍できることを祈っています。
最後に、素晴らしい編集技術で協力してくれたDHC出版部の宮川奈美さん、優れた英文テキストを書いてくれたMalcolm Hendricksさん、本シリーズを通して おしゃれなイラストを描いてくれたHACHHさんに心より感謝を捧げます。

2013年11月 小倉慶郎

もくじ

はじめに
ビジネスに即役立つ、社会人向けスピーキング・トレーニング
“世界規模の人材争奪戦”が始まった
ビジネス英語スピーキングの画期的入門書
プロ通訳者もやっている“話すためのメソッド
本書の学習をはじめる前に
英語が世界共通語となる時代
「死語」としての外国語教育
「死語としての外国語教育」の利点
制度疲労を起こした英語教育
英語を話せるようになるには
「通訳訓練法」とは?
「翻訳語彙」を転換しなければコミュニケーションができない
翻訳語彙を「使える語彙」に変えるには
まず基本的な英語力を身につけよう
基本的なビジネス・経済知識を身につけよう
「広く、深く」勉強する。
フリーランスの通訳者が使う裏ワザ
本書の使い方
Lesson 1 Meeting (Part 1) R&D brainstorming
会議1 開発コンセプト
Lesson 2 Meeting (Part 2) Market Segmentation
会議2 販売層のセグメント
Lesson 3 Meeting (Part 3) Cost Reduction Plan
会議3コストの見直し
Lesson 4 Negotiations (Part 1)
Negotiating price reductions
交渉1 値下げの提案と交渉
Lesson 5 Negotiations (Part 2)
Price negotiations and evasion tactics
交渉2 値下げの提案の回避
Lesson 6 Negotiations (Part 3)
Negotiating delivery date and shipping methods
交渉3 納期と納品方法の交渉
Lesson 7 Presentation (Part 1)
Presenting air-conditioners
プレゼンテーション1 電化製品のプレゼン
Lesson 8 Presentation (Part 1)
Question-and-Answer Session
プレゼンテーション1 質疑応答編
Lesson 9 Presentation (Part 2)
Presenting Food products
プレゼンテーション2 食品のプレゼン
Lesson 10 Presentation (Part 2)
Question-and-Answer Session
プレゼンテーション2 質疑応答編
Lesson 11 Dealing with complaints (Part 1)
Making a complaint
クレーム対応1 クレームをする
Lesson 12 Dealing with complaints (Part 2)
Receiving a complaint
クレーム対応2 クレームを受ける
Lesson 13 Asking Your Junior to Do Something for You
部下への仕事の依頼
Lesson 14 Checking and Confirming a Contract
契約書の確認
Lesson 15 Appealing to your boss during employee
performance evaluations
人事考課でのアピール
Lesson 16 Company introduction (Part 1)
Talking about your company’s history and what it does
会社紹介1 業務内容と社歴の紹介
Lesson 17 Company introduction (Part 2)
Talking about company structure
会社紹介2 社内組織と構造の紹介
Lesson 18 Culture shock seminar (Part 1)
The Japanese employment system
カルチャーショックセミナー1 日本の雇用形態
Lesson 19 Culture shock seminar (Part 2)
Japanese work flow
カルチャーショックセミナー2 日本的な仕事の進め方
Lesson 20 Culture shock seminar (Part 3)
Explaining paid time off and health care
カルチャーショックセミナー3 有給休暇取得と保険の説明

本書の学習をはじめる前に

英語が世界共通語となる時代

現在、世界の大半の国で、大学生や若い世代のビジネスマンが英語を話せるの は当たり前となっています。これはここ20年ほどの傾向です。1990年頃は、ソ連 や中国では、外国人と接することができる特別な立場の人しか英語ができません でした。第二次世界大戦前に日本の統治下にあった韓国や台湾も、戦後かなりの 間、実用的な英語ができませんでした。しかし、1990年前後を境に世界は大きく 変わりました。インターネットの登場とほぼ時を同じくして、世界中で若い世代 の英語運用能力が急速に伸びてきたのです。

大阪のある高校の先生から聞いた話です。モンゴルからの留学生(高校生)が、 あまりに英語が流暢に話せるのでびっくりして、どうしてそんなに英語が話せる のか詰問したというのです。彼は、日本語・日本文化に興味があって1年間の交 換留学で日本にやってきたわけで、モンゴル人の高校生として特別英語ができる わけではありません。英語圏への留学経験があるわけでもなく、学校の授業だけ で英語を習得したのです。そのことを確認して、「やっぱり日本の英語教育はどこ かおかしいんじゃないか」とこの先生は頭を抱えていました。

しかし、世界で英語ができる若者はこのモンゴルの留学生に限りません。ほん の20数年前まで、英語が話せるソ連人、中国人は稀でした。しかし、今や旧ソ連 圏、ロシアの大学生は驚くほど英語ができるようになり、中国本土の大学生は、 今では香港の学生よりも英語が話せるようになっています。もちろん韓国、台湾 の大学生も流暢に英語を操れるようになっています。かつて英米の植民地であっ た、インド、シンガポール、マレーシア、フィリピン、香港などであれば、英語 が流暢に話せるのは当たり前でしょう。しかし、その他の地域で若い世代の英語 運用能力が急速に伸びているのです。

日本でも最近の大学生の英語運用力は、昔と比べると、かなり上がっています。 それでも中国、韓国、インドネシア、タイ、ベトナムといった英米の植民地支配 をうけなかった地域と比べても、アジアで一国だけ取り残されているのが現状で す。世界的に見ると、イスラム圏とスペイン語圏がやや英語習得が遅れていると はいえますが、ほぼ全世界規模で、若い世代が、学問・ビジネスの共通語として 英語を使う時代になった、といって間違いはありません。

世界規模で若者が英語が話せるようになったそのため世界中の大学で、優 秀な学生の争奪戦が始まっています。東京大学で秋入学を試みたり、京都大学で は教養科目の講義の半分を英語で行う方針を発表しています(2013年時点)。ヨー ロッパでは母国語を人一倍誇りにおもうフランスでさえも、大学で英語で授業を 行おうとしています。これらはすべて、世界の若い世代への英語の普及とそれに 伴う優秀な学生の争奪戦が背景となっている、と考えていいでしょう。もちろん ビジネス分野でも、ますます英語が国際共通語として使われているのは言うまで もありません。

とはいっても、アジアの中で急激に英語力を落とした地域もあります。それは 香港です。イギリスの植民地として、あれほど英語がうまかった香港人ですが、 現在の大学生の英語力は急激に低下しています。昔の香港を知る人には信じられ ないかもしれません。1997年の香港の中国返還後、中国政府の意図的な英語つぶしがあったのでないかと勘繰らざるをえません。一方、中国本土では、ここ20年 の間、大都市を中心に、小学校レベルから集中的な英語教育を行ったもようです。 その成果が現在の大学生に現れており、いまの中国(本土)の大学生の英語力は 一世代前とはまったく変わりました。ここ1~2年(2011、12年)、香港の大学生 自らが「いまは、香港よりも中国本土の大学生の方がよっぽど英語ができるよ」 と口を揃えて言うようになりました。

「死語」としての外国語教育

「死語」としての外国語教育。耳慣れない言葉かもしれませんが、教育法として は決して珍しいことではありません。「死語」とは「現在は話されていない言語」
という意味です。文献等では読むことができるが、話せない言語を意味します。 たとえばヨーロッパでは、古典ラテン語、古典ギリシャ語は、死語として学ばれ ています。ラテン語を勉強する際に、ヨーロッパ人は驚くほど詳細な文法を勉強 していきます。そして自国語への訳読で理解していきます。一方で、発音に関し ては、当時のラテン語の発音を忠実に再現しようなどと思ってもいません。イギ リス人は英語に近い発音、フランス人はフランス語に近い発音、ドイツ人はドイ ツ語に近い発音でラテン語を読みます。もちろん、授業はラテン語で行われるわけではなく、それぞれの国の母国語で行われます。

こうして勉強したラテン語は、精密に「読む」ことはできますし、簡単なフレー ズ程度ならラテン語で言えるようにはなります。が、決して流暢に話せるように はなりません。しかも、もしもラテン語を話していた古代ローマ人が現代にタイ プスリップして現れたら、「彼らはラテン語らしいものを話しているが、発音が悪くて何を言っているのかよくわからない!」と嘆くことでしょう。
今挙げたヨーロッパ人のラテン語の学び方をまとめると次のようになります。

1 文法を詳細に学び形から理解する
2訳読で理解する。
3発音はあまり気にしない
4読めることが目標で、流暢に話せるようにはならない
5自国語で教える。

「あれ? これどこかで聞いたことある!」と思った人もいるでしょう。そうで す、これこそ日本の伝統的な外国語教育法なのです。「日本の学校英語をいくら勉強しても実用的な運用能力が身につかない、英語が話せない」と批判される最大 の理由は、日本が「死語としての外国語教育法」を無意識に”採用してきたから なのです。

「死語としての外国語教育」の利点 最近は評判が悪い、死語としての外国語教育ですが、もちろん利点もあります。何よりも、外国語を話す必要がない環境で、辞書さえあれば効果的に文献か ら知識を吸収できる、ということです。この教育法は日本の近代化に大きく貢献 したことは間違いありません。たとえば、近代自然科学はヨーロッパが発祥地で す。そのため中心地である西ヨーロッパ諸国やその移民を多く受け入れている国 がノーベル賞の自然科学部門(物理学賞、化学賞、医学生理学賞)で圧倒的に優 位に立っています。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどです。しかしア ジア、オセアニア地区だけを見ると、日本が断トツに自然科学部門の受賞数で優 位に立っています。これほどの成果は、ヨーロッパ系以外では例外的です。幕末 の開国から150年にもならない小国が、このレベルに達したことは恐しいこととさ 「えいえます。この日本の急速な西洋化、近代化の一つの軸になったのが「死語と しての外国語教育」であったことは忘れてはなりません。短期間で西洋の文献を 読み吸収するには、話す・聞くといった実用運用能力を犠牲にしたこの方法が一 番効率的だったのです。それは日本のエリートたちへの教育として最も効果的で した。その後、海外留学などで実用的な運用能力を身につける必要に迫られた人 たちも、詳細な文法力と読解力をもとに、 もちろんかなりの努力は必要でし たが――短期間で実用外国語(英語)を身につけられたのです。

制度疲労を起こした英語教育

こうして日本が世界の一流国の仲間入りをするのに大いに貢献した伝統的外国 語教育法ですが、急速なグローバル化と実用的な英語運用能力の緊急の必要性の もと、ついに終焉を迎えようとしています。なぜなら伝統的な英語教育をいくら やっても、話し、聞くことのできる実用的な力が身につかないからです。実用的 な英語力を習得するためには、発想を転換し勉強方法を変えなければなければな りません。英語がビジネス・学問の共通語となり、世界の若い世代にとって必須 なコミュニケーションツールとなった今、「使える英語」の習得が急務となっています。

こうした現状を知り実感している日本人は、いまのところビジネス、学問の第 一線で活躍している一部の人に限られます。しかし、その人たちを中心に日本の 英語教育の改革が呼ばれ、日本の学校教育も大きく変わろうとしています。

小学校での英語教育導入、高校では英語で授業をすることを基本とする新学習 指導要領の導入、大学入試にTOEFLを課す基本方針――これらはすべて、「世界 で取り残されつつある日本の英語教育を早急に改革しなければ」という現状を知る人たちからの要請がもとになっていると考えられます。

英語を話せるようになるには

グローバルに活躍しているビジネスパーソンを見ると、以下の2つのケースに 大きく分類できるようです。
日本だけで英語を勉強したが、企業で英語を使うことを必然的に求められ、
現場で英語力を培ってきたケース。 2 留学で英語力を身につけ、それをもとに現場の英語力を身につけたケース。
この両方のケースの共通項は、「英語漬け」を経験したことです。学校教育の分 野では「英語イマージョン」という言い方もします。会社の仕事もプライベートの 会話もすべて英語にしてしまえば、必然的に実用的な英語運用能力が身につきます。事実、社内公用語を英語にした企業もありますが、これは「英語漬け」で使 える英語を習得しようという考えから来ています。海外留学でMBA取得などを目 指せば、これも効果的な英語イマージョンになります。しかし、平均的なサラリー マンには、こんなことはお金と時間の制約もあり難しいのではないでしょうか。

先ほど説明したとおり、私たちの英語学習法は「死語」としての外国語教育で、 話すことを完全に無視した教育法でした。したがって皆さんが英語を話せないと したら当然の結果といえます。逆に日本式英語教育を受けながら英語を流暢に話 せるのであれば、何らかの特別な努力を払った結果です。問題はどうしたら日本 の伝統的教育で培った英語力を、留学や英語イマージョンなど「英語漬け」のない環境で、使える英語力に転化できるか、です。

まずはっきりさせたいのは、学生時代「死語」としての学習で培った文法力は無駄ではなかったということです。この力はまだ眠った状態

で皆さんの中にあります。この力を使える状態に変えることが必要です。この眠っ た力を呼び起こし、短期間で英語運用能力を実用レベルまで高めるトレーニング こそ、私が現在普及に力を注いでいる「通訳訓練法」なのです。このトレーニン グによって、今まで一見役に立たなかった「眠っている力」が目を覚まし、実用 的な英語運用能力が著しく改善されると考えられます(図1)。

(眠っている力) 死語としての学習法による 文法、語彙、構文、読解力etc.

通訳訓練法による トレーニング

実用的な英語運用能力 自由に読み・書き・話し・ 聞くことができる力

「通訳訓練法」とは?

「通訳訓練法」とは、インタースクールを中心とする日本の通訳学校で開発された日本人向けの実用的英語学習法と考えてください。シャドーイングが一番有名 です。「開発された」というと一定の意図をもって考案したように思えますが、実 情は違うようです。日本で英語教育を受けた日本人受講生を、“使える英語”を駆使するプロ通訳者にするためにはどうしたらいいのか――。そのために、通訳学 校が長年試行錯誤し、さまざまな練習法の中で最終的に生き残ったのが一連の通 訳訓練法である、と私は考えています(「日本人学習者向けのシャドーイング」が 生まれた経緯については「英語リプロダクショントレーニング入門編』に書き ましたのでぜひお読みください)。
私もかつては通訳学校の受講生の一人で、30歳を目前にしてスクールの門戸を 叩きました。その後プロ通訳、翻訳の実務を経て、現在は大学教員が本業です。 もともと通訳訓練は英語能力が高い受講生(たとえばTOEIC 900点以上)を対象 にしています。それを何とか一般学習者向けにわかりやすくアレンジできないか、 と私は考えてきました。そして、ついに完成したのが「英語リプロダクショント レーニング」です。これは、一般英語学習者にも効果のある通訳訓練法として、

クイック・レスポンス、シャドーイング、リピーティング注、日→英サイト・トランスレーションを取り上げ、最後にイラストを使った英語による説明練習でス ピーキングの実力を完成させる、という練習法です。本書ではこの一連の練習を 「英語リプロダクション トレーニング」と呼びます。一人で気軽にできるスピー キング練習法として、好評を得ています。
注1:通訳学校では長めのリピーティング練習を行い、それをリプロダクションと呼ぶのが普通です。

「翻訳語彙」を転換しなければコミュニケーションができない

通訳訓練法でなぜ話せるようになるのか、もう少し分析的に考えてみましょう。 通訳訓練法はもともと「通訳者養成のためのトレーニング」で、英語を話すこと に特化したトレーニングではありません。しかし、その中でもクイック・レスポ ンス、シャドーイング、リピーティング、日→英サイト・トランスレーションの 4つは、話す力の養成に深く関連していると考えられます。その種明かしは、語 彙レベルで考えるとよくわかります。

通常、死語としての学習法で勉強してきた人は、英語を日本語に「翻訳」しな いと意味が理解できません。ここで「翻訳する」というのは、文字で書かなくて も、頭の中で日本語に転換するという意味です。今の大学生も、特に予備校で死 語としての学習で集中的に勉強した場合、日本語に訳さないと英語が理解できないケースが見受けられます。訳さないと理解できない語彙――これこそが学校英 語から実用英語運用能力への転化を妨害する元凶です(日本の英語教育は文法を やるからダメだなどとピント外れのことを言う教育者がいますが、文法を学習し ないと外国語をきちんとマスターすることは絶対にできません)。この語彙は、説 明的に「翻訳転換理解語彙」と呼ぶのが一番いいのですが、長いので略して「翻 訳語彙」と呼ぶことにしましょう。

なぜこの語彙が元凶なのかというと、リスニングをすればすぐにわかります。 リスニングをすると、どんどん音が流れていくので、訳している暇がありません。 したがって「翻訳語彙」のままでは相手の言っていることが全くわからないので す。話すときも日本語から英語へ訳しているとテンポが遅れるので、スムーズな会話が成り立ちません。つまり翻訳語彙のままではコミュニケーションがほとんど成り立たない、ということになります。現在、30歳以上で日本の学校教育だけ で英語を勉強してきた人は、ほとんどが翻訳語彙しかないはずです。ですから英 語で簡単なコミュニケーションすらできないのが普通です。これが「日本人は中 学・高校で6年間、大学も含めると10年近く英語を勉強してきたのに、英語で話 せない」という現象の正体なのです。

しかし2006年に日本の英語教育に変化が起こりました。センター試験に英語リ スニングが導入されたのです。そのため2006年入学以降の大学生はリスニングが 年々できるようになりました。リスニングができるということは、上述したよ うに「翻訳語彙」が別の種類の語彙に変化したことを意味します。翻訳しなくても聞けばわかる、しかし話せない状態の語彙――。これを語学教育の分野で は passive vocabulary12と呼んでいます。英語リスニングがセンター試験に導入 されたために、高校の英語授業や予備校ですらもリスニングを重視するように なりました。「死語」として英語を学習している状態は依然として変わりません が、繰り返しリスニングをしていると、訳さないでも理解できる語彙(passive vocabulary)が増えていきます。こうして現在の若い日本人の平均的な英語レベ ルは、全くコミュニケーションができない「翻訳語彙」のレベルから、聞けばわかる passive vocabulary のレベルに移行しようとしています。

最近は「聞くだけで英語ができるようになる!」という謳い文句の教材が出 回っています。英語教育の専門家は「聞くだけで英語ができるようになるわけが ない」と口を揃えて言いますが、いままで話したことから、全くウソというわけ ではない、ということがわかるでしょう。日本で死語としての英語学習をしてきた人が、繰り返しやさしいリスニングをすることによって「翻訳語彙」が passive vocabulary に変わり、コミュニケーションができる準備段階に達するわけです。 英語で話す機会のある少数の人は、さらに話せる語彙(active vocabulary#3)に 転換させ、「英語が話せるようになる可能性があります。いずれにせよ全く使え なかった語彙が、コミュニケーションに役立つようになるため、現在の日本では リスニング教材が非常に流行っていると考えられます。しかし、従来型の学習 +リスニングだけでは不十分なのは明らかです。そこから active vocabulary に転換する手立てがないからです。

注3:通常passive vocabularyは聞いたり、読んだりしたら理解できるが、話したり、書いたりはできない語彙を指します。そしてactive vocabularyは話し、書ける語彙を言います。しかしここでは話を分かりやすくするために、passive vocabularyは「聞いて理解できる語彙、active vocabularyを「話せる語彙」としています。

翻訳語彙を「使える語彙」に変えるには

以下の図2を見るとわかりやすいでしょう。日本人大学生の平均的な英語力の 現状は、語彙レベルでみると、現在「翻訳語彙」から passive vocabulary に移行 しているところです。普通はイマージョン教育など特別な教育を受けない限り、 日本では話せる語彙は簡単には身につきません。
| 翻訳語彙 |⇒passive vocabulary | ⇒active vocabulary |
図2語彙から使える語彙への転移

通訳訓練校が採用してきた一連のトレーニングには、翻訳語彙を passive/ active vocabulary へと速やかに変化させる訓練法が含まれています。本書で使用 するクイック・レスポンス、シャドーイング、リピーティング、日→英サイト・ トランスレーションの効果は次のようなものであると考えられます。

訓練法の名前 訓練の内容 効果
クイック・
レスポンス
日本語を見て、瞬時に英単語・
フレーズを口で言えるようにする練習
単語・フレーズ単位ですぐに英語を口
に出せるようになる |→単語・フレーズ単位で、翻訳語彙をactive vocabularyに変える。
シャドーイング 英語の音声を聞きなが ら、音声
に沿って口まねする練習
発音やイントネーションが改善する。
英文を、日本語 を介さずに理解できるようになる→翻訳語彙をpassive vocabularyに変える。
リピーティング 英語の音声を聞いたあとに、
それを口で再現する練習
意味のかたまりの単位で、 英語を口に出せるようにな る→より大きい単位でactive vocabularyに変える。
日→英サイト・
トランスレーション
日本語を見ながら、どんどん
英語に訳していく練習
文単位で英語を口に出し、話 せるようになる→文単位でactive vocabularyに変える。

これは、最初に述べた「図1:訓練とその効果1」を語彙レベルで分析的に示 したものです。このように通訳訓練法によって眠っていた力”が、“顕在的な力”に 転化されるので、著しい効果があるように見えるのです。もちろん翻訳語彙がない場合も、このトレーニングによってはじめから active vocabulary を作ること ができます。またこの練習に慣れてくると、知らない単語・フレーズを数回口で 増えただけで、active vocabulary にできるようになり、劇的に実用英語能力が向上することになるのです。
では、通訳トレーニングの話はここまでにして、次節から「使えるビジネス英 語」の学び方について考えてみましょう。

まず基本的な英語力を身につけよう

これからビジネス英語を勉強しようとする皆さんに、ビジネス英語を身につける前提条件についてお話ししましょう。
本書は、TOEIC®500-600点以上の読者を対象にしていますが、英語の運用力は できるだけ高い方がいいのです。私の本務校(大阪府立大学)では、TOEIC8300 ~500点の学生には、インターネットで聞けるNHKの語学番組を毎日2番組聞き、 できればシャドーイング、日→英サイト・トランスレーションをするように指導 しています。さらにTOEICが500点後半~600点以上の学生には、英語のニュース 番組を毎日聞くように指導しています。英語ニュースの利点は、毎日違う内容が 配信され、さまざまな分野の語彙が身につけられることです。今日は政治のニュー スばかりでも、しばらくすると台風や地震のニュースが中心になるかもしれませ ん。来週は経済ニュースが話題をさらうかもしれません。そうして2年も聞き続 ければ、語彙が1万語近くになり、TOEICで900点以上、英検1級を狙える語彙力が身につきます。

現在、大学生に人気があるのは、インターネットで見られる NHK World English です。日本、アジア、世界のニュースだけでなく、ビジネス・テクノロ ジー関係のニュースも常時配信しています。このサイトの良いところは、ニュー スビデオの横にサマリーが英語で表示されていることです。英語ニュースで挫折 するのは、「聞こうとしてもわからないのでやめてしまう」というパターンが一番 多いのです。しかし、最初に目でサマリーを読んで、わからない単語・語句を辞 書で確認してから英語ニュースを聞くことにより、この挫折パターンを防ぐこと ができます。この「読む→聞く」という順番が最初は大切で、この順番を守らないとたいてい挫折します。また忙しい人には iPhone のアプリが用意されています。

また、同じサイトからアクセスできる NHK Radio Japan は Podcast でもiPhone でも聞くことができます。ですから、パソコンの前に座らなくても、通勤時間を利用して勉強ができます。そして、半年も毎日聞けば英語ニュースを「なんとなく理解できる」レベルに達します。その時点でTOEIC8800点の実力があることが、今までの学生の指導からわかっています。私が大学生に試した限りで は、このやり方がTOEIC8800点への最短距離です。ビジネス英語といってもやはり「英語」なので、英語の運用能力は少しでも上げるよう努力しましょう。

基本的なビジネス・経済知識を身につけよう ビジネス英語の前提の話を続けます。 私は、ビジネスマンとして英語を使うよりも、プロ通訳者としてさまざまなビ ジネス英語を使う状況に直面してきました。通訳者は、他人が話す言語を瞬時に 別の言語に変換するわけですから、ただ単に英語を話すよりも、はるかにハード ルが高いことは確かです。これから私が通訳者時代に心がけてきたこと、通訳学 校の講師として受講生を指導してきたことを中心にお話ししましょう。

まずあらゆる種類のビジネス英語に対応するためには、基本的なビジネス・経 済の知識が必須です。プロ通訳者は少なくとも日本経済新聞を毎日読んでいます。 現在では、ペーパー版でなくとも、インターネットで手軽に読めます。また、同じサイトで同時に英語版も読むことができます。読んでも内容がわからないところが出てくる場合、日経関連の書籍(「日経文庫」など)を数冊は読むといいで しょう。あるいはインターネットで解説記事を探して読んでも構いません。その ほか「東洋経済」「ダイヤモンド」など面白くてためになる経済記事がインター ネットでも読めます。私は「日経ビジネス」を長い間愛読していました。日本経 済新聞を中心にそれらも活用していくといいでしょう。

こうした勉強は、ビジネス英語を始める前の基礎中の基礎です。インターネッ トで日経の日本語版と英語版を毎日読めば、短期間にビジネス全般の知識、基本 的な言い回しが日本語と英語で身につくはずです。世の中には「英語ができる」 と称する人で「ただし、ビジネス・経済英語はよくわからない」という人も結構 多いのです。しかし、こんなに簡単に基本が身につけられるのですから、もしも経済英語に苦手意識があるのなら、大急ぎで基礎固めしましょう。
私の通訳修業時代には、さらに経済学の基礎を固めるために、分厚い入門書を 読み進める「勉強会」を主宰していました。毎週土曜日に集まって仲間たちと怒 済本を勉強したわけです。その中には、今でも基礎がわかると人気のある『ゼミ ナール日本経済入門』『ゼミナール国際経済入門』(いずれも日本経済新聞出版社) も含まれていました。「勉強会」の主宰者である私は、他のメンバーよりも勉強し なくてはならない立場だったので、予習が大変でした。しかしこうした勉強が、 私の経済、ビジネス知識の基礎を作ってくれたことは間違いありません。

「広く、深く」勉強する

通訳修業時代に、先輩通訳者から次のようなアドバイスを受けたことがありま す。フリーランス通訳として今後活躍するには…
1一般的な知識なら、知らないことがないようにしなさい。(当時は「イミダスな人間になりなさい!」と言われました) 2自分の専門分野を少なくとも3つ作りなさい。また、ある分野の通訳をやったら、関連書籍を何冊か読みなさい。
1は、明日まったく知らない分野の通訳をしなくてはならない場合でも、基本的 な知識があれば通訳の準備ができる。だから、普段から少しでも幅広い分野の知識 を身につけなさい、という意味です。私は「こりゃ大変だ」と思いながらも「イミ ダス人間」を目指しました。そして2のアドバイスに従って、私は「経営」「金融」 「環境問題」の3分野を自分の専門分野と決め、この3分野については日本語と英 語の書籍、文献等をできるだけ読もうと決め実行しました。これは、これからク ローバルに活躍しようと考えている皆さんにも、お勧めできる勉強法です。できる だけ広い知識を身につけること(他の人と話題、着想が違ってきます)と専門分野 をより深く勉強すること。この2つをしばらく続けてみませんか?

専門分野についてもう少し突っ込んでお話ししましょう。ビジネスの専門実務に関しては、ほとんどすべての人が仕事の中で知識を身につけています。就職してか ら数年間真面目に仕事をしていれば、業務の中で自然に身につくのが普通です。また会社もその方向で社員を指導してくれるはずです。しかし、私はそれだけでは不 十分だと考えています。金融業にいるのなら金融のこと、自動車業界にいるのなら 自動車に関連して、仕事で必要とされる以上の勉強を自らに課していくことが大切 だと私は思っています。若い人は特に「休日は休養だ」と考えるのも無理はありま せんが、休日や平日の退社後の時間こそ、その3分の1、いや4分の1でもいいか ら自分の勉強のために使わなければなりません。そうしてはじめて、数多くのビジ ネスマンの中で輝くことができるのです。この「広く、深く」という勉強法は、通 訳者をやめた今でも私が続けていることです。
注4:「イミダス」とは、かつて集英社が刊行していた現代用語辞典のこと。

フリーランスの通訳者が使う裏ワザ

最後に通訳者が使う究極の裏ワザ、ワードリストとクイック・レスポンスについてお話をしましょう。
本書のレッスンは、「ビジネス全般で使う基本的な言い回しに慣れる」ことを目 標にしました。したがってビジネスの各分野で出て来るさまざまな専門用語まで 網羅はしていません。もしも各分野の専門用語まで網羅しようとすると「百科事 典」のような参考書ができてしまい、研究には役に立つかもしれないが実際には 役立たない、ということになるかもしれないからです。しかし、そうは言っても、 自分の業務に必要な専門用語を覚えないと本当にビジネスには役に立たない、と 考える人は多いのではないでしょうか。

実は、このような専門用語の暗記は、常に通訳者がやっていることなのです。 特にフリーランス通訳者は、その分野の専門家ではないのに、専門家同士の通訳 をする必要に迫られます。だいたいの基礎知識は事前に勉強できますし、親切な 担当者であれば事前にいろいろと質問することも可能です。しかし、問題は専門 用語です。専門用語や専門の言い回しを知らなければきちんと通訳できないこと が多いのです。もちろん企業内通訳のように、同じ分野の通訳を続けていればその分野の専門用語に精通してくるので問題はありません。問題は、フリーランの通訳者が、自分の得意でない分野の通訳をするときです。明日頼まれた通部。分野には、自分の知らない専門用語が数百もあるかもしれません。

そんな時に活躍するのが、ワードリストとクイック・レスポンスです。これを使って専門用語の部分を切り抜けるのが「通訳者の裏ワザ」です。これは通訊 者でなくとも、ビジネスマンが業務に必要な用語を手っ取り早く覚えるのにも役 に立ちます。

ここで通訳者が愛用している“ワードリスト”の作り方を説明しましょう。ワー ドリストといっても単語だけでなくフレーズや短文を載せても構いません。要は 自分の専門業務に必要な用語をリストにし、それをクイック・レスポンス(詳し い練習法はP.29~30)で覚えるというだけです。クイック・レスポンスで覚えた 単語・語句・文は、active vocabulary に転換されているので、“すぐに使える状 態”でスタンバイできるわけです。

フリーランス通訳者がワードリスト作成のためによく使うのが『ジャンル別 ト レンド日米表現辞典』(小学館)です。これは通訳学校でも使用されており、経 済、政治、法律、社会問題などのジャンル別の現代用語1万8千項目が収録され ています。そしてそれぞれの項目に日本語とその英訳、よく使われるフレーズ・ 例文が掲載されています。試しに「トレンド」(第4版)の、「流通・物流」から 日本語と英語の表現を抜き出してワードリストを作ってみましょう。(以下p.291 ~293から引用)

流通、物流 distribution
流通業 distribution industry
流通機構 流通機構の簡素化が必要とされる。distribution channel (network; system] It is necessary to simplify [streamline] the distribution system.
流通革命distribution revolution
流通在庫distribution inventory
流通経路channel of distribution; sales chain [channel]; distribution channels
物流センター distribution center
物流部門 distribution arm
市場調查 market research
市場占有率、シェア 会社は鉄鋼市場に30%の占有率を持っている。market share
The company has a 30% share of the steel market. /
The company shares 30% of the steel market.
独占市場monopoly market
独占は有効な競争をなくす。 Monopoly kills effective competition
寡占市場 oligopoly market
新規参入new entry
参入障害 entry barrier
カルテル cartel
カルテル行為 cartel activity
やみカルテル unauthorized (unlicensed] cartel
販売網 sales network [channel, organization] よくできた販売網 well-organized sales network
役に立たない販売網useless sales network / sales network that does not work
工場出荷 factory shipment
工場出荷が増加し、まもなく卸売段階でも出荷増があった。 Factory shipments increased. soon followed by another increase of shipments at a wholesale level.
宅配便home [door-to-door] delivery service courier service
宅配便の荷物 (home-delivered) parcel (package] 翌日配達翌日配送next-day delivery: overnight delivery

このワードリストは、「トレンドから引用しただけですが、この表現辞典を考に、その他の資料の用語を加えて自分なりのワードリストを作っている通訳者 は数多くいます。また、さまざまなウェブサイトを活用してリストを作ることを できます。みなさんもぜひ自分用の業務ワードリストを作り、クイック・レスポ ンスで覚えてビジネスに活用してください。必ず役に立つはずです。
それでは、前置きが長くなりましたが、いよいよ次ページからは具体的な本書 の学習の仕方を解説します!

本書の使い方

本書には、計20レッスンが掲載されています。
・各 LESSON とも、STEP 1~4の4ステップ (8ページ) 構成です。
・STEP 1~4の順に学習を進めます。
・どのレッスンから始めても、また途中のレッスンをとばしても問題ありませんが、まず
は Lesson 1から順番に学習することをお勧めします。

STEP1 Quick Response
クイック・レスポンス
GOAL
左側の日本語だけを見て、(隠した)右側の英語を瞬時に口で言える ようになる。
1.まずテキストを見ながら、CDに続いて英語を1回ずつ発音します。CDの音を真似るように心がけてください。
2.一通り発音したら、今度は1単語(フレーズ)ごとにCDを止めて、1つにつき3回音してみます。この時も、CDの音をできるだけ正確に真似することを心がけてください。
<例>
CD [production plans for] [production plans for ] [production plans for ] [production plans for
覚えにくい単語 (フレーズ)の場合、3回に限らず何度練習してもかまいません。
3. 次に、右側の英語を手などで隠し、最初の単語・フレーズから順番に日本語だけを見
て、瞬時に英語で言えるように練習します。上から順番に言えるようになったら、今度 は逆の順番でも練習してみましょう。日本語を見て、瞬時に英語が口から出てくるよう になったら、STEP2に進んでください。
いつも間違えるところや覚えにくいところは、赤ペンやマーカーなどでチェックして、集 中的に練習するのがコツです。できなければ、何度でも繰り返しましょう。
STEP2 Shadowing & Repeating
シャドーインゲ&リピーティング
COAL(シャドーイング) テキストを見ずに、英語の音声だけを聞いて口真似できるようになる。
COAL)(リピーティング) テキストを見ずに、CDのポーズのところで、口に出して英語を続 返すことができるようになる。

シャドーイングのCDトラックを再生して行います。
1. shadow は「影」。 shadowing とは「影」のようについていく、という意味です。最初はテキストを見ながら、CDから聞こえた通りにほぼ同時にロ真似していきます。英 語を聞きながら話す練習です。
<例> CD ljust saw the production plans for our new digital camera model.
あなたI just saw the production plans for our new digital camera model….
2. もう一度CDを再生します。今度はなるべくテキストを見ないで行いましょう。
3. すらすらと口が動くようになるまで、何度か繰り返しましょう。まったくテキストを見な いで、すべてシャドーイングできるようになったら、リピーティングに進んでください。

リピーティングのCDトラックを再生して行います。
1.CDには、テキストのスラッシュ(もしくはII)ごとにポーズが入っています。この ポーズのところで、直前に聞こえた英語を繰り返し発音する練習です。
<例>
CD ljust saw the production plans…
あなた I just saw the production plans…

2. まったくテキストを見ないで、すべて完璧にリピーティングできるようになったら STEP3に進んでください。
ここからはCDを使わずに練習します。
STEP3 Sight Translation
サイト・トランスレーション
GOAL 左ページの日本語だけを見て、(隠した)右ページの英語を瞬時にロ で言えるようになる。
1. 左のページの日本語を見て、瞬時に英語に訳していく練習です。最初は右ページの英語 を見ながら練習してかまいません。STEP1のクイック・レスポンスと原理的には同じ です。クイック・レスポンスは単語・フレーズ単位の転換練習、サイト・トランスレー ションは文単位で瞬時に転換する練習です。
2.右ページの英語を手などで隠し、左の日本語をだけを見て、すらすら英語が言えるよう になったら、総仕上げのSTEP4に進みましょう!
STEP4 Reproduction
イラストを見てリプロダクション
GOAL
イラストだけを見て、英語ですらすらとナレーションできるようになる。
1. イラストを見て、レッスンのストーリーを英語で説明する練習です。ひとコマずつ、誰 かにストーリーを聞かせてあげるつもりで、口に出して説明していきましょう。
2. うまくできない場合は、STEP3に戻ってください。イラストのコマ番号と、STEP3 の段落番号が対応していますので、それを参考にしてください。
3. 初中級者は、STEP3までに勉強した英文を文字通り「再生」するつもりで、上級者は レッスンの英文をもとにして別の表現にトライしてみましょう。イラストだけを見て、 すらすら英語で説明できるようになれば合格です! (STEP4は難易度が高いので、だいたいできればOKです)

Lesson 01
Meeting (Part 1) R&D brainstorming

会議1 開発コンセプト