英語力上達のために
本書では、著者である畠山雄二さんが選んだ「英語教育の最適任者」の6人とともに、理論言語学の知見を踏まえて「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能のコツと勉強法を丁寧に解説しています。英語の特徴を理解しながら効率よく4技能を伸ばすために必要な知識を手に入れることができます。
第1章 英語の読み方
第1章では英語を読むときに必要な知識や読解のコツを紹介します。「精読」をする際には単語や文法、省略表現などさまざまな知識が必要になります。また、筆者の意図をくみとりながら長い文章を読むコツや、「速読」をする際に必要になるスキミングやスキャミングという読み方を例文や図を使いながら解説しています。
第2章 英語の書き方
第2章では英語の書き方を紹介しています。英語と日本語は、語順から数の感覚まで全く違っているため英文を書く際につまずいてしまう部分が多いです。しかし本章で「英語で考える」とはどのようなことなのかを学び、理解することで英語を書く力を格段に上げることができるでしょう。また、書くときに大切になる「正確性」を向上させるための辞書の活用法や単語を使うのにふさわしい使用域の推測方法なども書く力を磨く役に立ちます。
第3章 英語の聞き方
第3章では、英語を聞き取り理解し、発話の意図を推論するための方法を紹介しています。英語を聞き取れるようになるためにたくさん参考書を読んでいるだけでは全く上達しません。英語の聞き取りは、実際に音を聞くことで上達していきます。しかし、知っていると聞き取りの上達が少しは早くなるコツがあるため、この章ではそれを学習していきましょう。
第4章 英語の話し方
第4章では英語を話す力であるスピーキング力とは何なのか、正しい発音について、シンプルかつ適切な伝え方などについて紹介しています。英語が話せないという問題に、「文法は必要ない」、「英語を英語で考える」など多くの解決案が考えられていますが未だ解決されていません。この章では、英語教育への提言ではなく理論言語学の知見をもとにスピーキングについて考えていきます。
まえがき
日本人で、自称英語ができる人は、例外なく英語に対して一家言ある。苦労して英語が使えるようになっただけに、英語の勉強の仕方についてあれこれ言いたくなるのはわからないでもない。そのようなこともあり、最近では、英語とは関係のない人たちも英語の勉強法について口を出してきたりする。門外漢の意見とはいえ、それはそれでいいことも多々ある。
英語に一家言ある人で英語の勉強の仕方についてよく助言をし、そしてコメントを求められる人に英語教育の専門家がいる。英語教育の専門家がお勧めする英語の勉強法というと、多読やシャドーイングといったものがあるが、効果は人によってマチマチである。
英語教育の専門家は、教授法やテスティングの研究が主ということもあり、実は、英語そのものについてはあまり知らない。英語がどのような言語か、そして子どもがどのように英語をマスターしていくのか、その本質をあまり知らない。理科教育の専門家は理科に精通している。同じように、社会科教育の専門家は社会科に精通している。でも、英語教育の専門家は、不思議なことに、英語には精通していない。だから、英語教育の専門家が指南する英語の勉強法はイマイチだったりする。
英語がスラスラ読めるからといって英語がちゃんと教えられるかというと、そういうものでもない。英語をちゃんと教えるには、英語そのものを熟知していないといけない。さらにいうと、学習者の母語である日本語に関してもかなりの知識がないと英語を教えることはできない。日本人に英語を教えるのは、そう簡単なことではないのだ。というか、実はかなり難しく、教えることができる人もかなり限られている。中途半端な知識で教えると学習者に致命的な害を与えかねない。
英語教育の最適任者が英語の勉強の仕方を伝授し、そのノウハウを現場の先生方がマスターしたうえで英語の授業をしてくれたらそう、生徒たちは費用対効果抜群の英語の勉強ができるはずだ。では、そのような英語教育の最適任者とはいったい誰になるのだろうか。理論言語学のプロである。でも、哀しいかな、理論言語学のプロは、これまで、あまり表立って英語の勉強法について語ることはなかった。理由はいろいろあるだろう。「教育というものにそもそも期待してないし」「何か言ったところで聞く耳もたないだろうし」「死に体の英語教育に今さらどうすることもできないし」などなど。
英語教育が混迷を極めている今日、発言すべき人がやっぱり発言すべきだと思いつつある。黙っていても誰もわかってくれない。聞く耳のある人は少なからずいるはずだし、もしかしたら、賛同者の中から画期的な英語教育カリキュラムを作ってくれる人が出てくるかもしれない。やらないことには、そして言ってみないことには、何が起こるかわからない。行動を起こして何も起こらなければ、それはそれで「ああ、やっぱり何も変わらないか」と1つ発見できる。
とにかく行動を起こしてみよう!と思って起こした「行動」が本書『英語上達40レッスン一言語学から見た4技能の伸ばし方一』の刊行である。本書をつくるにあたり、私が(偏見なしの)独断で選んだ6人の「英語教育の最適任者」に集まってもらった。6人の「英語教育の最適任者」には、理論言語学の知見を踏まえたうえで、英語の「読み方」と「書き方」、そして「聞き方」と「話し方のコツとその勉強法を伝授してもらった。
本書は、英語の「読み方」と「書き方」、そして「聞き方」と「話し方」の4つの構成からなり、それぞれ10個の項目からなっている。全部で40の英語上達のコツと勉強法が懇切丁寧に、噛んで含めるように解説されている。読者諸氏には、本書を舐めるように読んでもらい、コスパの高い英語の勉強法をマスターしてもらえればと思う。
英語学習者ならびに英語教育者のがんばりに期待する。
2020年6月
編集者 畠山雄二
目次
第0章 英語とはどういう言語なのか・・・・(本田謙介・田中江扶・畠山雄二)
第1章 英語の読み方(縄田裕幸)
1.1読解力を支える文法−カタログ的知識から道具としての知識へ−
1.2動詞に注目して読む−述語がとる構文パターン−
1.3長い文を理解する−文の入れ子構造−
1.4既出の情報を復元しながら読む−省略現象と代用表現−
1.5そのnotは何を否定しているか−否定の作用域と焦点−
1.6倒置に注目して読む−文の情報の流れ−
1.7単語の意味を推測して読む−接辞の機能と多義語の理解−
1.8筆者の意図を意識して読む−さまざまなモダリティ表現−
1.9文章の流れを読みとる−接続詞と談話標識−.
1.10文章の概要を把握する−ボトムアップ解釈からトップダウン解釈へ−
第2章 英語の書き方
2.1「カラス」は1羽か?−日英語の数の感覚の違い−(本田謙介)
2.2「映画をみた」の「みた」はいつも過去か?−日英語の時制・相の違い−(本田謙介)
2.3「私は財布を盗まれた」をどう英訳するか?−日英語の受動文の違い−(本田謙介)
2.4主語を抽出せよ−日英語の主語の違い−(本田謙介)
2.5英単語をどう並べるか?−日英語の語順の違い−(本田謙介)
2.6調べて書く−ライティングのための辞書活用−(縄田裕幸)
2.7日本語との距離を意識して書く−日英語の類型的違い−(縄田裕幸)
2.8単語を使い分ける−借用語のルーツと使用域−(縄田裕幸)
2.9文章の流れを意識して書く−情報の配置と構文選択−(縄田裕幸)
2.10文章の種類に応じて書く−文体の使い分け−(縄田裕幸)
第3章 英語の聞き方
3.1聞き取りの上達はまず聞くことから−音韻論から語用論まで−(今仁生美)
3.2母音と子音を正しく聞き取る−日英語の音素の数と質の違い−(菅原真理子)
3.3音変化を意識して聞き取る−強化、弱化、同化、連結発音−(菅原真理子)
3.4イントネーションを聞き取る−ピッチアクセントと句末音調−(菅原真理子)
3.5ポーズの位置も大事なポイント−構成性原理−(今仁生美)
3.6聞き取れているのに意味がわからない−記号と意味の関係−(今仁生美)
3.7予測の力−状況を把握して聞き取る−(今仁生美)
3.8文の曖昧性とイントネーションの関係−モダリティと否定、そしてonlyの意味解釈−(澤田治)
3.9発話の流れを把握する−前提と情報のアップデート−(澤田治)
3.10発話レベルの意味から推論レベルの意味へ−グライスの会話の公理−(澤田治)
第4章 英語の話し方.(田中江北・本田謙介・畠山雄二)
4.1スピーキング力−スピーキング力って何?−
4.2アウトプットとは?−情報の単位分けと結合−
4.3効果的なスピーキング−意味と形式のバランス−
4.4覚えたことを使うことの重要性−言語間の距離−
4.5スピーキングの効果的な学習−プロトタイプ−
4.6英語らしい発音−マグネット効果−
4.7シンプルかつ的確な伝え方−リプロセシング−
4.8文を適切に用いるコツ−文法の有意味学習−
4.9円滑なコミュニケーションとは?−ポライトネス−
4.10一歩進んだスピーキング−カテゴリー知覚−
索引