ダボス会議で聞く 世界がわかる英語(CD付)

ダボス会議で聞くシリーズ

ダボス会議でのスピーチを扱ったものとなります。前回以上にネイティブ、非ネイティブの英語に慣れ、多様な価値観を理解する格好の題材となっています。

はじめに

本書は、2010年1月27日から31日にかけて、スイスのダボスで行われた世界経済フォーラム(WEF: World Economic Forum)王催の年次総会 通称「ダボス会議」から世界各国の政治・ビジネス・国際機関などのトップ リーダーたちの発言を収録し、解説を加えたものです。

ダボス会議に関連した英語書籍としては本書が4作目となります。第1作『分 ボス会議に学ぶ世界を動かすトップの英語』では、主に国際舞台における花 語による討論の進め方について学び、第2作『ダボス会議で聞く世界の電話では、近年、さまざまな場面で接する機会が増えている「ノンネイティブ(英語を母国語としない人)の英語(=世界の英語: World Englishes)」を中心的に扱いました。3作目となる前著の「ダボス会議発 世界金融トップの英語 1」 では、2008年のリーマン・ショック以降、世界経済を襲った100年に1度 とも言われる世界金融危機について、英語を通して理解することに重点を置きました。中でも、『世界の英語』では多種多様な英語に慣れていただくコツと、自分の意見を持ってノンネイティブとして自分らしい英語を堂々と発信する にはどうしたらいいかについて考えてみました。

今回の『世界がわかる英語』では、英語を学ぶと同時に、今後の経済動向 を占う上での着眼点や、地球の将来を左右し得るグローバルな課題について 理解することに焦点を当てています。時事問題のポイントをしっかり押さえ つつ、ダボス会議での議論を深く理解し、読者の皆さんにご自分の意見をしっかり持っていただくのに役立てていただきたいと考えたからです。その意 味では、さまざまな英語に慣れ、自分の英語を発信するという『世界の英語』 のコンセプトを引き継ぎながら、それをさらに一歩進めたものを目指していると言えるでしょう。

今年で40周年を迎えた今回のダボス会議のテーマは“Improve the , of the World: Rethink, Redesign, Rebuild(世界の現状改善に向けて行 再設計、再建)”というものでした。金融危機後の新たな世界における様、負困、環境、食糧といったグローバルな課題について世界の約90カ国から集まった2500人以上の政財界や学界などのリーダーによって討議が繰り広げられました。

われわれが普段の生活で見聞きする世界のいろいろな出来事は、あくまでも先進国の目を通して見た世界という場合がほとんどです。しかし、中国や インドなどの新興国は世界経済や地球温暖化についてどのように考えている のか、貧困や食糧問題について援助を受ける側であるアフリカの人々はどの ように受け止めているのかといったことを、違う側面から多角的に知ること はとても重要です。本書を通して、彼らの目線に立ちながら、国際的かつ複 眼的な視野を養っていただきたいと思います。そして、このダボス会議は世界中の人々の考えや意見を知るのにうってつけの場であり、生の声に耳を傾けるまたとない機会を提供してくれます。

本書は、これまでのダボス関連書と同じく、多くのセッションの中から今後の世界を知るために大切なテーマとスピーカー(パネリスト)を厳選して あります。生きた時事英語教材として、社会人や学生、一般英語学習者の間のかたがたに幅広く読まれ、英語の資格試験の勉強にもご活用いただくことを 期待しています。

最後に、本書出版にあたっては、NHK解説委員の道傳愛子さんと、東京外国語大学教授で同時通訳者の鶴田知佳子先生に特別に原稿をお寄せいただき ました。道傳さんは今回のダボス会議でNHKが主催したセッションの司会 を務められ、現場からの生の声を届けてくださっています。また、これまで のダボス関連書の共著者である鶴田先生は、残念ながら今回はご都合によりご一緒することはできませんでしたが、同時通訳者としてのお立場から興味 深いコラムをご執筆いただくとともに、内容面での貴重なアドバイスを頂戴 いたしました。おふたかたに対し、深い感謝の念を表します。

2010年4月 ロンドンにて
柴田 真一

柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2010/4/24)、出典:出版社HP

目次

はじめに
本書の基本的な考え方
ダボス会議について
序文 一ダボス会議を楽しむ一 CDトラック表

第1部 金融危機後の世界経済
第1部 総論
Unit 1 金融界の大物が語るグローバル経済
ローレンス・サマーズ(アメリカ国家経済会議(NEC) 委員長、元財務長官)
Section1 深刻なアメリカの失業問題
Section 2 アメリカ経済の進む道
ドミニク・ストロスカーン(国際通貨基金(IMF) 専務理事)
Section 3 景気回復のスピードは各地域で異なっている
Section 4 金融部門の改革には各国の「連携」が必要
ヨゼフ・アッカーマン(ドイツ銀行 CEO)
Section 5 金融市場の不安要素
Section 6 銀行が目指すべき目的とは?
まとめのQ&A

Unit 2 ギリシャがもたらすユーロの危機?
ゲオルギオス・アンドレアス・パパンドレウ(ギリシャ首相)
Section1 ギリシャには潜在的な競争力がある
Section2 ユーロ圏はヨーロッパの資産
まとめのQ&A

Unit3 中東の皇太子が語る資本主義の必要性
シェイク・サルマン皇太子(バーレーン王国皇太子)
Section 1 資本主義には大賛成と言わざるをえないが
Section 2 資本主義へ移行するには労働者の再教育が必要
まとめの Q&A

特別編1 Google会長が語る「イノベーションの力」
エリック・シュミット(Google 会長兼 CEO)
Section 1 Google はエンドユーザーに焦点を当てる
Section2 イノベーションが個人に与える力
特別編2人気テレビキャスターが語る「就任から1年後のオバマ大統領」
リズ・カーン(テレビキャスター)
Section 1 “Yes We Can” IT1dsDiDit’s

第2部 躍進するアジア
総論
Unit 4 新しい中国の進む道
ルイ・チェンガン(中国中央テレビ (CCTV) キャスター)
Section1 世界の中国に対する見方が変わった?
Section 2 中国には話し合いの姿勢が必要になる
リー・ダオクイ (清華大学中国・世界経済研究センター (CCWE) 主任)
Section 3 中国は消費しなくてはならない
Section4 世界の貿易不均衡は一夜にして解決することはできない
まとめのQ&A

Unit 5 インドが世界に対して担う役割
アナンド・マヒンドラ(マヒンドラ・グループ副会長兼社長)
Section1 今日の世界に足りないものは信頼だ
Section2 相互に開かれた関係が重要
ラジャ・グプタ (マッキンゼー・アンド・カンパニー名誉顧問)
Section 3 インドは世界最大の中間層となりうる
Section 4 インドが気候変動に対して取るべき立場

Unit 6 「東アジア共同体」の構築を目指して
アビシット・ウェチャチワ(タイ首相)
Section 1 EUとは異なる東アジア共同体
Section 2 東アジア共同体への準備は整っている
マリ・パンゲツ(インドネシア貿易相)
Section3アジアの果たすべき役割
Section 4 より大きなアジアの姿
ジョージ・ロー(シンガポール外相)
Section 5 日本から中東に至るアジアの連続体
Section6 ASEANはアジアの平和の礎となる
まとめのQ&A

第3部 21世紀のグローバルな課題
総論

Unit7 ミレニアル、29日(MDGs)と貧困の終焉
ジェフリー・サックス(コロンビア大学)
Section1 極度の貧困に終止符を打つために
Section 2 ノウハウを活かしてビジネスチャンスにつなげる
ビル・ゲイツ(ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団共同会長、マイクロソフト会長)
Section 3 ミレニアム開発目標は新しい尺度を示してくれた
Section 4 現状を認識すれば、前に進むための努力ができる
モーガン・ツァンギライ(ジンバブエ首相)
Section 5 アフリカの厳しい現実
Section 6 貧困の悪循環から抜け出すために必要なこと
ヘレン・クラーク(国市明科のNPュージーランド前首相)
Section7 先進国はサミットでの公約から逃れてはならない
Section 8 景気後退が途上国に与える影響
まとめのQ&A

特別編3ビル・ゲイツ夫人が語る「私たちが慈善活動を始めたきっかけ」
メリンダ・ゲイツ (ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団共同会長)
Section 1 何かできることがあるはず

Unit 8 気候変動と再生可能エネルギー フェリペ・カルデロン(メキシコ大統領)
Section1 コペンハーゲンの失敗がもたらす教訓
Section2 カンクンでの COP16を成功させるために
トゥルシー・タンティ(スズロン・エネルギー会長、風力発電起業家)
Section 3 エネルギー効率を高め、アンバランスを解消する
Section4 インドの成功例に見る再生可能エネルギーへの投資・
まとめのQ&A

Unit 9食糧危機の克服と問題点
エレン・クルマン (デュポン会長兼 CEO)
Section 1 テクノロジーだけでなく、教育と協力が必要
Section 2 遺伝子組み換え食品の安全性について、
ンゴジ・オコンジョー=イウェアラ(世界銀行専務理事)
Section3 世界の食糧問題が抱える課題
Section4 グローバルな食糧危機の時代に

まとめのQ&A

Unit 10 教育に輝きを取り戻すために
ラーニア王妃(ヨルダン国王妃)
Section 1 質の高い教育と教師の関係
Section 2 教師に権威と尊敬の念を取り戻す
イリーナ・ボコバ(国連教育科学文化機関(UNESCO)事務局長)
Section 3 教師の質を向上させるユネスコの取り組み
Section4 教師の数を増やすためには
まとめのQ&A

特別編O ヨルダン国王が語る「変革の重要性」
アブドラ2世 (ヨルダン国王)
Section1 ヨルダンは変わり続けている
Unit 10 21世紀の支援のかたち
バーバラ・ストッキング (オックスファム事務局長)
Section 1 支援するなら、まずその国の事情を知らなければならない
Section 2 以前よりもよいかたちに復興させる
緒方貞子(国際協力機構(JICA) 理事長、元国連高等難民弁務官)
Section 3 人道支援と開発支援の違い
Section 4 平和構築の取り組み
まとめのQ&A

本書のまとめ

[コラム] 同時通訳の現場から学習者へのヒント1
聞き取りにくいと感じる3つの要素とは?
同時通訳の現場から学習者へのヒント2
覚えておくと聞き取りやすくなる「発音」の傾向
タクシーで学ぶ世界のお国事情1
台北やソウルのタクシー運転手に続け!
タクシーで学ぶ世界のお国事情2
シンガポールの武器「ふたつの言語」
タクシーで学ぶ世界のお国事情3
外国支援の難しさアフガニスタンの例
同時通訳の現場から学習者へのヒント3
覚えておくと聞き取りやすくなる「イントネーション」の傾向
柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2010/4/24)、出典:出版社HP

本書の基本的考え方

たとえば、ドイツ大手銀行国際部門の社内報告書や会議は、ドイツ本国王と英語でやりとりされています。また、韓国大手財閥の社内報告書は国内であっても全て基語に統一。こうした事例は、たとえ英語を母国語としない国に本社を置く企業であっても、グローバルな競争に打ち勝つためには英語を社内共通語と位置付ける必要が出てきたことを示しています。 世界を相手にビジネスを展開する日本企業にとっても、外国人社員との日 会話、海外拠点とのeメールのやりとりといった次元を超えて、「英語の湖」 は本社の中枢にまで押し寄せようとしています。「英語が世界共通語としてグローバル化していることへの対応が迫られているのは、企業に限った問題ではありません。日本という国が世界の中で初め られ、発言権を持っていくには、すでに何らかのかたちで海外との関わりを 持っている、あるいは将来持とうとする国民一人ひとりの意識にかかっているといっても過言ではないでしょう。

そのためには、3つの重要な要素があると思います。

1) 多様な英語に慣れる
G7からG8、そしてG20 という流れが示すように、世界は超大国がリードする時代から、多極化したバランスの上に成り立つ時代に突入しています。政治も経済も、もはや新興国、途上国抜きには考えられません。そうした世界の多極化に比例して、ノンネイティブの英語を理解することが実際にますます重要になってきています。まずは、母国語の癖を残したノンネイティブ 独特の発音が聞き取れなければ先に進めなくなっているのです。

2) 多様な価値観を理解する
世界の国々が官民レベルでお互いの理解を深めるには、いわゆる! 目線」では支持は得られず、尊敬されることもありません。会社のミーティングでも、一方的に意見を貫こうとすると、相手の反感を買うことはあっ 共感を得ることはないですよね?まずは、相手の目線に立って、いけんを理解しようとする姿勢が重要です。

3)自分の意見を持ち、相手に伝える
自分の意見を持つためには、さまざまなトピックについての理解を深める、 つまり、「世界がわかる」ことが不可欠です。その上で、その意見をどのよう に相手に正しく伝えるか、どうしたら説得力を持たせることができるか、と いうデリバリー(話し方)のコツを習得していくことが必要です。
上に挙げた3つの要素を満たす教材として「ダボス会議」は申し分ありま せん。本書は、そのダボス会議という旬な素材を使って、時事問題を理解す るための懇切丁寧なアシストを行い、時事英語を効率よく習得していだだく ことを目指しています。
まず、「多様な英語」という点では、本書で取り上げているスピーカー(パ ネリスト) 28人の国籍は 18カ国に上り、北米・南米・ヨーロッパからアジア・ 中東・アフリカに至る地球上の多種多様な地域が含まれています。ネイティ ブについても、アメリカだけではなく、イギリス、ニュージーランドが含まれています。
次に、「多様な価値観」という意味でも、ダボス会議では実にさまざまな角 度から意見が述べられています。国が多様なだけでなく、政治家、実業家、 国際機関やNGOのトップ、エコノミスト、キャスター、国王、皇太子、王 妃といった参加している人物の立場がバラエティに富んでいる点でも稀有な 会議です。また、相手を見下したような意見を述べているパネリストは誰も いません。みな相手の立場を理解した上で、あるときは賛同し、あるときは 反対意見を述べています。
さらに、時事問題を多様な角度から理解することは、「自分の意見を持つ」 ことにつながります。話し手が他のパネリストや聴衆に対し、どのように「自 分の意見を伝えよう」としているのか、本書に耳を傾けてみてください。たくさんのヒントが詰まっていることを実感していだだけることでしょう。

「ダボス会議について!
ダボス会議とは、世界経済フォーラム(World Economic Forum : RT WEF) BS. が毎年1月下旬にスイスの高級リゾート地であるダボスで行う年次総会のこと。1971年、世界 経済フォーラムの前身にあたる「ヨーロッパ経営者フォーラム」として第1回が開催され、 2010年に40回目を迎えた国際会議。「世界経済フォーラムはスイスの経営学者クラウス・シュワブが設立した非営利の組織で、「世界をよりよくする」ことをモットーに活動を行っており、ダボス会議はその中核に位置づけられている。
会議には世界各国の政財界のリーダー、金融政策の決定者、エコノミスト学者、ジャーナリストなどが参加し、経済を中心に、グローバルな課題、地域問題、科学・テクノロジー、医療、芸術、文化など幅広い分野にわたって討議を行う。今回の会議では、約90カ国から政府首脳を含む 2,500 人以上の企業のトップら世界を動かすリーダーたちが参加し、議論を展開。世界の現 状と未来について意見交換を行った。
会議は各テーマごとにセッション単位で行われる。パネルディスカッション形式が中心で、Moderator と呼ばれる司会者がセッションのテーマに基づいて各パネリストに意見を聞いていくスタイルを取っている。
今回のダボス会議は、2008年9月15日のリーマン・ショック以降、世界中が直面した金融危機から、どのように新しい秩序を組み立てていくのか という認識の中で行われた。会議全体のメインテーマは「Rethink Redesign Rebuild(世界の現状改善に向けて:再考、再設計、再建)」。

クラウス・シュワブ Klaus Schwab WORL
世界経済フォーラム(WEF)創設者兼会長
1938年、スイス国境に近いドイツのラベンスブルク生す イス連邦工科大、フライブルク大、ハーバード大で学び、博士号を持ち、72年から30年以上、ジュネーブ大子 71年、世界経済の改善のために、非営利組織としてヨーロッパ経営者フォーラムを設立。以来、世界経済 している。79年から毎年、「国際競争力報告書」を発表して組織の目的を経済、政治、知的活動のグローバル化 た、98年にはヒルダ夫人とともに「シュワブ財団」を設立し社会企業のサポートを行っている。

柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2010/4/24)、出典:出版社HP

序文 ーダボス会議を楽しむ一

道傳 愛子 (NHK解説委員)
ダボス・デビュー 仕事柄、各国の要人にインタビューをする機会が多い。ところが時期が1 月終わりにかかると「海外出張のためNG」と断られることがある。「ダボスの世界経済フォーラム」の会議に出席するため、というのが理由だ。たいて い“I will be in Davos.” (「ダボス」に行っているので)とあっさりと言われる。 スイスのひなびたスキーリゾート村の名前が持つ独特の響き。2010年になって、その「ダボス」に初めて参加する機会を得た。 「自分が「ダボスに行きます」と言う側になると、”Have fun!”(楽しんでい らっしゃいね)と言われた。でも、楽しむような余裕など、はたしてあるの だろうか。悲壮な心持ちでスイス入りしたのは、ダボス会議でセッションの モデレーター(司会者)を命じられ、NHKがBSと国際放送で世界に放送するという初めての試みが控えていたからだ。

2010年のダボス会議のテーマは、“Improve the State of the Wor, Redesign, Rebuild”。金融危機を経験した世界が自らのあり方を再考し設計図を描きなおし、再構築することを目指した。NHK が担当したセッションは、”The Great Shift East in the Global Agenda”. Billetty 仕感を増すインドや中国に代表されるアジアに世界の重心が動いて、 5つ問題提起は、2010年のダボス会議の中心ともなるテーマだった。
パネリストには国家元首や国際機関の幹部、著名な学者たちを迎える 対1のインタビューだけでも十分成立する世界のオピニオン・リーダーをお迎えし、失敗は許されないだろう。会場の聴衆にも世界の識者が集まる中で、聞き応えのないセッションとなったら私はどんな顔をして日本っ 帰るのだろう。というわけで・・・Have Fun”どころではなく、行きの飛行機の 中は一睡もせず、持ち込んだ大量の資料に再び目を通した。

Have Fun! ダボスは「広場」
日本では「ダボス会議」と言う名称が定着しているが、正式には World Economic Forum Annual Meeting(世界経済フォーラム年次総会)と言 う。大ホールで参加者全員が参加する規模の会議だけが「ダボス会議」では なく、1月27日から31日までの4日間で、実に 200 近いセッションや分科 会、さらには朝食会や昼食会、個別のミーティングなどが行われた。コーヒーブレークの間にもあちこちで議論に熱中している人たちの輪がある。ダボ ス会議参加者のみがアクセスできるイントラネットを開けば、卒業したアメ リカのコロンビア大学大学院の同窓 会の案内や、「アフリカの貧困問題を 考えるNGOです。日本で開催された TICAD(アフリカ開発会議)で名刺 交換しました。ダボスでぜひお会いし たい」「ジョージ・ソロス氏主催昼食 会へのご招待」「大連市長を迎えての 朝食会のご案内」などのメールが毎日届くにあるのだろう。特定のセッションに参加することだけに意味があるのでは なく、期間中に並行して行われている数多くのイベントや勉強会など、ダボ ス会議という「広場」で起こりうるあらゆる出会いを楽しみなさい、という ことだろう。

ダボスのテーマは 2010年ニュースの「見出し」
ダボス会議への参加が決まると分厚いプログラムが送られてくる。総会や 分科会の要覧といったところだろうか。どの分科会に参加するのか自分の予 定を組み立て、準備をした上で参加することになる。パネリストに名前を連 ねるのは国家元首や大臣、著名な学者など国際政治のキーパーソンばかり。「中 国の台頭と世界経済」「東 アジアの新たな秩序の構 築」「金融危機後の新たな 価値の創出」「貧困問題と気候変動」「米中関係の今 後」「金融システム改革の 課題」「核のない世界をめざして」など、関心のある 分科会に付箋を付けていくと、プログラムはあっという間に付箋だらけになった。
その後の世界情勢を見ても明らかだが、どれも 2010年のニュースの見出しになるテーマを先んじて取り上げている。朝から夜遅くまで、町なかのカフェでも、ダボス会議のIDを首から下げ、私と同じように付箋だらけになったプログラムを持った参加者たちが議論をしている。それぞれに2010年の国際情勢を読み解くヒントを見つけたのだろう。そうした議論の輪に入ると、授業が終わっても教授を囲んで話し込んだアメリカの大学院の食堂を思い出す。 政治家、学者、企業経営者、ジャーナリストなど活躍する分野はさまざまだが、日常から離れ、外界からなかば遮断された環境で、ありったけの「知」を吸収することを心から楽しんでいるように見えた。

聞く力は話す力
議論を聞くことも議論に参加することには大きな差がある。その場にいても何も発言しないのでは、参加したことにならない。議論に貢献(contribute)する力が求められる。そのためには議論を聞いて理解する力に加え、自分の考えを持ち、意見を組み立て、流れに即して絶妙なタイミングでボールを打ち返す力が求められる。
以前インタビューしたことのあるアナン前国連事務総長と廊下で出会ったら今、何を聞くのか。ノーベル平和賞受賞者グラミン銀行のユヌス総排し、 朝食会では何を話題にするのか。タイの外相と席が隣になったら今、何も質問するのか。エレベーターで乗り合わせた「国境なき医師団」の幹部・日 本の人道支援について聞かれたら何と答えるのか。インドのエネルギー 経営者には今、何を聞くのか。すべて実際にダボスで経験したことである。
NHKに入局したばかりの頃にスポーツ番組を担当したことがある。球場。 行っても、目の前を通る選手の体調、ピッチャーとの相性、最近の成績ム 後の対戦スケジュールなど把握していなければ即座に質問をすることもでき ない。ダボス会議で必要なのは、聞いて理解する力とともに、話す力、それ も瞬発力に近い話す力だということを改めて感じた。スポーツも同じだが、 そのためには日ごろの準備が欠かせない。行きの飛行機に始まり、その後も毎日寝不足だったのは、ダボスを楽しむため、と考えればそれはそれで良かったのではないかと思っている。

NHK・世界経済フォーラム共催のセッションの朝。新聞の帯に NHKワー ルドのロゴとともに自分の顔が大きく載っている写真。ホテルの食堂では従 業員が新聞を手に不思議そうな顔でこちらを見ている。ぜひとも NHK のセッションに出ていただきたい、放送も 見ていただきたい、とNHK ワールド として主要紙に広告を出したが、こん なに大きな広告とは思わなかった。そ して、広告を見た日本からの参加者か らは「ありがとう! 日本もがんばっている、元気ですよ、ということが伝わって、とてもうれしい、感激した。セッションはぜひがんばってください」と握手まで求められてしまった。

ここまで感激してくださる背景には、年々、深まる日本のプレゼンスの低下があるのだろう。会議場の真向かいには、中国中央テレビ(CCTV)が民 家を借り上げ「China House」と大きく書かれた真っ赤な横断幕と中国国旗 を掲げ、存在感をアピールしている。 中国からの参加者は今年最多、誰もが一様に中国の存在感の高さを口にした。 中国やインドの参加者の発言は経済成長の実績に裏打ちされた自信に満ちて いた。国際社会はそうしたアジアの勢いに何とかあやかり、金融危機からの 脱却を託しているようにも見える。

中国中央テレビは、China House と書かれた横断幕 今年のテーマ、“Rethink. Redesignを掲げてアピール。 Rebuild”には、新たなパラダイムの 構築が急務であるという共通認識がうかがえる。金融危機を経験した世界は、 ようやく我にかえり、既存のパラダイムについて再考(rethink)を迫られてはいるが、具体的にどうパラダイムを再構築するのか、redesign や rebuild まではまだ至っていないことを思わされた。2010年のダボス会議は終わってしまったが、参加者の発言やスピーチを今、改めて聞きなおすと、新たなパラダイム構築の模索の様子が見てとれる。同時に再構築に向けてのヒントもあるに違いないと感じている。スピーチを聞いて今、何を質問するのか。それを考えることは「聞く力」を高めることであり、ダボスを楽しむことでもあると思っている。

道傳愛子(どうでんあいこ) 上智大学外国語学部英語学科卒業後、NHK入局。「おはよう日本!「NHKニュース9」キャスターなどを経てバンコク特派員。「海外ネットワーク担当後、2007年より国際情勢担当解説委員。NHK ワールド「Asian Voices」キャスター。コロンビア大学大学院(国際政治)修士。

ICDトラック表
Track メインタイトル
1 オープニング
2 PART 1
Unit 1: Section 1…….ローレンス・サマーズ
Unit 1: Section 2 …… ローレンス・サマーズ
Unit 1: Section 3 ….. ドミニク・ストロスカ
Unit 1: Section 4 …… ドミニク・ストロスカーン
Unit 1: Section 5 …… ヨゼフ・アッカーマン
Unit 1: Section 6…… ヨゼフ・アッカーマン
Unit 2: Section 1…….. ゲオルギオス・アンドレアス・パパンドレウ
Unit 2: Section 2…… ゲオルギオス・アンドレアス・パパンドレウ
Unit 3: Section 1……..シェイク・サルマン皇太子
Unit 3: Section 2….シェイク・サルマン皇太子
特別編1 Section 1 …エリック・シュミット
特別編1 Section 2 …エリック・シュミット
特別編2 Section 1 …リズ・カーン
PART 2
Unit 4: Section 1……ルイ・チェンガン
Unit 4: Section 2……ルイ・チェンガン
Unit 4: Section 3……リー・ダオクイー
Unit 4: Section4……リー・ダオクイー
Unit 5: Section 1…… アナンド・マヒンドラ
Unit 5: Section 2…… アナンド・マヒンドラ
Unit 5: Section 3…….ラジャ・グプタ
Unit 5: Section4……..ラジャ・グプタ
Unit 6: Section 1…..アピシット・ウェチャチワ
Unit 6: Section 2…….アピシット・ウェチャチワ
Unit 6: Section 3…..マリ・パンゲツ
Unit 6: Section 4・・・マリ・パンゲツ
Unit 6: Section 5……ジョージ・ヨー
Unit 6: Section 6 ・・・・・・ジョージ・ヨー
PART 3
Unit 7: Section 1…….ジェフリー・サックス
Unit 7: Section 2…….ジェフリー・サックス
Unit 7: Section 3…. ビル・ゲイツ
Unit 7: Section 4…… ビル・ゲイツ
Unit 7: Section 5……. モーガン・ツァンギライ
Unit 7: Section 6…モーガン・ツァンギライ
Unit 7: Section7……ヘレン・クラーク
Unit 7: Section 8……ヘレン・クラーク
特別編3 Section1 …メリンダ・ゲイツ
Unit 8: Section 1…….フェリペ・カルデロン
Unit 8: Section 2……フェリペ・カルデロン
Unit 8: Section 3……トゥルシー・タンティ
Unit 8: Section4…….トゥルシー・タンティ
Unit 9: Section 1……エレン・クルマン
Unit 9: Section 2…….エレン・クルマン
Unit 9: Section 3……ンゴジ・オコンジョイウェアラ
Unit 9: Section 4・・・・・ンゴジ・オコンジョイウェアラ
Unit 10: Section1…ラーニア王妃
Unit 10: Section 2 … ラーニア王妃
Unit 10: Section 3.イリーナ・ボコバ
Unit 10: Section4…イリーナ・ボコバ
特別編1 Section1…アブドラ2世
Unit 11: Section 1 ・バーバラ・ストッキング
Unit 11: Section 2 バーバラ・ストッキング
Unit 11:Section 3…. 緒方貞子
Unit 11: Section 4…. 緒方貞子
エンディング

*本書のスクリプトはイギリス英語となっております。

第1部
金融危機後の世界経済

Unit 1 金融界の大物が語るグローバル経済
Section 1-2 ローレンス・サマーズ (アメリカ国家経済会議(NEC)委員長、元財務長官) Section 3-4 ドミニク・ストロスカーン (国際通貨基金(IMF) 専務理事)
Section 5-6 ヨゼフ・アッカーマン(ドイツ銀行 CEO)
Unit 2 ギリシャがもたらすユーロの危機?
Section 1-2 ゲオルギオス・アンドレアス・パパンドレウ(ギリシャ首相)
Unit3 中東の皇太子が語る資本主義の必要性
Section 1-2 シェイク・サルマン皇太子(バーレーン王国皇太子)
特別編1_ Google 会長が語る「イノベーションの力」
Section 1-2 エリック・シュミット(Google 会長兼 CEO)
特別編2 人気テレビキャスターが語る「就任から1年のオバマ大統領」
Section1 リズ・カーン (テレビキャスター)

柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2010/4/24)、出典:出版社HP