SLA研究入門 – 第二言語の処理・習得研究のすすめ方

SLA研究の進め方!

第二言語の入門書は、多く出版されているが、本書のように研究のための方法をまとめたものは少ないです。第二言語習得研究に興味がある方、何かしらされている方、また自身の英語などを見る上で、それがどのように密接しているかを調べるのも良いかもしれません。

筆者
SLA研究入門 – 第二言語の処理・習得研究のすすめ方 、出典:出版社HP

はじめに:SLA研究は面白い!

最近の言語研究では、第一言語(母語)の研究に代わって、第二言語の研究が脚光を浴びています。なぜ今、第二言語の習得研究が面白くなってきたのでしょうか。
これまで、第二言語(一般には「外国語」と言われてきました)の研究の主な目的は、その成果を外国語の学習・教育に応用することでした。つまり、教室に入る前の教材作成や、実際のクラスルームでの指導に役立てることでした。このような目的は、今日でももちろん変わっていません。それはそれで大切な目標です。

しかし第二言語習得研究は、実はそれだけではないのです。学習者による第二言語の処理(processing)や習得(acquisition)という「窓」から、言語を眺める…。同時に、第二言語習得という「知的いとなみ」から、人のこころの仕組みを調べる…。これらが明確に意識され、その結果第二言語習得研究はここ数年で長足の進歩を遂げました。人がどのようにして英語・日本語などの第二言語を処理し習得するかという研究が、従来とは比べものにならないほど、大きな展開をみせているのです。

筆者はこれまで、第二言語におけるリーディング、メンタルレキシコン、シャドーイングや音読を活用した学習法の効果について、心理言語学や認知科学の観点から検証してきました。言い換えると、第二言語習得の前提となる研究分野、つまり人が外界からのインプット情報をいかに知覚・処理し、そして記憶に蓄えるかということに関する成果を積極的に活用した第二言語習得研究を行ってきました。本書はささやかながら、その研究のためのノウハウを提示し、SLA研究への平易でコンパクトな入門書を目指したものです。とりわけ、飛躍的な進歩を遂げつつある、認知的な観点からの量的SLA研究(Quantitative SLA Research)に焦点をあわせました。

なお、これまで研究法と題して、研究データの統計処理あるいは最終的な論文原稿の書き方のみに終始している本もありました。本書ではそれよりも、研究のためのアイデア、目的・仮説の設定、データ収集方法の模索など研究計画をいかに作成し、実行に移して、データを収集・分析し、それを学会報告にどのようにまとめるかというダイナミックなプロセスを扱いたいと思います統計処理や論文の書き方については、別に本文中に書籍を紹介しましたので参照いただければ幸いです。

これから本格的に第二言語としての英語や日本語の処理・習得の研究をはじめようとする方々に本書が実質的にお役に立てば、これにまさる喜びはありません。いつしか学会、研究会、さらには国内外の大学でSLA研究者となられた読者の皆さんとお会いしたいと思います。今からそれが楽しみです。

最後に、きくちひろこさんには、本書のあちらこちらに、筆者の意図をご理解いただき、効果的なイラストを入れてくださいました。また、本書の校正に際して、ちょうど筆者が米国コロンビア大学に客員研究員として留学中にあたり、そのぶんくろしお出版の池上達昭さんには、非常に丁寧な下読みと誤記などの丹念なチェックをいただきました。ここに記して心から感謝したいと思います。

2010年5月1日
門田修平
(ニューヨーク・コロンビア大にて)

門田修平 (著)
出版社: くろしお出版 (2010/8/20)、出典:出版社HP

目次

はじめに:SLA研究は面白い!
Step1 SLA 研究とはどんな学問か
1.1 第二言語とは?習得とは?
1.2 近年の SLA 研究興隆の理由
1.3 SLA 研究の種類:仮説検証型と仮説探索型
1.4 本書の趣旨と対象とする研究のタイプ
ここで問題です.

Step 2 先行文献をいかに読んでテーマを設定するか
2.1 文献はどのようにして集める?
2.2 文献はどのようにして読む?
2.3 研究テーマの設定方法は?
ここで問題です

Step 3 リサーチプランをいかに作成するか
3.1 リサーチプランの構成は?
3.2 研究の背景はどう書く?
3.3 研究の目的・検討課題・仮説はどう書く?
3.4 研究方法はどう書く?
3.5 リサーチプランってこんなもの:サンプルは?
ここで問題です

Step 4 心理言語学的 SLA 研究データにはどのようなものがあるか
4.1 正答数データ
4.2 プロトコルデータ
4.3 反応時間データ
4.4 音声分析データ
4.5 眼球運動データ
4.6 脳科学データ
4.7 コーパスデータ
ここで問題です

Step 5 実験実施とデータ集計をどのようにして行うか
5.1 被験者をいかに集めるか
5.2 実験実施上の留意点
5.3 データ集計の実際
ここで問題です

Step6 学会発表をどのようにして行うか
6.1 結果から結論・考察をいかに導くか
6.2 発表学会・研究会を選ぶ
6.3 発表プロポーザルを書く
6.4 学会発表のノウハウ
ここで問題です

Step7 第二言語習得研究の目的は
7.1 文献紹介:統計処理、論文の書き方、研究法、用語辞典
7.2 第二言語習得研究に必要な資質
7.3 言語習得研究の究極の目的
ここで問題です

この本で引用した文献
索引
著者紹介

門田修平 (著)
出版社: くろしお出版 (2010/8/20)、出典:出版社HP