「達人」の英語学習法ーデータが語る効果的な外国語習得法とは

英語学習はどのように成功しているのか?

外国語の習得に成功した達人たちの復習法やどのように勉強していけば良いのかなど、言語の学習法略を学ぶのに有効な一冊です。どのような方法で学習したら良いのかわからないと考える人の多い言語学習ですが、わかりやすくやり方が示してあります。本書のタイトルに英語学習法とありますが、その他の言語を学習している方にも参考になります。

英語に興味があるけど何から始めたらいいかわからない、と英語学習を半ば諦めてしまっている人は多いかと思います。本書では、英語力の伸ばし方、また具体的な学習法について多くまとめられているため、どんな人でも学習を始めることができます。英語に限らず、勉強の仕方に悩んでいる方必読の1冊です。

目次

序章 達人への道
いきなりですが、質問です/お金と時間をかければ良い?/ 到達点は英語ネイティヴではない!/この本の構成
Column1 ラッパー恐るべし

第1章 もう手遅れなのだろうか
子どものうちに学ばないとダメ?/15歳以後に学習を開始すると……/学習開始年齢より重要なものがある/成功する人、失敗する人
Column 2 私はHeだが、家内はSheだ
Column 3 認知スタイルを測る

第2章 何が関係しているのか
適性はありますか?/性格は関係ない?/不純な動機?/不安も時には役に立つ?/思い込んだら命がけ?
Column4 お酒を飲めば発音が上手くなる?
英語学習はスタイル次第?/男と女は?/誤りの訂正は意味がある?/たくさん聞かせれば良いのか?/ひたすら「くりかえす」のは有効か?/「睡眠学習」や「速聴」の効果は?

第3章 達人に見る学習計画
達人の定義/達人たちの「段取り」法/「功利的な目的」より「フロー的な楽しさ」/「目的」を設定してみる/学習時間と使用機会を増やす/簡単なことばかりやっていては上達しない/「毎日コツコツ」と「一定期間ずっと」が必要/学習の成 果は直線的には表れない/達人の復習法
Column 5 音読を楽しもう!

第4章 達人たちの学び方
リスニングの学び方
一字一句ゆるがせにしない(初期~中期)/いろんなジャンル の素材を大量に聞く(中期~)/どうして両立しないのか?
リーディングの学び方
分析的に読む(初期 )/多読の大切さ(中期~)/必ず「声に出して」読むこと
スピーキングの学び方
聞いて、まねて、直す/シャドーイングとリピーティング/例文の徹底的な暗記で「基盤作り」/「流ちょうさ」(初期)から「正確さ」(中期)へ
Column6 アクセントの位置が違うだけで
ライティングの学び方
「使える表現」を借りてきて書く(英借文)/信用できるネイテイヴに添削してもらう
ボキャブラリーの学び方
「語彙学習、5つのポイント/記憶を定着させる辞書の使い方
グラマーの学び方
文法ルールに「気づく」/腑に落ちることの大切さ
Column7 その覚え方ではダメですよ!

第5社会のなかでの学習法
ライバルをつくる/他人に監視してもらう/複数の学習者が 集まる場を見つける/進歩が実感できないと……/うまく会話を続けるための12の方法/ 1日の休みは1週間の後退にも相当する
Column 8 音読を楽しんだあとに

終章 達人たちの学習法のポイント
英語学習ストーリー「Aさんのとある1日」/最後に――外国 語学習は体育会系/「達人」の英語(外国語)学習法——最終確認
Column9 その授業・教材でだいじょうぶですか?

あとがき

参考文献

竹内 理 (著)
出版社: 草思社 (2007/11/23)、出典:出版社HP

序章

達人への道
神よ、我々に変えられないものを受け入れる冷静さと、変えるべきものを変えていく勇気と、 その両者を見分ける叡知を与えたまえ。
―ラインホールド・ニーバー

いきなりですが、質問です
Q.世界の中で、外国語の学習にもっとも消極的と考えられる国はどの国でしょうか?

候補としていくつかの国が考えられますが、そのうちの1つに、間違いなく超大国アメリカが入るのではないでしょうか。
米国3大ネットワークの1つABC放送の人気報道番組『ナイトライン」(Nightline)によると、1960年代、アメリカの大学 生は、その87%が外国語の授業を受講していたようです。ところが2002年になると、これがなんと8%まで低下し、外国語の基礎的知識や技能をもった人間が極端に減ったといいます。
アメリカの場合、事実上の国語である英語が世界中で通用するのだから別に支障はないだろうと思われるかもしれません。

しかし、コトはそんなに単純ではありまではありません。実際は支障だらけなのです。とくに深刻なのが、安全保障の面です。

大学での外国語科目履修者の劇的な減少の結果、外国語が使える人材の裾野がせばまり、中央情報局(CIA)や連邦捜査局(FBI)の諜報活動にまで深刻な支障が出ていると、元諜報活動担当者が番組中で語っています。
つまり国民の外国語学習嫌いのために、国家安全保階の足下がおぼつかない状況となり、ブッシュ大統領の掲げる「テロとの戦い」の勝利が危うくなっているというのです。ここまでくると、アメリカの外国語学習嫌いは、もはや笑いごとではすまされない由々しき事態といえるでしょう。

お金と時間をかければ良い?
さて、われわれの住む日本はどうでしょうか。 駅前には英会話学校が乱立し(ということは、需要も多いはず です)、そこへ誘いこむかのように、駅や電車のなかには、英 会話学校の広告が競いあっています。
また、ここ数年間の動きを見ただけでも、大学入試センター試験に英語のリスニングが導入され、セルハイ(SEL-Hi)と呼ばれる英語に重点をおいた高等学校が約170校も選定され、必修として小学校に英語を導入する方針が中教審から打ち出され、さらには大学や企業でTOEIC®などのテストスコアによる到達目標が設定されるようにもなっています。

こういう状況から考えると、こと英語学習に限っていえば、日本はもっとも積極的な態度をとっている国の1つに数えることができるでしょう。
しかし、みなさんのまわりを見回してみてください。身近なところに英語がネイティヴ並みに上手い、という人はどれほどいるでしょうか。
残念ながら、あまりたくさんはいないようです。
ここまで英語熱が盛り上がりをみせ、多くの人々がたくさんのお金と時間、そして情熱をかけて積極的に英語を学習しているにもかかわらず、です。なんとも寂しいかぎりの状況ではないでしょうか。
しかしこれはあくまでも、英語ネイティヴを学習の到達点とした場合です。

そもそもネイティヴという言葉自体、意外と曖昧なものであり、第二言語の習得過程を調べている研究者の間でも、ネイテイヴとは何かに関して十分なコンセンサスは得られていません。
また、そんな理想像をいくら追い求めても、学習者にとって到達不可能であっては、まったく意味がありません。

到達点は英語ネイティヴではない!
そこで英語学習の到達点を変えてみましょう。あの人は日本 で生まれ育ちながら(そして英語圏にほとんど行ったこともないのに)英語が相当に上手いとか、日本で学んだのに英語の達人だね、などといわれる人たちを到達点にしてみるのはどうでしょうか。彼らには、以下にあげるような特徴があります。

・英語の発音や抑揚の面であまり違和感を与えない。
・自分の考えをきちんと英語で伝えることができる。
・英語ネイティヴが話すことも、書いていることと、特殊な状況や話題でない限りわかる。
・ちょっとした世間話も英語でできる。

つまり、英語ネイティヴ話者という究極の到達点を壊してしまい、たとえ英語ノンネイティヴであることが相手にわかってもよい。ただし、英語を使っての課題達成に関しては支障がない。そんな人物像を想定してみるのです。

欧米のデータによると、こういう到達点なら、全学習者のおおよそ30%程度は達成できる可能性があるといいます。もちろん、欧米の言語は英語と親戚関係にあるものが多く、日本語は英語と赤の他人であるということを考えると、日本でも同じように30%程度という値が達成できるとは簡単に言い切ることができません。

また、陸続きが多い欧州諸国では、人やモノの往来がきわめてさかんであり、日本とはまったく違う言語環境がつくりだされているということも考えれば、この数字がどうしてもインフレ気味に感じられるのは否めない事実でしょう。

でも、日本の事情を勘案して、この30%という値を思い切って半分の15%程度まで下げたとしましょう。これでもまだ相当に高い(つまり希望のある)数値である、といえるのではないでしょうか。なぜなら、全人口の約3~5%出現するといわれる左利きの人を見つけるよりも、3倍近くも容易だからです。

実際、われわれのまわりを見回すと、日本で学んだにもかかわらず、上述のようなレベルで英語を運用する「達人」たちは、意外と多くいるものです。そして、われわれが英語学習の到達点にすべきは、手の届かない、あるいは実態の定かではない英語ネイティヴ話者などではなく、この「達人的な人」あるいは「相当に上手い人」ではないか、と筆者は考えています。

竹内 理 (著)
出版社: 草思社 (2007/11/23)、出典:出版社HP

この本の構成

本書では、このような考え方に立ち、日本で生まれ・育ち・学んだ「外国語の達人」の研究や、第二言語習得研究のデータや理論をもとにして、たとえ留学しなくても、また子どものころから特殊な英語教育を受けていなくても、さらには英語ネイティヴ話者の親のもとに生まれ落ちていなくても、かなり高いレベルまで英語(外国語)を習得することができるのだということ、およびその具体的な方法はどういうものなのか、について明らかにしていきたいと思います。

第1章では、まず、思春期をすぎたら外国語を学んでもしっ かりと身につかないとする「臨界期仮説」について、その真偽のほどを検討してみたいと思います。外国語の学習は、本当に早ければ早いほどよいのでしょうか。なぜ「臨界期」の後ろに「仮説」とついているのでしょうか。このあたりが主要な話題 となります。

続く第2章では、「臨界期」以外の、広く流布している外国語学習に関する思い込み、たとえば、「外向的性格が外国語習得に向いている」などが果たしてどの程度度正しいのか、について考えていきます。思い込みの多くが、意外と科学的な根拠を持たないことなどが明らかになっていきます。

その後、第3章から第5章までの3章にわたり、英語(外国語)学習成功者(いわゆる「達人」)の研究をもとに、具体的な学び方について述べていきたいと考えています。
もし、本書の核心部分を一刻も早く読みたいという読者の方がおられたら、この第3章から第5章までの3つの章を先に読まれることをお勧めします。

この3章では、学習の計画や段取りにはじまり、リスニングやライティングといった各スキルの学び方を経て、社会のなか での学習という話題までを取り扱っていきます。
そして、終章には、学習法のチェックリストを用意してみました。1章から5章までの要点が箇条書きで示されていますので、自分の学習において、これらをどの程度実行できているのか、「Aさんのとある1日」と題したストーリーも参考に振り返ってみてください。

さあ、みなさん。英語学習法の世界を一緒に見ていきましょう!

・ネイティヴという言葉の定義はそれほど明瞭なものではありません。
・われわれの到達点は英語ネイティヴ話者ではありません
・到達点とすべきは日本人の英語達人です

Column 1

ラッパー恐るべし

いわゆるバイリンガルと呼ばれる人たちがいます。この人たちは、たとえば日英バイリンガルなら、日本語も英語もネイティトに駆使することができる、と世間では信じられています。しかし、実はどちらかの言語が優勢な場合が多いようです。筆者の知人に一見すると、完璧な日英バイリンガルだと考えられる人がいます。この人の場合、英語の方が優勢なようで、フォーマルな席で日本語 を話すときにはスクリプトを書かないと少し不安だとか、漢字が苦手だとか、こっそり打ち明けてくれました。バイリンガルのどちらの言語が優勢かを見分ける簡易なやり方として、頭韻や脚韻を含む文章をそれぞれの言語で即興的に作らせるという方法があります。韻を含む文章の作成には相当に高い言語能力が必要なようで、優熱な言語でないと困難を伴うようです。ラッパーが韻を踏んだ即興の歌詞をリズムにのせて歌っているのは、かなり高度な言語能力の表れということになります。まさに「ラッパー恐るべし」です。

竹内 理 (著)
出版社: 草思社 (2007/11/23)、出典:出版社HP