CD付 英語リプロダクショントレーニング アドバンス編 (英語リプロダクションシリーズ)

 


 

トレーニング後の疲れ(大)→効果も(大)

本書は、英語リプロダクションシリーズのアドバンス編です。アドバンス編は、英語リプロダクションよりも、収録の音声スピードを早めにしたり、一話の語数を多めにしたり、難しい語句を多く取り扱ったりしました。スピーキング力をレベルアップさせるために必要な知識が詰まった教材となっています。

はじめに

確実に効果が出せる英語スピーキングの習得法
日本には、民間の通訳学校が開発した「通訳訓練法」という効果的な学習法があり、長い間、通訳者や語学エキスパートの養成に貢献してきました。私も20年以上前にこの通訳学校で学んだ一人です。「通訳訓練法」はもともとプロ通訳者を目指す、語学能力の高い人たちのために開発されたものですが、それを一般語学学習者のためにやさしくアレンジしたのが拙著『英語リプロダクショントレーニング」シリーズです。幸い、いままでに多くの読者の皆さんの支持を受け、全国の大学や語学学校でも教科書やテキストとして採用していただきました。本書はシリーズの4冊目にあたります。

今回は、英国ロンドン出身のナディア・マケックニー(Nadia Mc Kechnie)さんに、共著をお願いしました。ナディアさんはNHK基礎英語3、NHK英語ビジネスワールドにも出演されている実力派のナレーター、ライターです。2011年刊行の『英語リプロダクショントレーニング』(以下「英語リプロ」と表記します)でもスクリプトの作成を手伝ってもらいましたが、今回は共著者として、語学学習に役立つさらに素晴らしいスクリプトを書きおろしていただきました。

「英語リプロ」をベーシック編とすると、本書はさらに一歩進んだアドバンス編と呼べるもので、『英語リプロ』で学習した人はもちろん、初めてこのアドバンス端から学習し始める人にも効果があるように作られています。

本書が「英語リプロ」と違う特徴を挙げましょう。より進んだ学習者のために、
(1)収録の音声スピードを早めにした
(2)一話の語数を多めにした
(3)スクリプトに一歩進んだ語句、表現を使用した
(4)リピーティングの区切りを長めにし、よりチャレンジングにした
(5)ナレーターに英国人、米国人を交互に用いた

そしてそれに加えて、「英語リプロ」よりもさらに話が面白くなったことも特筆できるでしょう。
(5)のナレーターに関しては、英国人(女性)は共著者のナディアさんが担当しています。一方、米国人(男性)はシカゴ出身のジョシュ・ケラー(Josh Keller)さんが担当しています。私は英国発音、米国発音にこだわらず学習するのが良いと思っていますが、英国発音を身に着けたい人はナディアさんのナレーションを、米国発音主義で行きたい人はジョシュさんの発音を、しつこいくらい真似てみるといいでしょう。
また、「英語リプロダクショントレーニング」シリーズ4冊のだいたいのレベルは以下のようになります。
易『英語リプロダクショントレーニング」
『英語リプロダクショントレーニング入門編』
『英語リプロダクショントレーニングアドバンス編』*本書
難『英語リプロダクショントレーニングビジネス編』

この中で「入門編』だけは変わり種です。これ以外の3冊は、クイックレスポンス、シャドーイング&リピーティング、サイト・トランスレーション、リプロダクションの4ステップですが、「入門編』はクイック・レスポンスを省いた3ステップとし、その代わりストーリー性を重視しています。森ススム君と江戸川ミキさんの二人の主人公が繰り広げる物語が、最後にあっと驚く展開を見せます。
みなさんの好み、実力に合わせてどの本から始めてもかまいません。が、本書で使用されている通訳訓練法の理論的な背景をより詳しく知りたい人は、2011年刊行の『英語リプロ」もぜひお読みください。本書の活用により、皆さんが「話せる英語」を身に着け、さまざまな場で活躍されることを願っています。
最後に、素晴らしい英文スクリプトを書いてくださった共著者のナディアさん、音声の編集をしてくださったELECの山口良太さん、本シリーズを通して素敵なイラストを描いてくださったHACHHさん、そしてDHC出版部の編集者・宮川奈美さんに感謝の言葉を捧げます。

2015年7月吉日小倉慶郎

Preface

The main purpose of this book is to help you improve your speaking and storytelling skills. However you can also use it to practice your short essay writing skills. This is an enjoyable and extremely effective way to improve your English.
How to use this book to help you write a story:
First of all, you need to decide on a story to tell. If you can’t think of anything in particular, try asking your family or friends for their interesting stories. (You will be surprised by how many people have good stories to tell!) You don’t have to stick to them completely though – Feel free to arrange/improve on the stories, as you like!

The most important point to consider before writing an English story is tense:

A lot of your story will probably be in simple past tense but there are times when you will need to use different tenses to express things such as thoughts, actions (past or present) and direct speech. Do you know how to use English tenses accurately and naturally? If you are unsure, the best way to improve your understanding of how English tenses are used is active conscious reading. Try reading through some of the stories in this book again, this time just focusing on how tenses are used. Think about what kind of tenses you may want to use in your story.

Another important thing to think about is flow:

You will notice that most of the stories in this book open with a sentence of two that set the scene. This is a very easy and simple device. Try reading through the opening sentences in the different stories. What sentences could you use to introduce your story?

After you have done that, read through the main body of the stories focusing on what kind of expressions are used to introduce ideas or, build to a climax. Make a note of any useful expressions you can use to connect your ideas.

Finally, read through the ending paragraphs in the book. You will notice how most stories end with a punch line or an opinion. Think about how your story will end.

Now you are ready to begin. Have fun!!

Nadia McKechnie

はじめに

本書の主な目的は、みなさんのスピーキングとストーリー・テリングの技術を高めることです。しかし、本書を使ってショート・エッセイを書く練習もできるのです。みなさんの英語力を向上させるための、楽しくかつ非常に効率的な方法を教えましょう。

本書をもとにしたストーリーを書く練習:まずはじめに、伝えたいストーリーを決める必要があります。特に何にも思いつかないのなら、ご家族や友人に頼んで面白い話を聞かせてもらいましょう(こんなにも多くの人が、いい話を知っているのに驚くはずですよ!)。でも、聞かせてもらった話を完全に再現しようとする必要はありません――お好きなように、アレンジしたり、もっといい話にしてもかまいません!

英語のストーリーを書く前に考えなければならない、もっとも大切なことは「時制」です。

みなさんが書くストーリーはたいてい、「単純過去時制」になるのではないでしょうか。しかし考え、行動(過去・現在)、直接話法(話し言葉の引用)を表現したい場合には、異なった時制を使う必要が出てくるでしょう。みなさんは、英語の時制を正確に、そして自然に使う方法をご存知ですか?もしもよく分からないのであれば、時制の使い方に対する理解を深める一番いい方法は、能動的に意識してストーリーを読んでみることです。本書のストーリーを、時制の使い方だけに注目して、もう一度読んでみてください。そしてあなたが書くストーリーには、どんな種類の時制を使うかを考えてみましょう。

考えなければならない重要なことはもう一つあります。話の「流れ」です。本書のほとんどの話が、状況を設定する1、2センテンスで始まっていることに気が付くでしょう。これはとても簡単でシンプルな工夫です。さまざまな話がどのような文で始まっているかを読んでみてください。あなたは、どんな文でストーリーを始めますか?
そのあと、ストーリーのメインとなっている部分を読みましょう。このとき、どのような表現がアイデアの導入やクライマックスの構築に使われているかに注目してみてください。いくつかのアイデアをつなぐために役立つ表現はメモしておきましょう。

最後に、各ストーリーの最後のパラグラフを読んでみて下さい。ほとんどの話が「オチ」や意見で終わっていることに気づくでしょう。みなさんがストーリーを書く場合、どのように終わらせるかを考えてみましょう。
では、もう準備OKですね。楽しんでください!

ナディア・マケックニー

小倉 慶郎 (著), ナディア・マケックニー (著)
出版社: ディーエイチシー; A5版 (2015/7/8)、出典:出版社HP

もくじ

はじめに(小倉慶郎)
Preface(Nadia McKechnie)
本書の学習をはじめる前に
本書の使い方

Lesson 1 A lucky charm
年の初めの運試し!
Lesson 2 A magical trip
夢みたいな旅
Lesson 3 The power of positive thinking
人生は前向きに
Lesson 4 Volunteer
ボランティア活動
Lesson 5 You look like you just got up
さっきまで寝てたでしょ?
Lesson 6 Meetup
SNSで友だち探し
Lesson 7 Dog Adoption
犬の里親になった日
Lesson 8 A shock
娘がいない!
Lesson 9 A lucky save
間一髪セーフ!
Lesson 10 Fireworks
花火大会は場所取りが命!
Lesson 11 Water on tap
私の家だけ水不足?
Lesson 12 At the beach
ビーチ大作戦
Lesson 13 Furniture shopping
おしゃれな家具を買ったけど…
Lesson 14 A misunderstanding!
そうじゃないよ!
Lesson 15 A day at the library
私、キレイ?
Lesson 16 I’m still fit!
まだまだやれるはず!
Lesson 17 Trouble at the movies
映画館の暗がりで
Lesson 18 Dressed for success
デキるビジネスマンの服装とは
Lesson 19 On the job training
OJTは突然に
Lesson 20 A good deed
僕って、いい人…?

本書の学習をはじめる前に

特別企画小倉先生ライブセミナー
◆プロ通訳訓練法を一般向けにアレンジした方法とはどういうもの?
◆本当にひとりでもスピーキング練習は可能か?
◆1日どれくらい練習すればいいですか?
◆何日くらいで話せるようになりますか?
◆この本で練習すれば、発音もうまくなる?
◆英会話学校に通うのと、何が違うの?
◆学校のテキストとして使いたいけど、どうやって教えたらいいですか?
◆使い方のアレンジも教えてほしい!
……などなど、英語リプロを始めるに当たって疑問に思うことや、すでに使っている人からの質問に、小倉先生が答えます!

司会:本日は、DHCセミナールームへようこそ。これから、特別企画「英語リプロ白熱教室」を開講いたします。皆さんの日ごろからの疑問に小倉先生が直接答えてくださいます。

一般向けの学習方法

小倉:みなさん、こんにちは。講師を務める小倉です。会場のみなさん、よろしくお願いします(拍手)。今日は、「通訳訓練法を使った英語学習」という題で、3人の読者代表の方に登壇してもらい、一対一の対話形式で、話をしたいと思います。そのあとに実際にみなさんに通訳訓練法を体験してもらいます。まず、A君から。A君は社会人1年生。留学経験はないけれど日本で勉強して、最近TOEIC800点を取ったそうです。将来は外資系企業に転職して、英語でバリバリ仕事をするのが夢だそうです。
A君:でも英語を話すのはいまひとつなんですよね。

小倉:だからこそ通訳訓練法が必要なんだよ、安心して。さて、「通訳訓練法」という言葉を聞いたことがない、と言う人がいるかもしれません。この会場の中で「通訳訓練法」について実際に知っている人は手を挙げてください。あれれ、ほとんど手が挙がりませんね。ではシャドーイングはどうですか?実際にシャドーイングをやったことがあるとか、聞いたことがある人はどうですか?今度はなんとほとんど全員の人が手を挙げましたね。シャドーイングも実は、通訳訓練法のひとつです。シャドーイングの効果は、現在は全国の高校・大学に知れ渡っています。高校、大学の英語コースはもちろんのこと、高校の普通科でも使っているところが多いですね。
A君:なるほど。シャドーイングなら僕もやったことがあります。でもそもそも通訳訓練法っていったい何なのですか?
小倉:今日は、2015年7月に出版されたこの『英語リプロダクショントレーニングアドバンス編』を使って通訳訓練法を体験してもらうのがメインなのであまり深入りしたくないんだけど、ちょっとだけ話しておこう。「通訳訓練法」とは、日本の民間通訳学校を中心に発展してきた、第二言語(外国語)習得に効果的な学習法といえる。たとえば、シャドーイングは、もともとアメリカやヨーロッパで同時通訳のためのウォーミングアップとして使われていたものだけど、日本の民間通訳学校で、日本人に効果的な学習法として積極的に使われ始めたことがはっきりしているんだ(詳細は『英語リプロダクショントレーニング入門編』(2012年)をお読みください)。
A君:海外では民間の通訳学校はないんですか?

小倉:海外では、生まれ育った環境からバイリンガル、マルチリンガルとなっている人たちがたくさんいるんだ。そうした高度なバイリンガル、マルチリンガルを集めて大学院の通訳コースで鍛え上げるという形が普通なんだね。僕の知る限りでは、大学の学部で通訳コースがあるのはインドとロシアくらいだと思うよ。
A君:それでは、一般学習者の第二言語習得(改善)の手段として通訳訓練法を使用しているのは、日本だけなんですか?
小倉:一般学習者が広く使用しているのは、日本だけと言っていいだろうね。ただ、海外の研究者でも、アメリカのジョンズホプキンズ大学のAlessandro Zanniratoは、「通訳訓練法を第二言語習得に使用するのは効果的である」と強く主張しているよ。彼は、前任校のケープタウン大学で、フランス語学習者を対象に実験してかなり効果があったと発表している。ケープタウン大学でフランス語学科の3年生24人を集めて、通訳訓練法を広く使ったコースを10か月間受講させた。その結果、受講生のフランス語のsemantic competence(意味理解能力)は著しく向上したそうだ。一方syntactic skills(言語の構成能力)には変化は見られなかったと言っている(Zannirato, Alessandro(2004)Using interpreter training techniques in second language acquisition)。ケープタウン大学は南アフリカ共和国にある。この国で使用される言語は、アフリカーンス語、コサ語、英語が約97%を占めている。まずフランス語話者に会うことはないだろうね。海外でも、その土地で話されていない外国語を習得するときに通訳訓練法が著しい効果があったというのは、心強いね。

A君:なるほど。英語以外の言語でも効果があるんですね。
小倉:その通り。習得しようとする言語に関係ないようだね。特に、その言語が日常使われていない環境で通訳訓練法を使うと効果的だということがわかっている。今言った南アフリカでの事例からも明らかだし、日本でたいへん効果があるのは周知のことだよ。
A君:なるほど。でもどうしてそういうことが起こるんでしょう?
小倉:通訳訓練法の学習者の立場から見ると、通訳訓練法を使って学習するとき「言語の強制環境」が作られているように感じるよ。
A君:「言語の強制環境」ってなんですか?
小倉:これは僕の仮説なんだけど、言語を話したり聞いたりする能力を養成するためには、その言語を強制的に話したり、聞いたりする環境を作らなければならない、と考えている。
A君:はじめて聞きました。
小倉:そうだろうね。たぶん僕しか言ってないから(笑)。第二言語の学習者をよく観察すれば、対象言語を話したり、聞いたりしないと困る環境に置かれないと、話し、聞く能力が向上しないのがわかるよ。たとえばアメリカに留学、移民しても、日本人コミュニティーに閉じこもって、英語がほとんど話せない人たちもたくさんいるんだよ。
A君:驚きました。小倉:英語が日常使われている国に行けば、この環境は水や空気のように当たり前のことなので、気づきにくいのかもしれないね。さらに日本では長い間、「死語」として外国語を学習するのがスタンダードだったので、ますます状況を難しくしている。

A君:「死語」として、ってなんですか?
小倉:『英語リプロダクショントレーニング」(2011年)で詳しく書いたので、ここでは簡単に触れるだけにするけど、「死語」というのは現在話されていない言語のことだ。西洋人にとっては、ラテン語、古代ギリシャ語がなじみ深い「死語」になる。日本では、「漢文訓読」が代表的な死語としての外国語学習になるかな。中国語の発音は無視して、翻訳と構文で意味を把握するやり方だ。もしも「漢文訓読」に慣れた学習者に、いきなり現代中国語を話せ!といっても無理だろう?そんなの話せるわけがないよね。生きた言語として学習して来なかったんだから。それとほぼ同じことが日本の伝統的な英語学習でも起きている。僕から見ると「翻訳語彙」をactive vocabularyに変えるからくりがないと、いつまでも英語が話せるようにはならないんだけど。
A君:「翻訳語彙」ってなんですか?
小倉:これも『英語リプロ』で書いたことだけど、日本の伝統的な外国語学習では、翻訳しないと意味が分からない、「翻訳語彙」ばかりを大量に養成することになる。この学習法は、文法をしっかり勉強し、あとは辞書さえあれば難解な英文でも読めるようになる、という良い面もあるんだ。漢文訓読と同じだね。この学習法が、日本の近代化に大きく貢献した側面も忘れてはならないと思う。日本がまだ発展途上国で、世界の大文明から知識を吸収した時代には、ぴったりの学習法だった。でも日本が世界の中心国になり、英語でのコミュニケーションが必須になった現在は、制度疲労を起こし、悪い面ばかりが目立っている。そもそもこの伝統的な学習法で英語を勉強すると、話したり聞いたりすることができない。英語で話したり聞いたりするためには、「翻訳語彙」をpassive vocabularyやactive vocabularyに変える仕組みが必要なんだね。簡単に言えば、翻訳を介さずに、英語をそのまま英語で理解し、話せるようにならなければならない。この仕組みがないと、日本で英語を話せるようになるのは難しいよ。

A君:なるほど。では話せないのなら、英会話学校に行くというのはどうですか?
小倉:日本の英会話学校は良心的な学校も多いし、素晴らしく熱心で教え方が上手な先生もいるよ。もしもお金があるのなら行ってもいいと思う。しかし、英会話学校だけでは練習量が足らないね。
A君:週1、2回では足らないと?
小倉:そういう意味ではなくて、1日の話す分量を言ってるんだよ。大学の授業でも学生によく言ってるんだけど、英語をある程度流暢に話せるようになるためには、1日30分口を動かす(話す)練習を6か月間続けるのが目安なんだ。英会話学校へ行っても自分が実際に話している時間は1回のレッスンで数分程度じゃないかな。これじゃあ、できるようになっても時間がかかりすぎる。本当にゆっくりとしか英語が話せるようにならない。

A君:じゃあ英会話学校へ行くのは良くないと。
小倉:そんなことは言ってないよ!自宅で1日30分話す練習をして、それから英会話学校へ行ったら短期間で劇的に英語が話せるようになる。きっと英会話学校の先生もびっくりするし、一番いい方法だと思うよ。
A君:その「自宅で一人で話す練習方法」を先生は教えてるわけですね。
小倉:その通り!通訳訓練法は、話し相手がいなくても一人で英語を話す練習ができる優れた方法なんだ。最初は、このテキストを中心にやるのがお勧めだけど、NHK語学講座など使って、時々シャドーイング、リピーティング、サイト・トランスレーションの練習をしてもいい。空き時間を使って毎日コツコツとやるのが大切だ。スキルの練習なので、とにかく量をこなし、毎日練習するのが大切だ。楽器やスポーツの練習をするのと同じだよ。

A君:なるほど、サッカーであれば一人でドリブルの練習をするとか、野球であればキャッチボールをする、素振りをする、という感じですか。
小倉:その通り!毎日30分練習すれば、上手い下手の違いはあっても、6か月間で誰でもある程度話せるようになる。毎日このテキストを1レッスンやれば20日間で終わりになってしまう。そのあと急いでテキストを繰り返してもいいし、シリーズの別のテキストに手を出してもいい。あるいはNHK「語学講座をやってみるとか、国際交流グループに入るとか、オンライン英会話にチャレンジするのもいい。そしてある程度のレベルに達したら、心で思ったことを一人でぶつぶつ英語で言う練習をしてもいい。英語の独り言だ。これは多くの英語上級者がやってる練習なんだけどあまり知られていない。僕も時々やっているけど(笑)。とにかく、できるだけ素材を変えて、1日30分間英語を話す練習をすることを忘れないようにね。そうすれば、6か月間でかなりの成果が出るよ。
A君:よくわかりました。最後に、ついでにリスニングについて聞いてもいいですか?リスニングが伸び悩んでいるんですけど。
小倉:実は、英語の4技能(リーディング、リスニング、スピーキング、ライティング)の中でスピーキングが一番やさしいと言っていい。英語に限らずどんな言語でも、6か月間集中訓練すれば、必ずある程度話せるようになるよ。それに比べてリスニングは難しい。特に英語は、人によって、地域によって、国によってさまざまなアクセント、発音、語彙が存在し、僕でも「これも英語?」と思うことすらある。英語のリスニングの上達法については、『英語スラッシュ・リスニングトレーニング』(2014年)に詳しく書いたので、英語のリスニングが伸び悩んでいる人はぜひ読んでほしいね。

学校教育での本書の使い方

小倉:さて次はBさんからの質問。Bさんは30歳代の高校の英語教員でしたね。
Bさん:はい、そうです。いま、高校では学習指導要領が変わって英語で授業をすることが基本となったんですけど、なかなか生徒たちが話せるようにならなくて…。高校の授業の参考になればと思い、参加しました。先生は大学の授業ではどのように使われているんですか?
小倉:授業では、最初の30分間を使ってこのテキストでスピーキングの練習をしているよ。
Bさん:30分でできますか?
小倉:学生には家で予習をしてくるように指示してるんだ。授業では予習してきたことをチェックする。ピアノの練習を家でやってもらって、先生が週1回指導する感じだね。こうすれば週1回の授業でもある程度成果が出せるよ。
Bさん:生徒たちはすぐにできないと思いますけど。
小倉:まず勉強の仕方を1回目の授業で詳しく教えること。僕は、最初の授業でホワイトボードに、次の6つステップを書いてテキストにメモさせているよ。予習の仕方だね。
1.クイック・レスポンス
2.シャドーイング
(3.区切り聞き)
4.リピーティング(長)
5.サイト・トランスレーション
6.イラストを使ってリプロダクション

Bさん:この中の「3.区切り聞き」ってなんですか?このテキストでは紹介されていませんよね。
小倉:テキストを閉じさせて、意味確認のために、1センテンスずつ音だけを聞き日本語訳を言わせる練習だね。通訳学校ではよく使われている練習法だ。簡単な通訳と言ったほうがいいかな。
Bさん:日本語に訳させるというのは悪い習慣ではないのですか。
小倉:いや、音声で意味をとらえて訳すのは悪くないよ。翻訳語彙があるとできない作業なんだ。音はすぐに消えてしまうからね。英語を訳さずにそのまま理解できないと、通訳の作業=区切り聞きはできないんだよ。
Bさん:英語をまずそのまま理解して、それから日本語に直すということですか。
小倉:その通り。それこそが通訳のプロセスなんだ。訳して理解するのと、理解してから訳すのとでは全く違う次元のことなんだよ。この区切り聞きをすれば、英語音声を聞いただけで、訳さずにそのまま理解できるようになるよ。
Bさん:まさにパラドックスですね。訳す作業なのに、訳さなくても理解できるようになるなんて!
小島:やってみればわかるよ。僕の授業では、学生が慣れてきたら、時間の都合上この「区切り聞き」のステップは飛ばしてしまう。だから括弧で囲ってある。
Bさん:なるほど。
小倉:それに予習の時は、この「区切り聞き」をやる必要はないと学生には言ってある。これを飛ばして予習しても「区切り聞き」はできるからね。
Bさん:わかりました。あと気になるのは「4.リピーティング(長)」ですね。この(長)はどういう意味ですか?
小倉:テキストのCDにはリピーティングの音声も入ってるんだけど、慣れない人のために割と短めに区切ってあるんだ。家では、CDのリピーティング音声で練習を始めてもいいけど、最終的に1~3センテンスのリピーティングができるようにしなさい、と学生には言ってある(ちなみに本書では、リピーティングの区切りを長めにとってあります)。
Bさん:1~6を授業中に順番にやるとして、学生がやってこなかったらどうしますか?
小倉:平常点評価をしているので、みんなやってくるよ。座席表を使って、発音がうまい子はプラス点をつけ、できない子はマイナス点をつける。授業中に評価していかないと、英語を話せるようにならないよ。Bさんは高校では、どう評価しているの?
Bさん:授業中は評価しません。ペーパーテストだけです。
小倉:それじゃあ、みんな話せるようにならないなあ。英語を話せると成績にプラスになるような評価システムをまず確立しないとね。
Bさん:う〜ん……。なんとか頑張ってみます。できるところから高校の授業に応用したいと思います!

語学学校での本書の使い方

小倉:最後にCさんですね。年齢は…ちょっと言ったらまずいかな(笑)。ある程度の年齢になると、女性には聞いちゃいけないことが出てくるんだね。
Cさん:何のことですか?
小倉:忘れてください(笑)。ところでCさんは自分の経営する英語塾で教えているんですね。Cさん:はい。先生のテキストを使っています。生徒さんには家で予習をやってもらって、授業ではイラストを使って生徒に自由にストーリーを作ってもらいます。最初はテキスト通りにしか話せませんが、慣れてくると、いろいろ付け加えたり、表現を変えたりするようになって、話す力がぐんぐん伸びてくるのがわかります。
小倉:それはいいね。僕も大学では、「これは丸暗記の授業ではない」と繰り返し言っているよ。「丸暗記」では話す力はつかないので、ある程度テキスト通りできるようになったら、生徒が自由に話せるように指導するのが理想的だね。
Cさん:上級のクラスでは、イラストの最初と最後だけを見せて、あとは自由にストーリーを作ってもらうんです。結構面白がって勝手なストーリーを作っていますよ。イラストをうまく使えば、英会話の初級者にも上級者にも使えるのがこのテキストのいいところですね。小倉:ありがとう。そう言ってくれるとうれしいね。
Cさん:先生は大学で授業をするときに、気を付けていることはありますか?
小倉:学生は、最初は頭の中に英語の文字を書いて読むことが多いんだ。これでは自由に話せるようにならない。自然に口が動くようになるまで繰り返し練習しろ、って言っている。
Cさん:語学学習では当たり前のことですね。でも伝統的な学校英語で学習すると、そういう弊害が出てくるかもしれませんね。小倉:最初のうちは、リピーティングをしても、英語をカタカナに直して頭の中に書いた文字を読む学生が多いんだ。流した英語音声と違う発音をするからすぐにわかる。とにかく最初は音真似を徹底させることだね。
Cさん:なるほど。でもとでの発音の違いとかsとthの違いとかはどうしますか?
小倉:発音のポイントをホワイトボードに書いて説明したり、フォニックス(Phonics:綴り字と発音のルールを教える教授法)のサブテキストを使ったりしている。日本の英語教育も昔と比べるとかなり実用的になってきたけど、たくさん英語を聞いていれば発音も真似できるようになると思っている人たちがいるのは、不幸だね。個々の発音(母音、子音)は先生が教えない限り、永遠にうまくならないよ。
Cさん:そうなんですか。
小倉:実際に僕が大阪府の高校で出張講義をするときに、簡単な発音指導もするんだけど、授業見学をしていたアメリカ人のALT(Assistant Language Teacher:外国語指導助手)が授業後に感激して、握手を求めてきたことがある。
Cさん:先生の授業がうまかったからじゃないんですか?
小倉:そうだったらいいんだけど、どうもそうじゃないんだ。そのアメリカ人が言うには「今まで、自分の英語の発音をたくさん聞かせれば、いつか生徒が真似してくれると思って授業してきたけど、いっこうにうまくならない。カタカナ発音ばかりだ。どうも日本人はおかしいんじゃないかと思ってきたけど、そうじゃないことが今日わかった。小倉先生が通訳訓練法を使い、発音指導をしたら50分の授業でたちまち生徒の発音がよくなったのでびっくりした。今度から僕も発音指導をやろうと思う」だって(笑)。
Cさん:発音指導をしないで、発音が良くなると思っていたんですね、そのALTは。
小倉:こんなことで日本人がおかしいと思ってもらったら困るね。それと日本語はおそらく世界の中でも数少ない「あまり口を動かさないでも話せる言語」だということ。発音がきわめて単純だということも話している。Cさん:たしかに英語を話すときは日本語と比べて口を大きく動かしますし、日本語にはないような母音や子音がたくさんありますね。
小倉:また日本語は母音言語と言ってもいいと思うけど、母音中心に発音するから、子音が弱いんだよ。英語を発音するときは、はじめのうちは、口を不自然なくらい大きく動かして、子音を意識して強めに発音しなさい、って、言ってる。そうしないと英語をうまく話せるようにならない(ただし、すでに発音がうまい学生には気にしなくてよいと伝えています)。
Cさん:なるほどよくわかりました。そのほかに英会話の初心者が注意しなければならないことはありますか。小倉:シャドーイングの時に、ひとつ気を付けないといけないことがある。
Cさん:それは何ですか?
小倉:日本語は子音だけで発音することがまずないから、特に語尾の子音を聞き取れないんだよ。だからシャドーイング練習を始めたばかりの学生は、単語の語尾の子音(特にt,d)を抜かして発音するんだ。
Cさん:具体的にどういうことですか。
小倉:The food was good.であれば、The foo- was goo,のように子音を省いて発音してしまう。慣れてないと日本語話者には微弱な子音は聞こえないから、やむを得ない。これは先生がチェックしてあげないとダメだね。一人でやるのなら時々自分の声を録音してみるといいね。
Cさん:大変参考になりました。これからも先生のテキストを使って、英語を話せる日本人を一人でも増やせるように頑張りたいと思います!

小倉:Aくん、Bさん、Cさんありがとうございました。それでは会場のみなさん、前置きが長くなりましたが、これからいよいよ、実際の通訳訓練法の体験に移ります。準備はいいですか?Are you ready?

小倉 慶郎 (著), ナディア・マケックニー (著)
出版社: ディーエイチシー; A5版 (2015/7/8)、出典:出版社HP

本書の使い方

本書には、計20レッスンが掲載されています。
◇どのレッスンから始めても、また途中のレッスンをとばしても問題ありませんが、まずはLesson1から順番に学習することをお勧めします。
◇各LESSONとも、STEP1~4の4ステップ(8ページ)構成です。
◇STEP1~4の順に学習を進めます(4ステップメソッド)。

4STEPメソッドとは?
STEP1クイック・レスポンス
単語・フレーズをアクティブにする練習
STEP2シャドーイング&リピーティング
口と耳を英語に慣らす練習
STEP3サイト・トランスレーション
文単位で話す練習
STEP4リプロダクション
まとまった内容を英語で伝える練習

プロ通訳の練習メソッドで、CDを使いながら、ひとりでもスラスラ話せるようになります。
次のページから、各STEPの学習方法を詳しく説明していきます

STEP1 Quick Response
クイック・レスポンス10~30分
GOAL
左側の日本語だけを見て、(隠した)右側の英語を瞬時に口で言えるようになる。

まずテキストを見ながら、CDに続いて英語を1回ずつ発音します。CDの音を真似るように心がけてください。
2、一通り発音したら、今度は1単語(フレーズ)ごとにCDを止めて、1つにつき3回発音してみます。この時も、CDの音をできるだけ正確に真似することを心がけてください。
<例>
CD[famous shrine] あなた[famous shrine][famous shrine][famous shrine]

覚えにくい単語(フレーズ)の場合、3回に限らず何度練習してもかまいません。
3.次に、右側の英語を手などで隠し、最初の単語・フレーズから順番に日本語だけを見
て、瞬時に英語で言えるように練習します。上から順番に言えるようになったら、今度は逆の順番でも練習してみましょう。日本語を見て、瞬時に英語が口から出てくるようになったら、STEP2に進んでください。
いつも間違えるところや覚えにくいところは、赤ペンやマーカーなどでチェックして、集中的に練習するのがコツです。できなければ、何度でも繰り返しましょう。

STEP2 Shadowing & Repeating10~30分
シャドーイング&リピーティング
GOAL(シャドーイング)
テキストを見ずに、英語の音声だけを聞いて口真似できるようになる。
COAL(リピーティング)
テキストを見ずに、CDのポーズのところで、口に出して英語を繰り返すことができるようになる。

シャドーイングCDトラックを再生して行います。
1.shadowは「影」。shadowingとは「影」のようについていく、という意味です。最初はテキストを見ながら、CDから聞こえた通りにほぼ同時に口真似していきます。英語を聞きながら話す練習です。
〈例〉
CD
Last year, I went to visit a famous shrine with my boyfriend on January 2nd.
あなた
Last year, I went to visit a famous shrine with my boyfriend on January 2nd.
2.もう一度CDを再生します。今度はなるべくテキストを見ないで行いましょう。
3.すらすらと口が動くようになるまで、何度か繰り返しましょう。まったくテキストを見ないで、すべてシャドーイングできるようになったら、リピーティングに進んでください。

リピーティングCDトラックを再生して行います。
1.CDには、テキストのスラッシュ(/もしくはII)ごとにポーズが入っています。このポーズのところで、直前に聞こえた英語を繰り返し発音する練習です。
CD
Last year, I went to visit…
あなた
Last year, I went to visit…
2まったくテキストを見ないで、すべて完璧にリピーティングできるようになったら、STEP3に進んでください。

ここからはCDを使わずに練習します。

STEP3 Sight Translation
サイト・トランスレーション10~30分
GOAL
左ページの日本語だけを見て、(隠した)右ページの英語を瞬時にロで言えるようになる。

1.左のページの日本語を見て、瞬時に英語に訳していく練習です。最初は右ページの英語を見ながら練習してかまいません。STEP1のクイック・レスポンスと原理的には同じです。クイック・レスポンスは単語・フレーズ単位の転換練習、サイト・トランスレーションは文単位で瞬時に転換する練習です。
2.右ページの英語を手などで隠し、左の日本語をだけを見て、すらすら英語が言えるよう
になったら、総仕上げのSTEP4に進みましょう!

STEP4 Reproduction
イラストを見てリプロダクション10分
GOAL
イラストだけを見て、英語ですらすらとナレーションできるようになる.

1.イラストを見て、レッスンのストーリーを英語で説明する練習です。ひとコマずつ、誰かにストーリーを聞かせてあげるつもりで、口に出して説明していきましょう。
2.うまくできない場合は、STEP3に戻ってください。イラストのコマ番号と、STEP3の段落番号が対応していますので、それを参考にしてください。
3.初中級者は、STEP3までに勉強した英文を文字通り「再生」するつもりで、上級者はレッスンの英文をもとにして別の表現にトライしてみましょう。イラストだけを見て、こっすら英語で説明できるようになれば合格です!(STEP4は難易度が高いので、だいたいできればOKです)

小倉 慶郎 (著), ナディア・マケックニー (著)
出版社: ディーエイチシー; A5版 (2015/7/8)、出典:出版社HP