CD付 英語リプロダクション トレーニング 短期間で飛躍的に話せるようになる! (CD book)

 


 

リプロダクショントレーニング-スタンダード

本書は、ひとりでスピーキングの練習をするときに役立つ教材です。題材が日常にある出来事に基づいているため、気持ちを込めたスピーキングの練習ができます。また、イラストが盛り込まれていたり、文章が難しすぎたりしないので、飽きずに続けることができるようになっています。

はじめに

今までにないアウトプット型教材

私は、通訳訓練法をやさしくアレンジした参考書を今までに出版してきました。『高速マスター英単語』(DHC)、『東大英語長文が5分で読めるようになる」シリーズ(語学春秋社)などです。まじめに取り組んだ読者のみなさんには大変好評で、感謝のお手紙も数多く寄せられています。これらの本は、通訳訓練法をもとに、英語の初・中級者でも実用的な英語力がつくように作成したものです。本書は、これらの本を一歩前進させ「アウトプット型」(英語を話すことに特化)にしたもので、英語を話せない人の特効薬になることを期待しています。

本書の練習法は、私が勤務する大阪府立大学の1年生の英語授業がベースになっており、すでに効果は確認済みです。本書のSTEP1~3までの練習をやり終えると、STEP4で「イラストを見ながら英語で説明する」という難易度の高いタスクが誰にでもできるようになります。このSTEP1~4までの練習を、本書ではリプロダクション(再生作業)と呼びます(注:通訳学校では「リプロダクション」はリピーティングとほぼ同じ意味で使われています)。順を追って勉強すれば、みなさんの英語を話す力が飛躍的に向上すると確信しています。

潜在的な英語力をアクティブに転換する

本書が対象にするのは、日本の中学校・高校で英語を学んだ人たちです。ということは本書を手に取った人すべてといってもよいでしょう。中学を卒業したばかりの人でもやる気次第で、十分に取り組めます。8ページからの「本書の学習をはじめる前に」で詳しく説明しますが、日本の学校で身につけた英語力(語彙・文法・構文や翻訳力)は、一見「英語を話す」のには役立たないように見えます。しかし、それらは潜在的な英語力としてみなさんの中に蓄積されているのです。その力を活性化させれば、極めて短期間で英語を話せるようになるという理屈です。仕掛けは極めてシンプル。通訳訓練法を使って、みなさんがすでに身につけているアクティブに転換すればいいのです。「中学・高校で6年間も英語を勉強したのに話せない!」という英語コンプレックスは、本書の勉強法を実践すればかなりの程度まで解消されるはずです。

20年間の授業の集大成

「私は、30歳を目前に通訳スクールで勉強し、プロ通訳者になった経歴があります。通訳スクールというとかなりの上級者を対象にしているというイメージがあります。事実、受講者のレベルは高く、訓練も厳しいものです。しかし、その厳しい訓練の中で気が付いたことがあります。通訳トレーニングを受けた人は、留学をしなくてもかなり流暢な英会話力が身についている、という事実です。私も留学せず、通訳トレーニングによって英語が話せるようになった一人です。過去20年間、このトレーニング法をなんとか英語の初・中級者にも応用できないかと考え、少しずつ大学の授業に改良を加えてきました。そして現在では、高校1・2年生程度の英語のベースさえあれば、誰でも英語を話せるようになる、という授業をすることができるようになりました。その授業の集大成が本書なのです。

通訳訓練法を使った学習法の最大の利点は、何よりも「ひとりで勉強できる」ということにあります。ネイティブの英語教師に習わなくても、海外留学しなくても、独学で、かなりの程度まで「話せる英語」を身につけることができるのです。英会話学校へすでに通っている人は、本書を併用すれば、スピーキング力が加速し長年の壁を打ち破れるはずです。留学を目指している人は、事前に本書で勉強していけば、それほど現地で話すのに困ることはなくなるでしょう。また、ビジネスで英語が必要な人も、現在すでにやっている英語学習と本書を併用すれば、話す力がいっそう強化されるはずです。

1日30分間英語を話し続けるには…

ここで、ずばり英語を話せるようになる最低の練習量をお話ししておきましょう。
英語を話す力を劇的に向上させるには、1日に最低30分は英語を話す訓練をしなければなりません。といっても、たとえ英語国へ行っても、努力しなければ1日30分間英語だけで話す時間を取ることは困難です。まして日本で、1日に30分間連続で英語を話す練習をすることは、大多数の学習者にとって不可能といってよいでしょう。しかし、このテキストを使って1日30分練習すれば、30分間ずっと、英語を話す効果的なトレーニングができます。なぜなら本書のStep1~4の練習は、すべてひたすら口を動かすトレーニングのみだからです。もちろん、1時間練習すれば、1時間の効果的な話す訓練ができるわけです。本書で練習すれば、飛躍的に練習量が増えるので、飛躍的に話せるようになるのは当たり前。筆者はそう考えています。
本書を上手に活用して、みなさんの英語を話す力が飛躍的に伸びることを期待しています。

最後になりましたが、素晴らしい英文トランスクリプトを書いてくれたナディア・マケックニーさん、オシャレなイラストを描いてくれたHACHHさん、そして本書をまとめてくれたDHC文化事業部・編集者の宮川奈美さんに感謝の言葉を捧げます。

2011年4月吉日小倉慶郎

小倉慶郎 (著)
出版社: ディーエイチシー (2011/5/11)、出典:出版社HP

もくじ

はじめに
本書の学習をはじめる前に
本書の使い方
Lesson 1 If the shoe fits…
他人事じゃないよ!
Lesson 2 It’s alive!
生きてる!
Lesson 3 Lost for words!
絶句!
Lesson 4 To tell or not to tell…
言うべきか、言わないべきか…
Lesson 5 It’s a real classic!
本当に名作!
Lesson 6 Social networking sites
交流サイト
Lesson 7 A new toy
新車がやって来る
Lesson 8 A bitter experience
ニガい経験
Lesson 9 Sorry, I missed your call
ごめん、電話に出れなくて。
Lesson 10 Talking about movies
映画について
Lesson 11 A wonderful holiday
素敵な休日
Lesson 12 Tea ceremony
茶の湯教室
Lesson 13 A slave driver
人使いの荒いヤツ
Lesson 14 I want to be fit!
健康なカラダづくりをしたい!
Lesson 15 A dream home
夢のわが家
Lesson 16 The zombies are coming!
ソンピが来る!
Lesson 17 Slave to my smartphone!
スマートフォンの奴隷!
Lesson 18 Hamster on the loose
ハムスターの逃亡劇
Lesson 19 If I won the lottery…
もし宝くじが当たったら…
Lesson 20 May I use your bathroom?
トイレを借りてもいいですか?
Lesson 21 It’s too hot!
暑すぎる!

本書の学習をはじめる前に

なぜ日本人は英語を話せないのか?

「日本人は中学・高校で6年間も勉強しているのに、英語を話せないじゃないか」。こういう批判をよく聞きます。難しい英文でも、時間をかければ辞書を引いて意味をだいたい理解できる。なのに、英語で簡単なコミュニケーションすら取れない――。これが、日本の学校で英語を勉強してきた人の、平均的な英語力でしょう。そしてこの状況を仕方がない、と思っている人が多いようです。「留学しなければ英会話なんてできない」。英語の専門家のなかには、「日本語と英語では、言語的に距離がある。文化も語彙も文法も違いすぎるから、習得が難しいのは仕方がない」、「中学・高校の英語学習時間が少なすぎるから無理なんだ」とまで言う方もいます。これは本当なのでしょうか。私の知る限り、世界中どこを見まわしても、こうした不思議な状況が見られるのは日本だけです。なぜ日本では、中学・高校の6年間英語を勉強しても、英語が話せるようにならないのでしょうか。

日本人には英語の習得が難しいという説

「日本語と英語は言語的・文化的に距離があるので英語の習得は難しい」。これは本当でしょうか。
英語を母語としないヨーロッパ人が、英語を習得しやすいことは言うまでもありません。なぜなら、ヨーロッパの言語は互いに親戚関係にあるからです。同じロマンス語系の言語を使うポルトガル人とスペイン人は、なんとお互いの言語で話しても意思を通じ合うことができます。言語は違っても、近い親戚関係にあれば、日本で方言が違う程度の感覚で通じるのです。たとえば日本で、東北が地元のおじさんと、九州が地元のおばさんがお互いの方言で話し合ったら、どうなるでしょう。わかりにくいところはあるにせよ、なんとか通じる、そんな感じです。厳密にいうと「方言」と「言語」は別物なので誤解してほしくはないのですが、「感覚」としてはかなり近いことは間違いありません。また、アジア域内を見回すと、インド・マレーシア・シンガポール・香港・フィリピンなど元イギリス・アメリカの植民地であったところは、今でも日常生活で英語が使われています。当然、英語習得面では断然有利です。
こうしたことを考えると、やはり「日本人が英語を習得するのは難しい」となるのかもしれません。少なくとも話し言葉としての英語を学ぶ条件としてはかなり厳しい、と考えるのも無理はありません。

日本の外国語学習の伝統

日本は、島国で四方を海で囲まれています。しかしハワイ諸島のように大陸からずっと離れた太平洋上にあるわけではありません。また、イギリスほど大陸とは近くありません。この微妙な位置が、日本の外国文化の受容、そして外国語学習に決定的な影響を及ぼしたようです。日本列島では、昔から、大文明の知識は海の向こうからやってきました。海外の偉大な知識を吸収するには、外国語を学ばなければなりません。といっても、“生きた言語”として話せる必要はありません。正確に読めればそれで十分でした。その状況の中で古代から近世にかけて発達したのが、「漢文の訓読」です。漢文は当時の東アジアを代表する知識の宝庫でした。漢文を読みこなせることこそ、世界の知識を手にできることだったのです。しかし、漢文を生み出した国の言葉を話せる必要性はありませんでした。そのため、漢文のもつ知識を、翻訳を通して吸収する方法が高度に発達したのです。漢文とは古典中国語の文章語のことですが、私たちが読むとき、一切中国語の発音はしませんね。いきなり日本語に訳して読んでいきます。例を挙げましょう。

子日、學而時習之、不亦説乎。

この漢文を読むとき、中国語で発音する日本人はまずいません。「子曰く、学びて時に之を習う、また説しからずや」と日本語に訳して読みます。しかも、日本式の語順で訳せるように、レ点、一・二点などの「返り点」をつけることも考案されました。外国語として話すことを無視しても、日本語に訳して意味さえ取れればよいーー。このやり方が、千数百年に及ぶ日本の外国語学習の伝統なのです。言語学者の鈴木孝夫氏は、この日本式外国語学習を評して「日本人は“死語”として外国語を学んでいる」といっています(鈴木孝夫「日本語教のすすめ』(新潮新書、2009年)など)。
物事には、常に良い面と悪い面があります。この漢文訓読法は、翻訳語を通して日本語の文章を豊かにしただけでなく、広く日本の近代化に役立ったという側面もあります(加藤徹『漢文の素養』(光文社新書、2006年)など)。しかしこれが、学校教育の英語にも受け継がれ、現在、発信型の英語を学ぶ上で障害になっていることは否定できません。

“死語”として英語を学ぶとは?

ここで「死語として英語を学ぶ」とはどういうことかを考えてみましょう。“死語”(dead language)といえば、西洋人なら、古典ギリシャ語やラテン語を思い浮かべるのが普通です。昔は話されていたが、もう日常生活では話されていない言語です。日本人にとっては、1000年前の『源氏物語』など、古典の授業で習った日本語を思い浮かべるといいでしょう。古典の日本語は、現在は俳句・短歌の中でかろうじて使われる程度で、日常生活で話されることはありません。この古い日本語を学校で学ぶとき、私たちがどうしたか思い出してください。品詞分解をしたり、動詞や形容詞の活用を暗唱させられたりしましたね。そして最終的に古典日本語を現代日本語に訳す、という形で学習しました。その際、注意しなければならないのは、「古典日本語を話す」訓練をしなかったことです。必要がないのだから当たり前と思われるかもしれませんが、「死語として学ぶ」とは、こういうことなのです。つまり、(1)詳細な文法を学習し、文を細かく分析する(死語は普段使われていないため、文法なしで理解できる「語感」がありません。「形」から正確な意味を認識できるようにするためには、詳細な分析が必要なのです)。(2)翻訳を通して読む。(3)その言語を話すことを前提としていない、ということです。これが「死語としての学習法」です。このやり方こそ、日本人が学校英語教育で採用している方法なのです。学校の英語の授業では、古典の授業と同様、一応テキストの音読はしますが、話すことを前提としていないので発音は重視しません。メチャクチャに近い発音という人もいます。そして自然な「語感」の意成は無視して、もっぱら文法的に解析し、訳読していきます。私は、大学教員として、高校まで出向き、1・2年生に英語の授業をすることもあります(「出張講義といいます)。また、高校の研究授業を見学することもあります。そしてそこで目にするのは、“死んだ言語”となっている英語の姿です。また、音声言語としての英語を習得している生徒がほとんど誰もいない、という状況です。

英語のカタカナ語化

ここで、現在使われている日本語も、英語受容型に特化していることをお話したいと思います。
日本語の表記には、ひらがな・カタカナ・漢字(時にはローマ字表記)が用いられています。英語を日本語に取り入れるときには、現代ではカタカナを使い、日本語式に発音する(すべての子音のあとに母音をつけ、抑揚をつけない)。これだけで日本語化の完了です。こんな便利な方式は世界でも日本語だけでしょう。たとえば、中国語の場合、外国語を中国語に直すとき、原則として漢字に直さなければなりません。日本でも、昔は漢字に直していた時代がありましたが、現在は外来語はカタカナ表記するのが普通です。
中国語では、外来語表記はその意味を表す漢字をあてるか、あるいは外来語の発音に似せた漢字を選びます。例を挙げましょう。まず意味を表す漢字をあてる例です。今、私が原稿を打っているpersonal computerは日本語ではパソコンです。中国語では「不人电磁(個人電脳)」と書き、この漢字を中国語読みにします。keyboardキーボード、softwareソフトウエア)、hardwareハード(ウエア)は、それぞれ「健密(鍵盤)」「軟件(軟件)」「硬件」です。西洋人の名前は原則として、その音に近い漢字を当てます。アメリカの大統領Obamaは日本語ではオバマですが、中国語では「奥」。音楽家のMozartモーツァルトは「莫札特、Beethovenベートーベンは「貝多芬」と表記します。
しかし音表記の場合、同じ音の漢字がたくさんあるので、みんな好き好きに漢字をあてていたら混乱してしまいそうですね。中国人の同僚の先生に聞くと、中国本土では、「人名の新語は、国営の新華社通信の表記に従う」のだそうです。
このように英語をカタカナ(時にはローマ字)で表記し、日本式に発首してす目にしてしまう方式はたしかに便利です。ですが、一方で大きな副作用ももたらしているのを忘れてはいけません。発信型の英語、つまり英語を話す力にマイナスの影響を及ぼしているのです。普通の日本人は、英語を聞いても、すべてカタカナに変換して日本語式に発音してしまいます。事実、日本の公立学校で教えている外国人教師の中には、「いくら学習しても日本人はなぜ英語らしい発音ができないのか。なぜ自分の英語の発音を真似ることができないのだろう」と悩んでいる人も少なくありません。

「翻訳語彙」の存在

次に、日本式外国語教育から生み出された「語彙」に絞って話を進めましょう。いよいよ本題です。英語の語彙はpassive vocabulary(読んだり、聴いたりして理解できる語彙)とactive vocabulary(話したり、書いたりできる語彙)に大きく分けられるといわれます。しかし、これは「英語を英語のまま理解できること」が前提となっていることを忘れてはなりません。実は日本人学習者の場合、英語だけでは理解できない、日本語に訳さないと理解できない語彙が大半を占めています。これは前述のように、“死語”として外国語を学習する伝統から来たものです。私はこれを「翻訳語彙」と呼びます。皆さんの語彙が翻訳語彙であるかどうかを調べるためには、学習英々辞典を読んでみると手っ取り早いです。学習英々辞典はやさしい単語のみで書かれています。この定義をさっと読んでもわからないのであれば、皆さんの語彙はほとんどすべて「翻訳語彙」だと断言することができます。

では、ここで最初に投げかけた質問に答えましょう。難解な英文を読めるはずの日本人がなぜ英語をさっぱり話せないのか。それは、日本の伝統となっている「死語としての外国語学習」が原因です。そして語彙の面から見れば、「翻訳語彙」が問題なのです。この「翻訳語彙」を(英語だけで理解できる)passive vocabularyや(英語だけで発信できる)active vocabularyに転換しなければ、目由に英語で意思疎通をすることはできません。
翻訳語彙→passive vocabulary→active vocabulary

日本の学校教育で英語を学習した人なら、すでに翻訳語彙は身につけています。
その翻訳語彙を、このように左から右へと転換させれば、話す準備は完了です。もちろん中学校程度の英文法は終えているということが前提ですが、これもほとんどすべての日本人が学習しているはずです。ですから、あとは翻訳語彙をアクティブな状態に転換させれば、ある程度の英語を話すことができるようになるという理屈なのです(ここでは話をわかりやすくするために、言語、文法構造、発音、文化、心理その
他の要因を無視しています。日本人が英語を話す際の最大の阻害要因と思われるものを取り出し、その改善策を提示しているとお考えください)。

大学で私の授業を受講する学生は、伝統的な日本の学校教育を受けてきた学生ばかりです。したがって大学入学時にはほとんど英語を話せません。彼らは英語専攻の学生ではありません。また、必修の英語の授業なので、特別モチベーションが高いわけでもありません。しかし、私の授業を週1回受けるだけで、半年もすれば見違えるように実用的な英語能力に変わります。その秘密は、中学・高校で学習した“死語としての英語”を、通訳訓練法によって“生きた英語”(=音声言語としての英語)に転換させるところにあるのです。一から“生きた英語”を習得させようとしたら、この程度の回数の授業・期間では絶対に不可能でしょう。

通訳トレーニングで話せるようになる理由

英語力改善のための通訳訓練法はそのほとんどが、日本の通訳スクールで開発された、と私は考えています。通訳の歴史に詳しい人なら、シャドーイングは、ヨーロッパか旧ソ連、あるいはアメリカで最初に開発されたのではないか、と思う人がいるかもしれません。その通りです。しかし、現在、ヨーロッパなどで通訳訓練の際にシャドーイングをする場合、あくまで同時通訳のウォーミング・アップとして行われるだけです。同時通訳では、日常私たちがやらない、「聴きながら話す」という行為をします。その感覚を体験してもらうために予備訓練として行うのです。外国語習得、外国語力改善などの目的でやるわけではありません。シャドーイングは、プロソディ(英語のリズム、アクセント、イントネーショなど)の改善に効果があり、スピーキングにプラスになることが確かめられています」という行為をいます。私の観察ではこの他に以下の効用があります。

(1)翻訳語彙がpassive vocabularyに変わる。したがって日本語に訳さなくても英語が理解できるようになる。
(2)(1)の結果、リーディングでも訳さなくて理解できるようになる。
(3)リスニング力がアップする。

このようにシャドーイングだけでも、日本人の英語力改善の上でさまざまな効用があるわけです。その背景には、日本語と英語の発音体系が大きく異なっていることだけでなく、“死語”として英語を学ぶ、日本の伝統的な学習法が根底にあります。すでにお話ししたように、日本の伝統的な外国語学習では、聴くことも話すこともほとんど無視しています。ですから、「聴く・話す」を同時に行うシャドーイング訓練を行えば、大きく“生きた英語”に近づくことになります。また、翻訳語彙を(英語だけでわかる)passive vocabularyに転換できるので、リスニング力とリーディングカが同時に飛躍的アップするのです。日本人学習者にはシャドーイングが非常に効果的で、実際にTOEICの点数が大幅に上昇したりするのには、こういう“からくり”があると私は考えています。

実は、ヨーロッパなど海外の研究者の中にはシャドーイングに対する否定的な意見があります。日本でも「シャドーイングは、第二言語(外国語)習得とは全く関係ない」と断言する研究者までいます。しかし、今まで見てきたことを総合すれば、シャドーイングは、伝統的学習法で学んだ“死語としての英語”を“生きた英語”に変えることができるので、日本人に劇的な効果があるのだ、ということがわかっていただけると思います。一方、普通に生きた外国語”を学習しているヨーロッパ人がシャドーイングをしても、ほとんど効果が認められないのは当然のことなのです。

通訳訓練法による効果

本書では、クイック・レスポンス、シャドーイング、リピーティング、日中ドサイト・トランスレーションという4つのトレーニング法を取り上げました。下は、それぞれのトレーニング法が、主に語彙にどのような効果をもたらすかと示した表です。これは、厳密にデータを取ったわけではなく、私が授業中に学生を観察して判断したものです。

訓練法の名前 訓練の内容 効果
クイック・ レスポンス STEP1 日本語を見て、瞬時に英単語・フレーズを口で言えるようにする練習
単語・フレーズ単位ですぐに英語を口に出せるようになる→単語・フレーズ単位で、翻訳語彙をactive vocabularyに 変える。
シャドーイング STEP2 英語の音声を聞きながら、音声に沿って口まねする練習
発音やイントネーションが改善する。英文を、日本語を介さずに理解できるようになる→翻訳語彙をpassive vocabularyに変える。
リピーティング STEP2 英語の音声を聞いたあとに、それを口で再現する練習
意味のかたまりの単位で、語を口に出せるようになる→より大きい単位でactive vocabularyに変える。
日→英サイト・トランスレーション STEP3 日本語を見ながら、どんどん英語に訳していく練習
文単位で英語を口に出し、話せるようになる→文単位でactive vocabularyに変える。

本書ではまず上記の4つのトレーニング法を使って、「翻訳語彙」を使える語転換する訓練を集中的に行います。そしてその成果を、イラストを使ったナレーション(本書では、「リプロダクション」と呼びます)で確認する、というプロセスを採っています。

潜在的な力をつける、伝統的な英語学習法

ここで、誤解してほしくないのは、従来の日本の英語教育は決して間違っていたわけではない、ということです。日本のように、外国語を話す必要性がない国では、死語として外国語を学ぶ方がむしろ効率的でした。この方式ならば、大人数のクラスで、先生が一方通行で教える授業が可能です。知識を問うだけなので、ペーパーテストにも向いています。また、学習者の方も、辞書さえ引けば英文の意味を取ることができるようになります。そして、一見コミュニケーション力が無いように見えても、この伝統的な英語学習で培った力――文法、構文、語彙一一は潜在的な力として蓄えられていることを忘れてはいけません。留学をすれば、その効果がはっきりします。潜在的な力が、実用的な英語力に転換されるからです。通常、英語をゼロから勉強し始めたら、1~2年の留学期間で、英米の大学の授業を受けて単位を取るのは不可能です。しかし、それが可能なのは、日本の学校で勉強した文法、構文、語彙などの土台があるからです。過去、日本人が海外へ留学して成功をおさめ、日本の発展に貢献できたのは、一見役立たないように見える「日本式英語学習」という土台があったからといっていいでしょう。

「もしも」ですが、過去、日本のすべての学校教育で、コミュニケーション主体の授業だけをしていたらどうなっていたでしょうか?日本の公立学校の場合、英語を学ぶ時間は限られており、40人という大人数に教えなければなりません。文法・構文・語彙などを翻訳を通して学ぶ――英語を死語として学ぶ――際にはそれほど問題はありません。他の教科と同じやり方で、知識を教え込むだけですみます。しかし、コミュニケーション主体の授業では、きちんと条件が揃わなければ、何も学ばないで終わる可能性があります。コミュニケーション主体の英語授業の場合、少人数の授業で授業回数を増やして集中訓練しなければ効果が現れません。このことは、民間の英会話学校や英語コミュニケーション能力の育成に力を入れている私立中・高の英語授業を見ればわかります。ですが公教育で、「少人数」で「集中」してやることはまず不可能です。そしてもしも学校教育でほんの少しの英会話力を身につけたとしても、日本の環境ではそれを維持することは困難です。話す英語は、使わなければ、どんどん錆びついていきます。身についたはずのものが、使わなければすぐに消えてしまいます。一方、英語が話されて

いる国であれば、学校で習った英語は、学校の外でも使えます。学外で話す必要性があるために、「学校で習う」「学校の外で使う」といった相乗効果で、ますます英語が話せるようになるでしょう。日本では、日常生活では全く英語を使う機会がありません。そのため、よほど集中的に英会話を学習しない限り、覚えたあとからどんどん忘れてしまうという悪循環に陥る可能性があるのです。そして結局ほとんど何も身につかない恐れがあるわけです。その事態を避けるためにも、今まで日本が死語としての英語教育を続けてきたのは、賢明だったのかもしれません。

日本の立場の変化と英語教育

一昔前までは、確かにこの日本の伝統的な外国語学習法は十分に機能しました。海外の知識を輸入する上で役に立ち、最終的には日本の近代化に大きく貢献したのは間違いありません。しかし、いまや状況は変わりつつあります。日本は、いつのまにか後進国ではなくなりました。海外の知識を一方的に輸入する立場から、先進国・中心国の仲間入りをしたのです。そして今や「普遍語」「国際共通語」となった英語を使って世界に発信する立場に置かれています。死語として英語を学び、理解するだけではすまなくなったのです。最近、複数の日本企業が英語を社内公用語とすることを宣言しました。また、高校では2013年度から「授業を英語で行うことを基本とする」学習指導要領が実施されます。このように、現在、日本の英語学習には大きな変革が起きようとしています。日本の学校教育で勉強してきた人は誰でも、発信型の英語力、コミュニケーション力を身につけることが求められているのです。
この変革の背景には、国際社会における変化があります。まず、ここ数十年で「学術・ビジネスの言語として、英語が圧倒的な地位を占めるようになったこと。そして日本が中心国の仲間入りをし、情報を発信する立場に変わったこと。この2つが、現在の日本の英語学習・教育に大きく影響を及ぼしているのは間違いありません。

イマージョン教育と通訳訓練法

英語教育を、「エリート教育(elite education)」と「一般教育(mass education)」に分けて考えましょう。日本で、多くの人に実用英語力を習得させることに成功した教育方法は、今までに2つしかないと私は考えています(といっても、民間レベルで、少人数の生徒に対して素晴らしい成果を挙げている教育例は数多くあります。素晴らしい先生方は全国にたくさんいらっしゃいます。私がそのことを知らないわけではありません。ここでは、見える形で社会に多大な影響を与えた教育法という意味でお話ししています)。

一つは、「英語イマージョン教育(English immersion)」です。これは、数学、理科など学校教育のほぼすべての科目を英語で教える方法です。明治の初めに全国7か所で開校された官立英語学校は、この方式で中等教育レベルの英語教育を行い、成功を収めました。内村鑑三、新渡戸稲造、岡倉天心といった明治期の英語の達人はここから生まれているのです。ご存じのとおり、彼らは立派な英文の著書まで残しています。大成功と言えるでしょう。ただし、このシステムを日本で成功させるには私はエリート教育が必要だと考えています。選り抜かれた高い知力の生徒、しかもモチベーションも極めて高い生徒を選抜しなければ、十分な効果は得られないでしょう。日本の指導者層の英語力が落ちると、国際社会での日本の競争力が落ちるのは確実です。ですから、この方式はエリート教育としてこれからも有効でしょう。現在は、いくつかの大学で国際教養学科(学部、大学)などがこの試みを続けています(なお、幼年期からのイマージョン教育についてはここでは触れません)。

このように、エリート教育としては、イマージョン教育は日本でも成功事例があります。しかし、この方式を一般教育で行うことは無理でしょう。もしも、全国の小学校・中学校・高校のレベルで全教科を英語で教えるとなると、膨大な労力、膨大な資金が必要です。教師養成にも長い年月が必要でしょう。そして何よりも、これだけ集中的な英語教育をすると、もはや日本、日本人ではなくなる恐れがあります。日本人が日本語を失い、日本文化が消滅しかねないわけです。明治時代のイマージョン教育、「英語学校」の試みは成功したにもかかわらず、わずか数年で終わりを迎えました。国家財政上の問題が理由と考える人もいますが、最大の理由は、日本人としてのアイデンティ消失の懸念が浮上したからかもしれません。もう一つの成功例は、1960年台から民間の通訳学校で用いられている「通訳訓練法」です。通訳学校では、この訓練法をベースとした英語教育を行い、今までに数万人単位の語学エキスパートを養成しています。

大学の授業での実践

最後に大学での私の英語授業についてお話ししましょう。私の授業のベースは通訳訓練法です。そして授業改良の基本方針は、とにかく教師が学生を注意深く観察することです。試してみてうまく行ったことは続け、効果がなかったことはやめる。それだけです。この数年は、特に英語を話せるようになる授業を目指してきました。そして、週1回、90分の授業でも以下の3つを実践すれば、短期間で学生の英語が見違えるほど実用的なものに変わることが判明しました。
(1)phonicsで発音の矯正をする。

(2)通訳訓練法を用いたトレーニングを行う。
(3)聴く分量を増やすため、授業外の課題としてラジオのNHK語学番組(英語)を、1日2つ聴くことを勧める。

(2)が本書で採用したトレーニングです。これを一般読者にも知ってもらいたいために本書を執筆したわけです。この訓練だけでも絶大な効果があるのですが、日本の中学・高校で勉強してきた学生は、英語の発音をきちんと学んでいません。そのため、授業のはじめの10分間を割いて、(1)のphonicsで発音矯正をしています。phonics(フォニックス:英語のつづりと発音の関係を学ぶ学習法)については、多数の教材が出ていますので、それに収録されているネイティブの発音をよく聞き、できるだけ真似してみてください。これだけでも発音の向上につながります。
(3)は聴く力の強化です。本書の目的はスピーキング力を伸ばすことですが、すると聴く力も大切になってきます。NHKラジオの語学番組は、現在インターネットでも放送が聞けるようになって大変便利になりました。自分が聞いてみてなんとかわかる程度のラジオ放送を2番組、毎日聞き続けるのがいいようです。これで、スピーキング力とリスニング力という、英会話の2つの柱が揺るぎないものになります。皆さんにも、本書でスピーキング力をつけると同時に、リスニング力を強化することをお勧めします。

ここまで執筆したところで、大阪府立大学から2010年度の機構長教育奨励賞(優秀教師賞)を授与する、という一報が入ってきました。この賞は、学生アンケートが基準になっています。筆者の実践的な英語力習得の試みが学生に認められ、大学にも公式に認知されたことは、この上ない喜びです。

それでは、次ページからいよいよ「本書の使い方」です。あとは実行あるのみ。よく読んで実践してみてください。

小倉慶郎 (著)
出版社: ディーエイチシー (2011/5/11)、出典:出版社HP

本書の使い方

本書には、計21レッスンが掲載されています。
◇1LESSON=STEP1~4の4ステップ(8ページ)構成です。
◇各レッスンとも、STEP1~4の順に学習してください。
◇どのレッスンから始めても、また途中のレッスンをとばしても問題ないように構成されています。ですが、レッスンが進むにつれて、英文スクリプトが長くなりますので、まずはLesson1から順に学習することをお勧めします。

STEP1 Quick Response
クイック・レスポンス10~30分
GOAL左側の日本語だけを見て、(隠した)右側の英語を瞬時に口で言えるようになる。

1.まずテキストを見ながら、CDに続いて英語を1回ずつ発音してみましょう。今度は1英単語(フレーズ)ずつCDを止めて、1つにつき3回発音してみましょう。その際、CDの音をできるだけ正確にコピーすることを心がけてください。
〈例〉
CD[go out for a drink] あなた:[go out for a drink][go out for a drink][go out for a drink] 覚えにくい単語(フレーズ)の場合、5回、6回と回数を増やしてもかまいません。

2.次に、右側の英語を手などで隠し、最初の単語・フレーズから順番に日本語だけを見て、瞬時に英語を口で言えるように練習しましょう。上から順番に言えるようになったら、今度は最後から逆の順番で言えるように練習しましょう。これができたら合格です!
いつも間違えるところは、赤ボールペンやマーカーなどでチェックして、集中的に練習するのがコツです。できなければ、何度繰り返しても構いません。

STEP2 Shadowing & Repeating
シャドーイング&リピーティング10~30分
GOAL(シャドーイング)テキストを見ず、英語の音声だけを聞いて口まねできるようになる。
GOAL(リピーティング)テキストを見ずに、ポーズのところで、口に出して英語を繰り返すことができるようになる。

シャドーイングのCDトラックを再生して行います。1.shadowは「影」。shadowingとは「影」のようについていく、という意味です。最初はテキストを見ながら、CDから聞こえた通りにほぼ同時に口まねしていきます。英語を聞きながら話す練習です。
<例>
CD I went out for a drink with some of my coworkers…
あなたI went out for a drink with some of my coworkers…
2もう一度CDを再生します。今度はなるべくテキストを見ないで行いましょう。
3すらすらと口が動くようになるまで、何度か繰り返しましょう。まったくテキストを見ないで、すべてシャドーイングできるようになれば合格です!

リピーティングCDトラックを再生して行います。
1.CDには、テキストのスラッシュごとにポーズが入っています。このポーズのところで、直前に聞こえた英語を繰り返してください。
<例>
I went out for a drinks…
あなた
I went out for a drinks…

2.まったくテキストを見ないで、すべてリピーティングできるようになれば合格です!
次からはCDを使わずに練習します。
STEP3 Sight Translation
サイト・トランスレーション10~30分
GOAL
左側の日本語だけを見て、(隠した)右側の英語を瞬時に口で言えるようになる。

1.左のページの日本語を見て、瞬時に英語に訳していきましょう。最初は、右側の英語を見ながら練習してかまいません。STEP1クイック・レスポンスと原理的には同じです。クイック・レスポンスは単語・フレーズ単位の転換練習、サイト・トランスレーション文単位で瞬時に転換する練習です。
2.右ページの英語を隠し、左の日本語をだけを見て、すらすら英語が言えるようにな合格です!

STEP4 Reproduction
イラストを見てリプロダクション10~30分
GOAL
イラストだけを見て、英語ですらすらとナレーションできるようになる。

1イラストを見て、レッスンのストーリーを英語で説明していきます。ひとコマずつ、誰かにストーリーを聞かせてあげるつもりで、口に出して説明しましょう。
2うまくできない場合は、STEP3を参照してください。コマ番号と、STEP3の段落番号が対応しています。
3.初中級者は、STEP3までに勉強した英文を文字通り「再生」するつもりで、上級者は既習の英文をもとにして別の表現にトライしてみましょう。イラストだけを見て、すらすら英語で説明できるようになれば合格です!

小倉慶郎 (著)
出版社: ディーエイチシー (2011/5/11)、出典:出版社HP