CD付 英語リプロダクショントレーニング入門編: 通訳メソッドで、話す力が飛躍的にのびる! (CD BOOK)

リプロダクショントレーニング入門!

本書は、ネイティブ教師に教わったり、海外留学したりしなくても、英会話力をあげることのできる本になっています。初心者向けに無駄なく英語で話すことができる力を習得できます。入門編のため、内容はビジネスではなく日常的なものです。

はじめに

入門者向けのリプロダクション・トレーニング
2011年5月にDHCから刊行された『英語リプロダクショントレーニング』(以下『英語リプロ」と表記)は、話せるようになる英語教材として読者の皆さんの支持を着実に得ています。「今までにない効果を実感できた」など感激のお便りをいただきました。街の書店に行くと、英語を話す基礎を練習する参考書はたくさんあります。しかし具体的な方法を示し、本当に英語を話せるようになる参考書は、『英語リプロ』だけといってもよいかもしれません。

「英語リプロ」はプロ通訳者の強化メソッドをもとに、「英語を話す」ために必要な訓練を4ステップに圧縮したものでしたが、本書は入門用として、初級の学習者が取り組みやすいようさらに工夫を加えました。具体的には、次のような改良を行いました。

(1)クイック・レスポンス(単語の練習)を割愛、練習を4ステップ→3ステップと単純化した。
(2)リプロダクション(イラストを見て練習)にヒントとなる語句を増やし、初級者でも取り組みやすいようにした。
(3)東京で会社勤めをする20代の男女を主人公として設定し、親しみやすく思わず学習したくなるようなリアルなストーリーとした。
(4)台本は、モノローグ(独白)だけでなく、対話形式を織り交ぜ、より実用的で飽きのこないものにした。また日常よく使う口語表現も積極的に採用した。
(5)CDの最後にLesson1~20のスクリプトをすべてナチュラル・スピードで収録した。これによって、シャドーイング(CDを聞きながら聞こえた通りに口で真似る練習)の力試しをすることができ、学習者は上達度を確実に実感できる。

このように5つの点で改良を加えました。

語学のプロが必ずやっている外国語学習の王道
「第二言語習得(second language acquisition)という学問分野があります。この分野の専門家の研究を私なりにまとめれば、外国語習得の王道は、「読む・書く・聞く・話す」を大量にやる、しかも自分よりも少し上のレベルの教材を使うのがよいということになるでしょう。これは外国語を学ぶ際のキーポイントです。語学のプロたちは例外なく、この王道を歩んでいます。多くの人が海外へ留学したり、国内では英語漬けの学校の授業を行い、企業内では社内公用語を英語するなどの試みが行われていますが、これらはすべて「読む・書く・聞く・話すを大量に」の王道を実現しようというものです。
これは、「環境依存型学習法」ともいえるでしょう。英語しか使えない環境に朝から晩まで身を置いて語学力を磨こうというわけです。この形の学習方法は、極めて自然です。本人のモチベーションが極めて低いとか、よほど間違った方向に走らない限り、成功率は100パーセントに近い。まさに「王道」と言われるゆえんです。
しかしこの「王道」を完全に実践できるのは現在の日本では、ほんの一部の人だけです。数週間の語学研修ならいざ知らず、1~数年の正規留学(単位や学位を取るための留学)ができる人は限られていますし、全授業を英語で行う「イマージョン教育」を受けられる人もごくわずかであるなど、環境作りからハンデを負ってしまっているのが現状です。

留学しなくてもスピーキング力を身につけることは可能
だからといってあきらめることはありません。ひとりでも、留学しなくても、英会話学校に行かなくても、やり方次第で英語のスピーキング力を上げることは可能です。その方法とは、本書が提唱するメソッドで「1日30分間、ひたすら口を動かすトレーニング」をすること。『英語リプロ」も本書も、1日約30分の学習をすれば、その間ずっと英語を話す効果的なトレーニングができるように学習ステップがつくられています。このプロ通訳者の訓練法をベースとしたトレーニングをすれば、誰でも、一人で英語を話す時間を飛躍的に増やすことができます。ですから、短期間で飛躍的にスピーキング力が上がるというわけです。
残念ながら、日本の学校教育は、英語を「話す」ための学習方法を教えていません。「死語としての外国語学習」がすっかり伝統となってしまっています。これが体に染みついているので、日本人の多くは大人になっても「死語としての学習法」から逃れられなくなっているのです。しかし、英語を話せるようになりたいのであれば、その伝統から脱却しなければなりません(詳しくは、「本書の学習をはじめる前に」をお読みください)。
本書がその一助となれば、著者としてこれ以上うれしいことはありません。
最後になりましたが、本書の作成にご協力いただいた人たちに感謝したいと思います。彼らの尽力が無ければ、本書は完成しませんでした。すぐれた英文トランスクリプトを書いてくれたJasonTakadaさん、いつも素敵なイラストを描いてくれるHACHHさん、録音・音声編集を担当してくれたELECの山口良太さん、そして台本の原案からイラストの下書きまで獅子奮迅の活躍をしてくれたDHC文化事業部の編集者、宮川奈美さん、今回も本当にお世話になりました。ありがとうございました。

2012年10月吉日小倉慶郎

もくじ

はじめに
本書の学習をはじめる前に
本書の使い方
Lesson1 Commutingonthe Train
通勤電車で
Lesson2 Where to Go for Lunch
今日のランチ、どうする?
Lesson3 In a DVD Store
レンタル店で
Lesson4 A Friend’s Upcoming Marriage
友人の結婚
Lesson5 Returning to the Family Home
実家に帰る
Lesson6 Cooking at Home
料理に挑戦!
Lesson7 Work Seminar
セミナーに参加する
Lesson8 In decisive Friend
はやく決めて!
Lesson9 At an Izakaya After the Seminar
懇親会にて
Lesson10 Business Trip to Nagoya
名古屋へ出張
Lesson11 Going to the Hospital
病院へ行く
Lesson12 Match-making Party
合コンで
Lesson13 Talking to a Clienton the Phone
仕事の電話
Lesson14 Online Shopping
ネットショッピング
Lesson15 Not Another Hangover!
二日酔いの朝
Lesson16 What Should I Wear Today?
着ていく服がない!
Lesson17 Thinking about the Future
将来の夢
Lesson18 Checking out the Horoscopes
星占いを見る
Lesson19 At an Airport
空港で
Lesson20 Lovers Are Fated to Find Each Other
運命の出会い

本書の学習をはじめる前に

*急いで本書をマスターしたい人は、この部分はとばしてもかまいません。「本書の使い方」(P20~)から始めてください。

通訳訓練法との出会い

まず、私が通訳訓練法と出会った頃のことをお話しましょう。私が通訳スクールに通い出したのは、30歳を目前にした頃です。当時、私には実用的な英語力はほとんどありませんでした。

私が通ったのはインタースクール大阪校です。スクールに通い始めて驚いたことはいくつかありますが、そのうちのひとつが、「日本で勉強しても、長期海外留学者と同等の英語力を身につけることができる!」ということでした。当時も、そして今も、インターグループの通訳者、インタースクールの講師として活躍している人の多くが、海外留学経験がありません。それでも、日本だけで学んだ語学力で、中学・高校・大学時代に長期海外滞在した人たちと対等に通訳の仕事をこなしているのです。
当時、真剣に通訳者向けの勉強を始めた私の前に立ちはだかったのは、長期海外滞在者、つまり帰国子女との語学力の差です。留学しないと通訳者になれないのではないか。そう思った私は、その疑問を当時のスクールの統括責任者にぶつけてみました。

「留学しないとプロ通訳者には不利になりますか?」

返ってきた答えは、次のようなものでした。

「海外留学した場合と日本で英語を勉強した場合とでは、それぞれ長所・短所があり、どちらがいいとは一概には言えません。海外へ留学すると口語表現やスラングを学べ、異文化についても勉強できます。しかし話し方に癖ができてそれがマイナスになる可能性もあるんです。一方日本だけで勉強した場合、文法的にきちんとした英語を話せるようになるという長所があるんですよ」

この言葉は今考えてみても正しく、当時通訳者を目指していた私が、どれだけ勇気づけられたかわかりません。

語学学習の正しいやり方

貴重な異文化体験ができる海外留学は、できるのならもちろんした方がいいに決まっています。しかし、英語を話す「環境」が無い日本でも、リスニング・スピーキングの正しい勉強法を実践すれば、長期留学者と同等のレベルに達することができるのです。その方法として、スクールが教えてくれたのが、シャドーイング、リプロダクション(本書ではリピーティングと呼んでいます)、サイト・トランスレーションなどでした。これらのトレーニング法は、もともと同時通訳者養成のために考案されたトレーニング法ですが、日本人学習者の英語力強化に効果があるとわかり、しだいに英語学習用に転用されていったものと考えられます。

日本人のための英語トレーニング”シャドーイング”誕生

シャドーイングは同時通訳をする際のウォーミングアップとして、欧米で行われていたものです。しかしそれが第二言語(外国語)習得や改善に効果があると認識され、そのための練習法として確立されたのは日本においてです。それはいつ、誰によってなのか。ここで、私説を述べたいと思います。著者が調べたところでは、現インターグループ会長の小谷泰造氏が練習法確立に深く関わっていたようです。

2008年、「毎日新聞」の「私のビジネス」で小谷氏へのインタビューが3回にわたって掲載されました。その中で、小谷氏はご自分の人生について詳しく語っています。以下、6月17日および7月1日の夕刊(共に関西版)の記事をもとにして、日本人のための実践英語習得法“シャドーイング”誕生の経緯を書いていきたいと思います。

小谷氏は1957年早稲田大学文学部を卒業後、アメリカへ留学しました。当時文子部卒では就職先がなかった、というのが主な理由です。小谷氏は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校などで計3年間、ジャーナリズム等を学び、61年に帰国。このころ日本では64年の東京オリンピックを目前に控え、英語の需要が高まっていました。

小谷氏は、アメリカでの経験を買われ、オリンピックの準備を進めるNHKで職を得ました。仕事の内容は、NHKとアメリカのテレビ局NBCの契約書作成の手伝いでした。しかしこの仕事はすぐに辞めてしまい、地元大阪に戻ります。以下は、7月1日の記事からの引用です。

大阪に戻ってしばらくすると、今度は相愛女子大学から英語の専任講師の声がかかる。当時、LL学習が流行し始めた。大学から、機械設備や学習の仕方を調べてほしいと注文された。

「LL学会に出てみて、これは違うと思いましたね。英語圏の人がドイツ語を学んだり、その逆だったり、つまりインド・ヨーロッパ語系同士ならいいでしょう。文法も似ているし、同じような言葉もある。しかし日本語のように文化的背景が全く違う言葉には難しいと直感しました」

小谷氏は当時流行のLL学習は日本人向きではないとすぐに見抜き、日本人向けの教授法を模索し始めます。
それではどうすれば一。小谷社長は当時、商業英語で有名だった羽田三郎・大阪外国語大(現・大阪大)教授のアドバイスを受け、清風学園の協力でLL教室を使わせてもらいながら試行錯誤で学習法を考えた。……英語を聞いて口まねさせる。何度もまねるうち、次第に内容が分り、しまいには自分の言葉になってしまう
「今ではシャドーイングと呼ばれている学習法です。やっているうち、同時通訳ができる人が出てきて、それを仕事にしたいと言い出したんですね。(以下略)」
こうして66年9月に小谷氏は、インターグループおよび同時通訳者養成機関としてのインタスクールを創設することになります。

60年代半ばに、小谷氏が日本人向けの英語学習法を模索しながら非常に効果がある、と考えたのがシャドーイングでした。考えた、というよりも実際に効果が上がったのです。日本で同時通訳ができる人材を作れるまでの効果があったからこそ、このトレーニング法を採用したのでしょう。この時はじめて、同時通訳のウォーミングアップではなく、日本人英語学習者のための練習法“シャドーイング”が誕生したのではないか、と私は考えています。少なくとも、小谷氏が、日本でシャドーイングを積極的に英語トレーニングとして取り入れた最初期の人物と言えば間違いないでしょう。

インタースクールの創立からかなり長い間、スクール内ではシャドーイングは「フォロー」と呼ばれていました。しかし少し疑問もわきます。この記事からすると、小谷氏は羽田三郎氏からシャドーイングを教えてもらったようにも読めます。羽田氏は商業英語の専門家で、同時通訳の訓練法など知るすべもなかったはずです。そう思った筆者は直接小谷氏に聞いてみることにしました。誰からこの練習法を聞いたのかという私の問いに、こう答えが返ってきました。「斎藤美津子さんから聞いたんじゃなかったかなあ」。

斎藤美津子氏(1924~2004年)は、長年、国際基督教大学(ICU)で同時通訳者の養成に関わり、株式会社コミュニケーターズを創立した、日本における会議通訳者養成の草分けです。おそらく斎藤氏は、ICUの学生に同時通訳を教える際、アメリカで学んだ(あるいは当時アメリカ国務省通訳を務め帰国したばかりの小松達也氏、村松増美氏、國弘正雄氏などの日本人から聞いた)シャドーイングを行っていたのでしょう。帰国子女が多いICUのレベルからすると、授業では、同時通訳のウォーミングアップとしてシャドーイングが行われていたと考えられます。それを、斎藤氏と親交のあった小谷氏が聞き、試しているうちに日本人の英語習得に大きな効果があることがわかった。そこで66年に開設されたインタースクールでは日本人学習者のためのトレーニングとして積極的に取り入れた――これが真相のように思います(当時の記憶をお持ちの方は、DHC編集部経由で小倉まで情報をお寄せください。事実であると確認された場合、本書の改訂版、もしくは今後の筆者の著書の中で取り上げさせていただきます)。

世界では、多言語話者は「環境」で作られる

ここで、海外の事情に目を向けてみましょう。
欧米の通訳訓練は主に大学院レベルで行われるのが普通です。なぜなら、欧米、特にヨーロッパでは、2か国語ができるbilingualだけでなく、数カ国語を自由に扱うことができるmultilingualが非常に多くいるからです。したがって大学院では、通訳技能の訓練と通訳理論を学ぶことが中心であり、第2言語(第3言語、第4言語etc.)を伸ばす必要などないのです。彼らはもともと「環境」によって複数の言語を習得しているからです。一方日本では、bilingualが稀なだけでなく、3か国以上の言語を高いレベルで習得している人にはめったにお目にかかれません。

筆者が、7年前に大阪外国語大学(現・大阪大学)で教えたインナはウクライナ出身の女性です。彼女はウクライナで生まれましたが、父親がロシア人、母親がルーマニア人だったため、自然な「環境」で、ウクライナ語、ロシア語、ルーマニア語の3か国語話者になりました。さらに学校教育で英語を習得し、大学生の時には日本国政府の国費留学生として日本にやってきました。これで英語、日本語が加わり5か国語を話せるようになります。さらにその後フランス人の男性と婚約し、フランス語も身につけました。現在27歳の彼女は、高いレベルで6か国語を操るmultilingualです。ヨーロッパには彼女のような例は珍しくありません。私が、現在大阪大学の外国人留学生を対象に行っている通訳クラスの受講生で、4~5か国を話せる学生は毎年必ず数人はいます。過去、最高7か国語をマスターしている学生までいました。

一つの外国語を習得するのに苦労している日本人にはうらやましい限りですが、彼らはほとんど「環境」で数か国語をマスターしています。したがって大学院レベルで通訳訓練を受ける時、通常は第二言語(以下)を伸ばす必要などないことがお分かりでしょう。一方、日本では「環境」で2か国語以上を話せるようになるケースはめったにありません。したがって日本で通訳者になるためには、まず第二言語の習得・強化からはじめなければならないケースがほとんどなのです。日本では、民間の通訳学校が通訳者養成に大きな役割を果たしていますが、スクールでは受講生に外国語習得の訓練を行い、まず2か国語話者の養成から始めなければならない、という大変な課題を課せられているわけです(もちろん通訳学校によっては、そんな面倒なことをせずに、bilingualの帰国子女だけを通訳訓練の主な対象にしているところもあります)。

リスニングを鍛えるには、まずリーディングから

私がインタースクール大阪校に通い始めたころの思い出に話を戻します。インタースクールに通って驚いたもう一つのことは、1回1時間45分の授業のうち、TimeやNewsweekなどの高度なリーディングに1時間近くを割いていたことです。残りの45分間で通訳訓練をするわけです。通訳の訓練というと、リスニング・スピーキングの練習ばかりでもよさそうですが、なぜこれほどまでにリーディングにこだわるのか。いま第二言語習得の研究などでわかっていることは、「読む・書く・聞く・話す」の4技能は互いにリンクしているということです。つまり国際会議の通訳者など高いレベルのリスニング・スピーキング能力を必要とする人間を養成するためには、リスニング・スピーキングを鍛えているだけではダメで、まず高いレベルのリーディング能力を身につけなければならない。そうすればリーディングの力がリスニングやスピーキングの力に転化していく、ということです。「リスニングを鍛えるには、まずリーディングから」というわけです。

受験英語=「死語」としての英語学習

日本人の英語学習時間は、中学・高校の英語の授業のほかに、予習・復習や学習塾の授業(またその予習・復習)なども含めると膨大な時間になります。大学で勉強する時間(授業時間+予習+復習+自学自習)も含めると、3500時間は英語学習に費やしているという推計もあります(三木谷浩史『たかが英語!』講談社、p.165)。一流大学を受験する人なら、この程度の英語学習量は間違いなくこなしていることでしょう。しかしこれだけの学習時間をかけても実用的な運用能力が身につかないとしたら、学習方法が間違っているのではないかと考えるべきです。
「英語リプロ」でも指摘したように、伝統的な「死語としての外国語学習」が日本人の英語運用能力を阻んでいる最大の原因といえるでしょう。『英語リプロ」(p.10~11)の解説をもう一度以下に掲載します。

ここで「死語として英語を学ぶ」とはどういうことかを考えてみましょう。”死語”(dead language)といえば、西洋人なら、古典ギリシャ語やラテン語を思い浮かべるのが普通です。昔は話されていたが、もう日常生活では話されていない言語です。日本人にとっては、1000年前の『源氏物語』など、古典の授業で習った日本語を思い浮かべるといいでしょう。古典の日本語は、現在は俳句・短歌の中でかろうじて使われる程度で、日常生活で話されることはありません。この古い日本語を学校で学ぶとき、私たちがどうしたか思い出してください。品詞分解をしたり、動詞や形容詞の活用を暗唱させられたりしましたね。そして最終的に古典日本語を現代日本語に訳す、という形で学習しました。その際、注意しなければならないのは、「古典日本語を話す」訓練をしたかったことです。必要がないのだから当たり前と思われるかもしれませんが、「死語として学ぶ」とは、こういうことなのです。つまり、(1)詳細な文法を学習し、文を細かく分析する。(死語は普段使われていないため、文法なしで理解できる「語感」がありません。「形」から正確な意味を認識できるようにするためには、詳細な分析が必要なのです)。(2)翻訳を通して読む。(3)その言語を話すことを前提としていない、ということです。これが「死語としての学習法」です。

「死語として学習する」ことには、プラスの面もあります。文法を学び、辞書さえあれば、翻訳を通して誰でも外国語を読めるようになること。また、徹底して文法解析をしていけば、その外国語のネイティブよりも正確に文献を読める可能性すらあることです。これは、現代の源氏物語の専門家が、平安時代人よりも源氏物語を正確に読解できても、誰も驚かないのと同じです。おそらく現代の専門家の方が昔の文献を精密に読めるはずです。しかし問題は、死語として学習する限り、文法解析や翻訳を通していくら文献を正確に読めるようになっても、その言葉を決して話せるようにはならないことです。高校時代、古典がどんなに得意だった人でも古典の日本語をうまく話せないでしょう?それと全く同じことが英語学習でも起きているのです。日本の伝統的な英語学習、特に大学受験の勉強をしても英語を話せないのはこういう理由なのです。したがって受験勉強で死語としての英語を学習すればするほど、生きた英語が使えなくなる、という恐るべき矛盾が起きるわけです。

事が簡単にはいかないワケ

日本人が生きた英語を学習する際の障害となっていることを「英語リプロ」らもう一度列挙してみましょう。

(1)日本では「死語」としての外国語学習の伝統が受け継がれており、翻訳しないと外国語を理解できない人がほとんどであること。
(2)日本では英語を話す必要性、機会がほとんど全くないこと。
(3)日本語と英語は、「言語の親戚関係」から考えると、最も離れているといっていいこと。文化的にも日本文化と英語圏文化は非常にかけ離れていること。
(4)現在の日本語が、カタカナを多用することによって、西洋語受容型になっていること。それが、英語での「発信」にマイナスになっていること。
この他にも、
(5)日本では、外国語を話すことが一部の人の「特権」であるかのように考えられていること、が挙げられます。現在の日本では、日常生活で少しでも流暢な外国語を話すと、尊敬・恐れ・嘲笑などの対象となります。帰国子女の多くが、日本の学校では流暢な英語は話さずに、カタカナ読みの日本人式の英語も身につけています。流暢な英語を話してイジメにあわないいための、自己防衛策といえます。これは日本文化が高い「同質性」(仲間意識)を求めるために起きていると考えられます。
日本で上記の障害の克服に成功している例は、まず徹底した英語漬けによるエリート教育です。日本で、「死語としての英語学習」をやめて、生きた英語学習に転換しようとしても、以上の(2)~(5)の障害が強く、中途半端な学習量では何も身につかない恐れがあるのです。この英語漬け以外で大きな成功を収めているのは、私の知る限り通訳訓練法を用いた英語学習しかありません。

通訳訓練法の初級者向けアレンジ

こうした一連の通訳訓練法は、もともとかなり語学レベルの高い受講生を相手に行われていたものですが、私は英語学習の初級者向けのアレンジを試みました。『英語リプロ」では以下の4ステップの手順を用いました。
ステップ1:クイックレスポンス
ステップ2:シャドーイング&リピーティング
ステップ3:日英サイト・トランスレーション
ステップ4:イラストを見てリプロダクション
この手順は、過去20年間、大学の授業で試行錯誤しながら、初級者向けに私が考案したものです。そしてこの一連の手順をリプロダクション(再生作業)と呼ぶことにしました(注:通訳学校では通常「リプロダクション」はリピーティングとほぼ同じ意味で使われています)。特に仕上げとしてイラストによる再生トレーニングを入れたのが私の工夫です。これにより、学習者がひとりでスピーキングをする爽快感が味わえます。通常は、イラストを見て英語でstorytellingをするのは初級者にはハードルが高いのですが、一連のステップを踏めば誰にでも難易度の高いはずのstorytellingができ、自分の進度が確認できるのです。さらに本書では、「入門用」としてこのステップを簡略化、最初のクイックレスポンスを割愛して以下のように3ステップにしました。
ステップ1:シャドーイング&リピーティング
ステップ2:日英サイト・トランスレーション
ステップ3:イラストを見てリプロダクション
これで、初級者向け決定版ともいえる「英語リプロダクショントレーニング」が完成した、と筆者は考えています。あとは読者の皆さんからの感想をお待ちしたいと思います。

外国語学習の王道も活用しよう

ここで、私が大阪府立大学の学生に指示している自宅学習(課外学習)の内容を紹介しましょう。府立大学では、通訳訓練法を活用した授業を行っていますが、私が同じ生徒に教えられるのは、週1回90分だけです。これだけの時間で効果を上げるには、課外学習で量をこなさせることが重要です。つまり通訳訓練法とともに、「外国語学習の王道」=量をこなすことを同時にやらせるのです。これだけで、TOEICのスコアであれば1年間で200点くらいアップする学生もいます。

彼らは英語専攻の学生でも英語学習に特別興味がある学生でもありません。主に工学系の学生で、彼らにとってはありふれた必修の英語授業の一つにしかすぎません。以下は私が授業の初日に配布するプリントの抜粋です。

いまのところ日本で、ほぼ毎日、学習に最適な教材を提供してくれる媒体は、NHKラジオと英語ニュースしかない。このふたつを徹底的に活用すること。

TOEIC300~500点台の人

現在、NHKラジオ講座はインターネットで1週間分を聞くことができる。1日2番組聴くのが効果があるようだ。家で、あるいは音声をダウンロードして通学・通勤時間などに聴く(iPodで聴いてもよい)。そしてできるだけ「英語強制環境」をつくるために、シャドーイング(orリピーティング)をする。仕上げにラジオ講座のテキストを使って日→英のサイト・トランスレーションをする。この勉強を毎日やれば、英語のプロとしての基礎力が身につく。1~2年間がんばれば、かなり自由に英語を話し、書くことができるようになる。

TOEIC600点以上の人

NHK World News Englishがインターネットで視聴できるようになった。手前にサマリーを読んで単語をチェックしてから、視聴する。これを半年間は続けること。またインターネットの英字新聞(Japan Timesなど)を1日3記事分読んでから、英語ニュース(NHK Radio Japan、NHKニュースの2か国語放送、CNN、ABCなど)を毎日聞くのもよい。「読む→聴く」を繰り返すことがニュース英語をマスターする近道。「通訳訓練法」も利用する。

英語の総合力アップを狙っている皆さんは、上記を参考に、外国語学習の王道

である学習量を増やすこともお勧めします。学習量を増やし、本書で日本人の不得意なスピーキング力の強化に取り組めば、ゆるぎない英語力が身につくはずです。

わたしの夢

すでに日本ではエリートだけのための英語学習が始まっています。英語だけで授業を提供する教育課程、正規留学を盛り込んだ大学などです。これは必然の流れといえます。将来日本のリーダーになる人たちが優れた英語力を身につけないと、日本が国際競争に負けてしまうからです。しかし、私は日本の普通の中学校・高校で英語を学んできた人たち(現在学んでいる人たちも含む)に目を向けたいと思います。彼らのために、やる気さえあれば、留学しなくても、誰でも英語が話せるようになる“セルフ・トレーニング法”を提供しよう、というのが筆者の考えです。『英語リプロ』及び本書で提示したセルフ・トレーニングが日本中の学校教育に広まれば、一般の中学・高校を卒業した日本人すべてが、ある程度の英語を話せるようになるでしょう。それこそが私の現在の夢です。しかも近い将来実現可能な夢だと私は思っています。

このトレーニング法は、自宅学習が可能なため、授業自体を大きく変える必要がありません。そして“生きた英語”の養成に抜群の効果を発揮します。筆者は、算数の「百ます計算」のように、この“セルフ・トレーニング法”が学校教育の一部に採用されることを願っています。

なお、本書で示したような「通訳訓練法による英語学習」を実際に授業で体験してみたい、という方がいれば、学校単位(中学・高校・大学・英語教員研修)、会社単位であれば可能です。日本全国どこへでも、著者が貴校・貴社までお邪魔し「通訳訓練法による英語学習」のセミナーを行います。インターネットで現在の私の本務校、大阪府立大学を調べ、著者および地域連携室へお問い合わせください。大阪府立大学では地域連携室が「出張講義」「出前講義」を担当しています。もちろん公立大学ですから、大学の規定に沿った形で、極めて安価なセミナーを提供でき、皆さんはその効果を直接経験することができます。

さて次ページからはいよいよ「本書の使い方」です。英語のスピーキングを飛躍的に向上させるためには、最低1日30分の練習が目安です。丁寧にゆっくりやるよりも、スピードを上げ短期間でLesson1~20までやりきることをお勧めします。時間があればもう一度繰り返すのがいいでしょう。2巡目にはかなり楽にスピーキングができるようになった自分に気がつくはずです。本書を終えたら、次は2011年5月発売の『英語リプロ』にもぜひ取り組んでみてください。

本書の使い方

本書には、計20レッスンが掲載されています。
◇1レッスン=STEP1~3の3ステップ構成です。レッスン1~19は1レッスンにつき6ページ、レッスン20のみ12ページあります。
◇各レッスンとも、STEP1~3の順に学習してください。
◇どのレッスンから始めても、また途中のレッスンをとばしても問題ないように構成されています。ですが、レッスンが進むにつれて、英文スクリプトが長くなりますので、まずはLesson1から順に学習することをお勧めします。

ストーリーと主人公の紹介
東京で会社勤めをする男女が主人公です。レッスンは、二人の日常のエピソードを描いたストーリーを使って進めていきます。モノローグ(独白)だけでなく対話形式のレッスンもあります。

<主人公の紹介>
森ススム
20代後半、貿易会社の営業部に所属。サッカー観戦が趣味。キャリアを模索する平均的なサラリーマン。
江戸川ミキ
20代後半、美容機器会社の企画部に所属。料理は苦手だけど、おいしいものは大好き。ポニーテールがトレードマーク。

STEP1 Shadowing & Repeating10~30分
シャドーイング&リピーティング
GOAL(シャドーイング)
テキストを見ず、英語の音声だけを聞いて口真似できるようになる。
GOAL(リピーティング)
テキストを見ずに、ポーズのところで、CDから聞こえる英語を口に出して繰り返すことができるようになる。

シャドーイングCDトラックを再生して行います。
1.shadowは「影」。shadowingとは「影」のようについていく、という意味です。最初はテキストを見ながら、CDから聞こえた通りにほぼ同時に口真似していきます。英語を聞きながら話す練習です。
<例>
CD Why is the trainal ways so crowded at this time?…
あなたWhy is the trainal ways so crowded at this time?…
2.もう一度CDを再生します。今度はなるべくテキストを見ないで行いましょう。
3.すらすらと口が動くようになるまで、何度でも繰り返しましょう。まったくテキストを見ないで、すべてシャドーイングできるようになれば合格です!次はリピーティングに進みましょう!
リピーティングCDトラックを再生して行います。
1.CDには、テキストのスラッシュごとにポーズが入っています。このポーズの間に、直
前に聞こえた英語を繰り返して口に出してください。
CD I can never get as eat!…
あなたI can never get as eat!…
2.まったくテキストを見ないで、すべてリピーティングできるようになれば合格です!
次からはCDを使わずに練習します。
STEP2 Sight Translation
サイトトランスレーション10~30分
GOAL
左側の日本語だけを見て、(隠した)右側の英語を瞬時に口で言えるようになる。

1.左のページの日本語を見て瞬時に英語に訳し、それを口に出していきましょう。最初は、右側の英語を見ながら練習してかまいません。
2.右ページの英語を隠し、左の日本語をだけを見て、すらすら英語が言えるようになれば合格です!

STEP3 Reproduction
イラストを見てリプロダクション10~30分
GOAL
イラストだけを見て、英語ですらすらとナレーションできるようになる。

1.イラストを見て、レッスンのストーリーを英語で説明していきます。対話形式のレッスンでは、一人二役でやってみましょう。ひとコマずつ、誰かにストーリーを聞かせてあげるつもりで、口に出して説明しましょう。
2.うまくできない場合は、STEP2に戻りましょう。コマ番号と、STEP2の段落番号が対応していますので、それを参考にしてください。
3.初中級者は、STEP2までに勉強した英文を文字通り「再生」するつもりで、上級者は既習の英文をもとにして別の表現にトライしてみましょう。イラストだけを見て、すらすら英語で説明できるようになれば合格です!(あまり完璧にやろうと思わずにだいたいできればOKです。)

「シャドーイング・チャレンジーナチュラルスピードに挑戦!|
cmのDisc2には、Lesson1~20のスクリプトをすべてナチュラル・スピードで収録した音声も入っています。各レッスンの最初に行うシャドーイングで使用したものよりもかなり速いスピードです。これを使って、シャドーイングの力試しをすることができます。全20レッスンを終えた後の力試しとして、チャレンジしてみてください。
「シャドーイング・チャレンジ」のCDトラック番号は、各レッスンのSTEP1の本文終わりに記載されています。