ダボス会議で聞く世界の英語(CD付)

 


 

ネイティブから非ネイティブまでの著名英語スピーチ

ダボス会議に出席するのはネイティブだけでなく、非ネイティブスピーカーの英語もあります。彼らの論理的な発展と即興的な表現に非常に役立ち多種多様な英語に慣れることの大切さを提供してくれます。 英語の状況と世界中の国々の発音特性についての興味深いコラムもあります。

はじめに

本書は、『ダボス会議に学ぶ世界を動かすトップの英語』の続編として、 過去5年間の世界経済フォーラムから、英語のノンネイティブ・スピーカー (英語を母国語としない人たち)を中心に、世界20カ国に及ぶ政財界のリーダーたちの発言を収録し、解説を加えたものです。

グローバル社会の到来は、国際語としての英語の地位をさらに高めるにとどまらず、世界共通のコミュニケーション言語としての英語のあり方を、根 底から問い直すきっかけを作ることになりました。

世界で、英語をある程度使いこなすことのできる人口は約15億人と言われていますが、そのうち、いわゆるネイティブ・スピーカー (英語を母国語と する人たち)は約4億人にすぎません。英語学習熱が世界中で高まっていることを考えると、ノンネイティブの比率は今後さらに上昇し続けることは想像 に難くないでしょう。

このような世界の潮流の中で生まれてきたのが、World Englishes(世界の 英語)という概念です。それは、ネイティブ、ノンネイティブにかかわらず、世界各国で話される多種多様な英語(発音、 語彙、文章など)はすべて同等であるという考え方です。これまでは、「アメリカ人、イギリス人などのネイティブ・スピーカーの話す英語が唯一正しい」という前提で英語を学んできます たが、これからは、もう少し広い視野で英語をとらえることが不可欠でしょう。

では、このようなグローバル時代に目指すべき英語はどのようなもの ょうか? 英語を「コミュニケーションの道具」ととらえた場合、特に以下の2点が重要だと思います。

1.多種多様な英語に慣れること
個人差があるとはいえ、ノンネイティブの話す英語には、発音、使用語彙、 表現方法などの面において、話し手の母国語の影響が色濃く出ます。さまざまなお国訛りの英語を聞いて慣れるとともに、その母国語からくる独特な言い回しがあった場合、相手の言わんとしているポイントをつかむように努めることです。

2.自分らしい英語を堂々と発信すること
自分が発信する英語は自分の個性やアイデンティティの一部である、という発想で臨むことです。自己流でいいと開き直るわけではありませんが、自 分の生まれ育ったバックボーンとなる文化・言語を色濃く出すことに引け目 を感じる必要はありません。また、間違いを必要以上に気にせずどんどん話 していく、という姿勢も忘れてはならないでしょう。

本書は、上記のポイントを念頭に置きながら、まず、世界各国のリーダー の発言を通して、彼らがどのような英語を話すのかを学んでいきます。そし て、日本語を母国語とするわれわれが、どのような姿勢で英語を話したらいいのかという点について、考えていきたいと思います。
最後に、ネイティブの英語が依然としてお手本であることには変わりあり ません。本書に登場するネイティブの英語に加え、『世界を動かすトップの 英語』をご併読いただくと、一層の学習効果が期待できると思います。

本書が、読者の方々の World Englishes への扉を開き、ご自分の英語のあり方を見直すきっかけになるとすれば、筆者としてはこの上もない喜びです。
2008年1月 鶴田知佳子、柴田真一

鶴田 知佳子 (著), 柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2008/1/25)、出典:出版社HP

目次

はじめに
本書の基本的考え方
ダボス会議について
CDの構成と使い方
序文 ダボス・日本・英語今井 義典(NHK解説主幹)

序章日本
アジアを動かす「ボトムアップ」のカーアジアは統合に向かうか?
緒方貞子(国際協力機構(JICA)理事長)
Section 1 アジアはボトムアップによって築かれる
Section2 対話をもたらす参加型のアプローチ
Section 3 企業はボトムアップの推進力となる
Section4 さらなるボトムアップの必要性
世界の英語ワンポイント―日本編

PART1 アジア・オセアニア
アジアにおける英語
Unit1 中国11
中国経済が抱えるふたつのリスク 保護主義と外貨準備高
(スー・ミン)(中国銀行副頭取)
Section 1 保護主義が台頭するリスク
Section 2 これは負債であって自由なお金じゃない
世界の英語ワンポイント――中国編1
Unit 2 中国2
中国は調和のとれた世界を必要としている
成思危 (チャン・スーウェイ) (全国人民代表大会(全人代)常務委員会副委員長)
Section1 中国と友達になるのに遅すぎることはありません
Section 2 「違い」ではなく「共通点」を見いだす姿勢
世界最大の携帯電話サービス会社 – チャイナ・モバイルの世界戦略
王建宙 (ワン・ジャン)(チャイナ・モバイル(中国移動通信集団公司)会長兼CEO)
Section 3 中国企業はグローバルになる必要がある
Section4 求む、質の高い経営陣
世界の英語ワンポイント―中国編2

特別編アメリカ:世界金融のトップが語る中国
勤勉な国民性が鍵を握る
メリルリンチ副会長が語る中国
ウィリアム・マクドナー (メリルリンチ副会長)
Section 1 中国に行った最初のアメリカ人銀行員
Section2 勤勉な国民性が中国の強み
中国は地位を回復しようとしている 世界銀行総裁が語る中国
ロバート・ゼーリック(世界銀行総裁)
Section 3 さらなる尊厳と認識を期待している中国
Section 4 中国の平和的台頭
世界の英語ワンポイント 特別編
Unit3 インド1
インドの勢いを止めるものは何か?――インド屈指のグローバル企業インフォシス
ナンダン・ニレカニ(インフォシスCEO)
Section 1 インドにおける「格差社会」
Section 2 インド経済を鈍らせる2つの要因が
世界の英語ワンポイント インド編1
Unit 4 インド2
インドの地球温暖化対策 ——問われる途上国の責任
モンテック・アルワリア (インド政府計画委員会副委員長)
Section 1 温暖化の責任は途上国にもあるのか?
Section 2 インドにおける温暖化防止の取り組み
世界の英語ワンポイント インド編2
Unit5韓国で アジアが成長を持続するために― サムスン電子副会長のスピーチ
宇 龍 (ユン・ジョンヨン) (サムスン電子副会長兼CEO)
Section 1 アジアの持続的成長は技術革新によって可能だ
Section 2 アジアにはまたとない機会が訪れている
Section 3 グローバル経済の成区
Section 4 アジア共同体の一体となった関係を作り出す
世界の英語ワンポイント――韓国編

Unit 6 フィリピント
ひとつになるアジアASEANの可能性
グロリア・マカバガル・アロヨ (フィリピン共和国大統領)
Section 1 不安定な時代におけるASEANの役割
Section2 ASEAN統合―加速の必要性
Section 3 ASEAN諸国の環境問題、テロとの戦い
世界の英語ワンポイント フィリピン編
Unit7マレーシア国
テロとの戦いは、いかに世界を変えるか? 9.11はなぜ起きたのか
マハティール・ビン・モハメド(マレーシア前首相)
Section 1 9.11は虐げられた人々が起こしたのではない
Section 2 状況が新たなテロを生む 世界の英語ワンポイントーマレーシア編
Unit 8 オーストラリア
インターネットの力を利用せよーメディアの帝王が語る表現の多様性
ルパート・マードック(ニューズ・コーポレーション会長兼CEO)
Section 1 メディア界の大物が体感したインターネットの力
Section2 歓迎すべき「モノの見方」の多様化
世界の英語ワンポイント―オーストラリア編・
PART 2 アフリカ・中東
アフリカ・中東における英語
Unit 1 ガーナ 国連は生まれ変われるか? アナン前事務総長のメッセージ
コフィ・アナン (前国連事務総長)
Section1 国連にとっての新たな考え方
Section 2 「ミレニアム宣言」の実現に向けて
世界の英語ワンポイントアフリカ編1

Unit 2 リベリアラ
海外援助のゆくえ ―― アフリカ初の女性大統領
エレン・ジョンソン・サーリーフ (リベリア共和国大統領)
Section 1 援助が失敗だったとは思わない
Section 2 援助の先にある自立
世界の英語ワンポイント―アフリカ編2
Unit3 ヨルダン
若者に知恵を借りる ―― ヨルダン国王妃が訴える教育の重要性
ラーニア王妃(ヨルダン国王妃)
Section 1 若者には社会に働きかける力がある
Section 2 生まれた場所で機会が制約されてはならない
Section 3 ギャップを埋めることが課題
Section 4 教育こそが平等をもたらす
Section 5 古びた思想を伝える新しいテクノロジー
世界の英語ワンポイント―中東編1
Unit4 アフガニスタン 「文明の協力」が実現した国 ―― 世界が見守るアフガニスタン大統領
ハーミド・カルザイ (アフガニスタン大統領)
Section 1 西欧が脅威に気づいて団結した
Section 2 アフガニスタン内部の各国の協力体制
世界の英語ワンポイント―中東編2
Unit5 UAE(アラブ首長国連邦)
オイルマネーのゆくえ――最も熱い都市ドバイを誕生させた男
モハメッド・アル・ゲルガウイ(ドバイ・ホールディング会長)
Section 1 中東地域の新たな時代の幕開け
Section2 アラブ世界の今後の投資 世界の英語ワンポイント――中東編3
特別編、アメリカ! 迷えるアメリカ? ライス国務長官が語るアメリカの自負と責任
コンドリーザ・ライス (アメリカ合衆国国務長官)
Section 1 アメリカは原則を守り、言葉に忠実な国
Section 2 テロでは何の罪もない人が意図的に標的にされる
Section 3 政治がクリーンであることの必要性
世界の英語ワンポイント アメリカ編
PART3 ヨーロッパー
ヨーロッパにおける英語
Unit 1 イギリス
9.11後の世界 ―― テロとの戦い
デービッド・キャメロン (イギリス保守党党首)
Section 1 テロとの戦いにテクノロジーが果たす役割
Section2 大きな変化をもたらすのは小さなテクノロジー
世界の英語ワンポイント イギリス編
Unit2 フランス ユーロのカー欧州中央銀行トップが語る
ジャン・クロード・トリシェ(欧州中央銀行総裁)
Section 1 過小評価されてきたユーロ
Section 2 雇用創出という長期資産
世界の英語ワンポイントフランス編
Unit3 ドイツ ヨーロッパの自由市場 —— 郵政民営化を成功させたドイツ人CEO
クラウス・ツィムヴィンケル(ドイチェポスト会長)
Section 1 ヨーロッパは100%自由な市場を望んでいる
Section2 EUはヨーロッパに素晴らしい平和をもたらした
世界の英語ワンポイント ―ドイツ編
Unit4 イタリア エネルギーの安全保障―― ヨーロッパ最大のエネルギー企業ENI
ロベルト・ポリ (ENI会長)
Section 1 エネルギー政策には心理的な側面が大きく影響
Section 2 現時点でプレミアムはいつまで続く?
世界の英語ワンポイント イタリア編
Unit5 オランダー
地球温暖化と石油燃料—巨大エネルギー企業ロイヤルダッチシェル
イェルーン・ヴァン・デル・ヴェール (ロイヤルダッチシェルCEO)
Section 1 20年後、世界はもっと石油やガスを使うことになる
Section 2 ロイヤルダッチシェルの石油戦略
世界の英語ワンポイント オランダ編
Unit 6 ロシア ロシアの石油戦略 ―― エネルギー資源問題の鍵を握るガスプロム
アレクサンダー・メドベージェフ (ガスプロム副会長)
Section 1 エネルギー管理の問題には難題が山積
Section 2 ロシアへ依存するヨーロッパの石油事情
世界の英語ワンポイントロシア編
特別編 スイス/ロシア 「音楽の力」を信じる 現代最高のバイオリニスト、ヴェンゲーロフ
クラウス・シュワブ(世界経済フォーラム創設者)
マキシム・ヴェンゲーロフ(バイオリニスト)
Section 1 政治・経済だけではない、文化のリーダー
Section 2 ヴェンゲーロフの活動の数々
Section 3 私はロシアに生まれるという恵みを受けました
Section 4 音楽は癒しであり、過小評価されがちな力です
世界の英語ワンポイント特別編

終章 日本
「人間の安全保障」 ―人間を中心に据えた新たな可能性
緒方貞子 (JICA理事長)
Section 1 「人間の安全保障」という概念
Section 2 安全であるとはどういうことか?

本書のまとめ

鶴田 知佳子 (著), 柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2008/1/25)、出典:出版社HP

本書の基本的な考え方

ツル先生:通訳者、教員としての視点から
最近の国際会議から、日本人が英語で発表する機会が増えているのは喜ばしいことだと思います。 最近通訳を担当したあるアジアの技術者の会合でも、きちんと用意された百 稿を渡されて「英語で発表しますから、日本語に同時通訳してください」と いうスピーカーの方が何人もいました。またこの会合の冒頭で、「アジアの音 見をひとつにまとめて、国際的な場でアジアの意見として反映していくため に、今回の会合を持った」という意思表示が強く打ち出され、感動するとともに、あらためてアジアの意見をひとつにする議論をする上での共通言語は 英語であると再認識しました。英語は大いなる共通語なのです。しかも、世 界の舞台で「アジアはこういう意見だ」と訴えていくにも、やはり英語なの です。そうなると英語で発言せざるを得ないのですが、今まで通訳ブースの 中から見ていても、また同時通訳者の間でもよく言われることですが、お国 訛り丸出しでも臆せずにしゃべる他のアジアの国やヨーロッパのスピーカー に比べて、日本人は日本語的な英語では恥ずかしい、完璧な英語でないと発 言できないのではと力む人が多いようです。ところが、実はヨーロッパの非 英語圏のスピーカーの場合だって、「これでも英語!?」と思ってしまうような 人が多いのが現状です。

自分らしさを伝えるツール

自分らしさを伝えることができるか、効果的なコミュニケーショ 上で、これこそが鍵であると常日頃、痛感しています。スピーチコ の審査員をしていると実感しますが、全般的な発音などは欧米人 語教員補佐)が各地の学校に増えたせいもあるのか、ずいぶんし ってきたと思います。とても発音がよく、帰国子女かと思ったらそうではない若い人も増えてきました。となると、次は伝えたい内容が英語できちんと 表されているのか、聞く人が十分に理解して受け止めてくれるような内容が 伝わるかということが大事です。完璧な英語の発音を目指すよりも、自分の 意見を英語で伝わるような形で表現できるかが重要だと思います。なにも日 本語の発想を無理して英語に置き換えたり、あるいは英語のイディオムを無 理に使うことはありません。
「リーダーの英語』『世界を動かすトップの英語』(いずれも柴田真一氏と の共著)に続く『世界の英語』となりますが、前の2冊でもみたように、伝えるものがあってこそ、ツールとして言語が生きてきます。今回、この『世界 の英語』で感じていただきたいのは、英語といってもひとつではなく、それぞれ特徴があること、また、英語を使いこなすにはそれぞれ知恵を絞り、工 夫と努力をした上で成り立っているということです。ここでご覧いただくよ うに、世界のそれぞれの国の人たちも、自分を伝えるツールとして英語を使 っています。世界に向かって「日本人の英語」を発信していく方々にとって、 本書が「応援歌」になれば幸いです。
柴ちゃん:国際ビジネスマンの視点から

奈落の底に突き落とされた事件

ドイツ駐在時に、日本人の上司から、「君のドイツ語はたいしたもんだ。で も、君くらいできるとドイツ人が手加減しなくなるだろうな。交渉のときは、 こちらは日本人だ、ということを相手に意識させたほうがいいんだよ」と言 われたことがありました。私は即座に、「ネイティブに近い外国語を話そうと 努力するからこそ、相手から尊敬され、信頼関係を築くことができるのでは ないですか」と反論しました。すると、その上司は、「でもねえ、うまいとい っても、君はしょせんネイティブじゃないんだよ。表現力が足りないことも あれば、相手の言ったことを勘違いすることもあるだろう。相手は、君はちゃんとわかっているはずだ、と考えるから、誤解が広がったり溝が深まったりすることもあるんだよ」と、冷静に答えました。 それまで、私は、「ネイティブに限りなく近い発音で、ネイティブが驚くようなイディオムを駆使しながら流暢に自己主張を展開し、欧米人とは、時には相手を封じ込めるような交渉ができる外国語」を理想とし、それに、一歩でも近づくことを目標に置いてきました。そんな私の語学哲学という~」 ものは、根底から否定されたのでした。

プラス思考で自分らしい個性のある英語を

そのときは、素直に受け入れることはできませんでしたが、海外駐在で人 私ともにさまざまな経験を積むにつれ、次第にその上司の考えに共感できる ようになっていきました。
わが国の英語学習者は、ネイティブによる「日本人英語の矯正」に耳を傾 けます。いわゆる減点主義ですね。しかし、ヨーロッパで、「フランス人の苗 語はこんなところが変」「イギリス人の中国語は間違いだらけ」といった類の 本や雑誌の記事があるでしょうか。 「帰国子女ならともかく、私のような日本育ちで、「学校英語」をルーツとする人間が、アメリカ英語、アメリカ人の発想にどこまで近づけるのでしょう か。ただでさえ身体的に一回り小さいわれわれです。発音が悪い、文法が違 う、と指摘されたら、コンプレックスは増幅して、ますます物が言えなくなってしまうのではないでしょうか。日本人の間ではオモシロ人間でも、外国 人の前では借りてきた猫のようになっては残念です。

ビジネスでは、There should be a level playing field. (同じ高さの遊び場 があるべきだ→同じ土俵に立つべきだ)という言葉をよく使います。特に、 フェアな精神を重んじる国イギリスでは、That’s not fair.(フェアじゃない) とか、Fair enough.(それならいいだろう)といったコメントを耳にします。 相手の立場を尊重しながらも、背伸びして無理に相手に合わせようとせず、こちらの立場も相手に理解してもらおうと努力する、そこにこそ対等な父の が成り立つのです。
があるのを実感して

本書を読み聞きしていただくと、実にさまざまな英語があるのを実感いただけると同時に、パネリスト一人ひとりが、相手に何とか伝えようと熱意をもって語っています。
皆さんも、自分の英語がどうあるべきか、もう一度考え直してください。そして、減点主義とは訣別し、自分の英語に自信と誇りを持 の英語を発信しようではありませんか。

ダボス会議について

ダボス会議とは、世界経済フォーラム (World Economic Forum:略称WEF)が毎年1月下旬にスイスの高級リゾート地であり、トーマスマンの『魔の山』の舞台でもあるダボスで行う年次総会のこと。1971年、世界経済フォーラムの前身にあたる「ヨーロッパ経営者フォ
雪に覆われたダボスの会議場フォーラム」として第1回が開催され、2008年に38 回目を迎える国際会議。
世界経済フォーラムはスイスの経営学者クラウス・シュワブが設立した非 営利の組織で、「世界をよりよくする」ことをモットーに活動を行っており、 ダボス会議はその中核に位置づけられている。

会議には世界各国の政財界のリーダー、金融政策の決定者、エコノミスト、 学者、ジャーナリストなどが参加し、経済を中心に、グローバルな課題、地 域問題、科学・テクノロジー、医療、芸術、文化など幅広い分野にわたって 討議を行う。前回の会議では、世界90カ国から約2,400人を超える政府首脳や 企業のトップら世界を動かすリーダーたちが集まり、200以上の総会・セッシ ョンに分かれて議論を展開。世界の現状と未来について意見交換を行った。

クラウス・シュワブ Klaus Schwab 世界経済フォーラム(WEF)創設者兼会長
1938年、スイス国境に近いドイツのラベンスブルグ生まれ。スイスの経営学者。スイス連邦工科大、フライブルク大、ハー バード大で学び、機械工学、経済学の博士号を持ち、72年か ら30年以上、ジュネーブ大学で教鞭を取っていた。

71年、世界経済の改善のために、非営利組織として世界経 済フォーラム(当時はヨーロッパ経営者フォーラム)を設立。 以来、世界経済フォーラムを主宰している。今日では組織の目 的を経済、政治、知的活動のグローバル化の促進であるとして いる。79年から毎年、「国際競争力報告書」を発表している。 また、98年にはヒルダ夫人とともに「シュワブ財団」を設立 し、社会起業のサポートを行っている。 ゆっくりとした口調ながら、品格のある英語を話す。

ダボス会議の形式と特徴

会議は各テーマごとにセッション単位で行われる。基本的にパネルディスカッション形式が中心で、Moderator と呼ばれる司会者がセッションのテーマに基づいて各パネリストに意見を聞いていくスタイルを取っているが にはラウンドテーブル(円卓会議)やオープンフォーラムで行われるものである。
取り上げられるテーマは多岐にわたっており、前回は「地球温暖化」に期 するセッションが特に数多く行われ、その関心の高さを証明した。異学舎へ による自然災害がわれわれにもたらす被害の影響もさることながら、2012年
受けたブッシュ大統領の政策変更、ひいては排出権取引など環境問題が着実 にビジネスと結びつきつつあることなどが背景にあった。このようにして世 界各国の政府と企業が国境を越えて認識を共有し、具体的な解決策を模索するために議論を行う場がダボス会議であるといえよう。
また、好調な経済情勢を受けて、中国とインドに関するセッションも多く 開かれ、グローバル化に伴い地球規模でパワーバランスの変化が進行していることをあらためて痛感させられた。

世界に広がるダボス会議

ダボス会議を主宰する WEF は、ダボスで行われる年次総会だけでな く、東アジア、中東、アラブ、アフ リカ、ラテンアメリカといった地域 レベルでの会議にも力を入れている。また、2007年には新たな試み となる大連で行われた第1回「夏季ダボス会議」のクロージンが中国の大連で行われ、第2回も天津で開催される予定になっている。北京オリンピック、上海万博を控える中国が、国際社会において重要な鍵を握っていると認識されていることがうかがわれる。
グローバル化によって、異なる地域間のやりとりが広がりを見せ、従来の先進国主導型の世界が書き換えられ、豊富な天然資源を持つ国や地域などの 新たな勢力が登場してきた中、ダボス会議も「世界をよりよくする」という モットーに則り、変貌を遂げる世界とともに広がっているといえよう。

ダボス会議のもうひとつの顔

ダボス会議は世界各国からVIPが集まる社交の場でもある。昼食会やレセプションパーティーが催され、旧交を温めたり、話し合いが持たれたりすることもある。
また、セレブリティが参加することも話題のひとつ。2006年には、国連難民高等弁務官事務所の親善大使を務めるアンジェリーナ・ジョリーが妊 娠中に夫のブラッド・ピットとともに参加。2005年には、アフリカの貧困撲滅に関する会議を傍聴していたシャロン・ストーンが席から立ち上がって聴衆に寄付を呼びかけ、わずか10分足らずの間に100万ドルを集めたことが話題になった。

鶴田 知佳子 (著), 柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2008/1/25)、出典:出版社HP

関連URL

世界経済フォーラム(WEF) http://www.weforum.org/
なお、本書で取り上げたスピーチの模様は、下記のウェブサイト、もしくは
http://www.weforum.org/en/fp/videos/index.htm
から該当するセッションを検索することで、ポッドキャストウェブキャスト、ビデオボットキャストなどでご覧になることができます(リンクが期限切れする場合もあります)。

B B* An East Asian Community: Is There a Design that Can Delivong
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_eastasia20001Default.aspx?sn=00003
第1部アジア・オセアニア
Unit 1 461 Update 2007: The Global Economy
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=18892
Unit 2 +22 What Kind of World Does China Want?
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=18625
Unit 3 1981 What’s on the Mind of Asia’s New Business Giants?
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=19288
Unit 4 112 Climate Change: A Call to Action
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=19392
Unit 5 # Asia’s Growth Model: Can It Sustain Itself?
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_eastasia2006/Default.aspx?sn=00001
Unit 6 TUE ASEAN’S 40 Years – A New Future
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforumannualmeeting2007/default.aspx?sn=18626
Unit 7 V-) How the Fight Against Terrorism Will Change the Woriui
http://clients.worldtelevision.com/worldeconomicforum%5Fannualmeeting/friday.asp
Unit 8 +- SUT Who Will Shape the Agenda?
http://gaia.worldtelevision.com/wef/worldeconomicforum_annualnie2007/default.aspx?sn=19572
第二章 アフリカ・中東
Unit 1 +-+ A New Mindset for the UN
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum 2006/default.aspx?sn=16426
Unit 2 URUT Scaling Innovation in Foreign Aid
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=19250
Unit 3 3) Wisdom of Youth
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=19250
Unit 4 PH=259 Muslim Societies in the Modern World
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2006/default.aspx?sn=16038
Unit 5 UAE Seizing the Moment: The Global Investor Perspective
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_jordan 2005/S14607.asp
特別編 アメリカ Guiding Principles and Values for US Policies
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2006/default.aspx?sn=16748
第3部ヨーロッパ
Unit 1 1#UZ The Comprehensive Response to Terrorism
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=18627
Unit 2 592 The Global Economic Outlook 2007
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=18189
Unit 3 What Europe Should CEO’s Prepare For?
http://clients.world-television.com/worldeconomicforum%5Fannualmeeting2004/_59992.asp
Unit 4 1997 Energy Security – Challenging the Pillars of Supply
http://clients.world-television.com/worldeconomicforum%5Fannualmeeting/saturday.asp
Unit 5 +52 Energy 2007 – The New Era of Petropolitics
Unit 6ロシア
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=18505
特別編 スイス・ロシア Presentation of the Crystal Award
http://gaia.world-television.com/wef/worldeconomicforum_annualmeeting2007/default.aspx?sn=29690
終章 日本 The Imperative of Partnering against Poverty
http://clients.world-television.com/worldeconomicforum%5Fannualmeeting2004/_S10155.asp

CDの構成
Track 1 タイトル
Introduction 日本
Track 2 Section 1
Track 3 Section 2
Track 4 Section 3
Track 5 Section 4
PART 1アジア・オセアニア
Unit 1 中国1
Track 6 Section 1
Track 7 Section 2
Unit 2 中国2
Track 8 Section 1
Track 9 Section 2
Track 10 Section 3
Track 11 Section 4
特別編アメリカ
Track 12 Section 1
Track 13 Section 2
Track 14 Section 3
Track 15 Section 4
Unit 3 インド1
Track 16 Section 1
Track 17 Section 2
Unit 4 インド2
Track 18 Section 1
Track 19 Section 2
Unit 5 韓国
Track 20 Section 1
Track 21 Section 2
Track 22 Section 3
Track 23 Section 4
Unit 6 フィリピン
Track 24 Section 1
Track 25 Section 2
Track 26 Section 3
Unit7 マレーシア
Track 27 Section 1
Track 28 Section 2
Unit 8 オーストラリア
Track 29 Section 1
Track 30 Section 2
PART 2 アフリカ・中東
Unit 1 ガーナ
Track 31 Section 1
Track 32 Section 2
Unit 2 リベリア
Track 33 Section 1
Track 34 Section 2
Unit 3 ヨルダン
Track 35 Section 1
Track 36 Section 2
Track 37 Section 3
Track 38 Section 4
Track 39 Section 5
Unit 4 アフガニスタン
Track 40 Section 1
Track 41 Section 2
Unit 5 UAE
Track 42 Section 1
Track 43 Section 2
特別編アメリカ
Track 44 Section 1
Track 45 Section 2
Track 46 Section 3
PART 3 ヨーロッパ
Unit 1 イギリス
Track 47 Section 1
Track 48 Section 2
Unit 2 フランス
Track 49 Section 1
Track 50 Section 2
Unit 3 ドイツ
Track 51 Section 1
Track 52 Section 2
Unit 4 イタリア
Track 53 Section 1
Track 54 Section 2
Unit 5 オランダ
Track 55 Section 1
Track 56 Section 2
Unit 6 ロシア
Track 57 Section 1
Track 58 Section 2
特別編 スイス・ロシア
Track 59 Section 1
Track 60 Section 2
Track 61 Section 3
Track 62 Section 4
Closing 日本
Track 63 Section 1
Track 64 Section 2

鶴田 知佳子 (著), 柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2008/1/25)、出典:出版社HP

序文 一ダボス・日本・英語一

今井義典(NHK解説委員)

ジャーナリストとしてのダボス会議との出会い

1986、7年頃だったでしょうか。ダボス会議の事務局である世界経済フォーラム (WEF) が日本人の参加を求めて財界に働きかけにやってきた際、メディアへも参加依頼がありました。お話を伺って非常に関心を持ったのですが、 当時、朝のニュースキャスターをしていた関係で (86年4月より2年間『NHK ニュースワイド』キャスターを担当)、残念ながら行くことができませんでした。その後、89年の11月にベルリンの壁が崩れ、「ベルリンの壁を見に行って東側に一歩足を踏み入れること」と「ダボス会議」をセットにして、しか も会議の模様をテレビ番組として放送してみようと思い立って提案したとこ ろ、翌年の1月のダボス会議に初めて参加することができ、番組の取材が実現 したのです。世界中の注目を集めている今とは大違いで、当時は日本人出席者が政財界合わせて20~30名ほど、テレビの取材もCNNやBBCは影も形も なく、日本からのNHKと地元スイスのテレビ局、それにイギリスのフィナン シャルタイムズが当時ウィークリーのTV経済番組の取材班を派遣していた程 度だったと思います。世界の指導者が雪に閉ざされたスイスの山奥までわざ わざ足を運んで、立場や考え方を超えて文字通り膝を交えて議論する、テレ ビにとってはまたとない素材でした。それ以来、94、95年を除き、ダボス会議には毎年出席しています。

初めて参加した90年のダボス会議は非常に印象的でした。ベルリンの壁が 崩れた直後で、東欧がバタバタと共産主義・社会主義を捨てて新しい道を模索し始めたところだったので、世界が大きく流れを変えるところを目の当たりにしました。まだ社会主義・共産主義の衣を棄てきれない東欧諸国の指導者たちが民主化について演説をしていたのを覚えています。次の91年になる と、ソ連の幹部の中でも自由化が進み、必ずしも共産主義をとらない指導者 たちがたくさんやって来ました。それらの国々の人たちに共通していたのは 英語があまり話せず、通訳を介した議論が多かったように思います。

途上国の参加者はまだ限られていました。ダボス会議の特色は、世界を代 表する企業の経営者と先進国の指導者と高官、それからさまざまなシンクタンクや学者、政策決定に関わる専門家らが中心になって構成されている あります。途上国にとっては、先進国のリーダーと直接会って開発資 切や投資を要請したり、技術やノウハウの移転を話し合う場でもあるのですが、発展途上国、あるいは新興国からの参加者が増えるようになったのは、冷戦構造が幕を閉じ、世界中が経済競争のレース グローバ) 一の中に一挙に参加するようになってからです。特に、21世紀に入ってからは中国・インドの存在感が高まっています。

リーダーシップを仕掛ける場

前回 (2007年)のダボス会議では「地球温暖化」が最も高い関心を集めました。今でも覚えていますが、2000年代の初め頃にダボスの全体会議 世約の最大の課題は何か」というアンケートを取ったときに、いちばん多かった答えが「地球温暖化」でした。90年代の初めにはスイスのアルプスあることを訴えた議論もありましたし、ダボスでは早くから「地球温眠ル 関する議論はあったわけで、ダボス発の地道な努力が、世界の温暖化に期になる議論に拍車をかけたのかもしれません。

温暖化の問題は、いまや政治的なリーダーシップにおいても、リーディン グ・カンパニーの CSR(企業の社会的責任)においても、非常に大きな位置付けになってきていて、多くの政府と企業で「リーダーシップをとらなければならない」という覚悟ができてきていると思います。エネルギー産業もそうだ。 てきていますし、なにかベクトルが変わった感じを前回のダボス会議では受けましたし、もちろん会議自体もその仕掛けの一端を担っているわけです。

また、07年はドイツがG8および上半期のEU議長国でしたが、ダボス会議 を利用することでメルケル首相のリーダーシップ、ドイツのリーダーシップ を世界に示すことに成功したと思います。ダボス会議とは、そういう仕掛け ができるところです。温暖化について、イニシアティブが取れるか取れないかということは、それぞれの国や産業にとってある程度有利な条件を作り出 す上で、しかもリーダーとして国際的な評価を受ける上でも重要です。 点に関しても、メルケル首相はダボス会議を巧みに利用したと思います。 際政治あるいは国際ビジネスとはそういうものではないでしょうか。

08年は日本でG8洞爺湖サミットが開催されますが、ダボスを絶対) チングパッド(発射台)にして、G8におけるリーダーシップを発揮したいと思います。さらに、京都議定書から10年を経て、実際の行期 いく中での日本の存在ということが重要になってきます。そのよ 国際社会において、日本には非常に大きなstake がかかっていると思います。

世界の中で「下落した」日本の存在感

では、私がダボス会議に参加するようになってからの日本はどうだったか と言えば、ご存じのようにバブル崩壊によって影響力も存在感も急速に下落 していきました。日本人の参加自体も次第に先細りになり、ダボスに行ったとしても「いったいお前たち日本はこのどん底からどうするつもりなんだ」とネガティブな議論に答えなければならない。「いや、もうそろそろ大丈夫だ から」「もうちょっと待ってくれればよくなるから」と言いながら、何年も何 年も、要するに失われた10年を引きずってきてしまいました。国際社会における日本という意味では、この後遺症はもしかするとまだ残っているのかも しれません。

一方で、中国・インドの存在がぐっと重要度を増してきましたから、国際 会議に出席すると、日本の頭越しに「お金」と「技術」と「モノ」と「飛行 機」が飛び交って物事が進んでいるということを実感します。このいわゆる 「ジャパン・パッシング (Japan passing)」には、ようやくある程度の歯止め がかかったかもしれませんが、80年代の日本の勢いを取り戻すまでには回復 していませんし、この先、さらなる努力と時間を要することになるでしょう。 従って、「国際社会に出ていく余裕がない」「国内のことで手いっぱいだから」 という腰の引けた気持ちが、日本の政治家や経営者の中にないとは言い切れ ないと思います。このままだと結果として、世界の中での日本の存在感が相 対的かつ総体的に低下し続けてしまうのではないかと、不安に駆られます。

たとえば、安全保障に関わる問題で、日本を主役として議論される機会はあまりありません。北朝鮮の核問題、拉致問題は議論にはなっても、世界全体の 大きな議論のコンテクスト(文脈)の中にはなかなか入ってこない。もしかするとこれはこれで「平和国家」日本にとっては幸せなことかもしれません。 反対に、中国に関して言えば、ポジティブに中国を評価する議論もあれば、 外との関わりにおいて「グローバル・シチズンとしての責任ある対応」 —— よくアメリカの指導者が使う言葉ですが――を中国に求めることもあります。 厳しい注文や留保はもちろんありますが、中国の存在感は国際世論を形成していく場でも非常に大きくなっています。

あらためてこの10~15年をふりかえってみると、「もうちょっと待っていればよくなる」といった「言い訳」が日本は多いんです。あるいは、「こうなった理由は……だから」という「分析的」な言い訳です。それに対しては英 語のひとことで答えるならば So what? (それで?)ということになってしまうわけです。
省エネルギーを例に取って考えてみましょう。日本ショックを経て、産業の仕組みから、作り出す製品、国民生活のおり方まで、他の国々に先駆けて省エネ志向になっていまいます。その実績が世界の他の国と比べても負けない今の日本の空気のきれいさ、水の美しさといったものを作っているわけです。日本の省エネはGDP1単位当たり中国の10倍 アメリカの何倍にもなり日本には世界に冠たるクリーンエネルギーの旅 業技術が存在していると胸を張って言えます。

ところが、国際的な調査を見ると、日本がそれだけ省エネルギーやクリー アーネルギーなどで進んでいることは世界にあまり知られていません。 タのハイブリッドカーなど個別には出てくるものの、世界的に地球温暖化の 議論をするときに、「京都議定書」は出てきても、日本が主語として語られる ことはあまりないのです。それは残念なことです。そこを何とかしないと 日本がこれまで積み重ねてきたこと、トータルな意味での「世界における可 和と、経済発展と、人に優しい日本」という存在が世界にアピールできない し、この先も評価が上がらないのではないでしょうか。

日本の声を世界に届かせるために

少々、口が過ぎたかもしれませんが、もちろん、ビジネスの世界でも、所 治の世界でも、あるいは専門家の世界でも、それぞれの局面で活躍している 方は沢山おられます。今後は、若い政治家や官僚といった熱意に燃えてその 国の政治なりシステムなりを、人々のため、日本のために作っていこうと考 えている人たちが、国際社会に出て行って能力を発揮するようなことを組織 的に支援していくことが求められます。また、現在、ビジネスの世界では若い人たちにも国際的に通用する力がずいぶんついてきていると思います。ただし、問題は、そうした若い人たちの力を十分に活かせるような態勢に企業社会がなっていないことではないでしょうか。それでは、優秀な人たちは日本の組織を離れていってしまったり、あるいは欲求不満の中で埋もれていったりしてしまいます。だから、特に企業社会では、若くて力のある人たちに チャンスを与えて、国際社会・国際企業活動の中で力を発揮できるような右 手リーダーを育成したり、チャンスを与える努力が必要なのではないでしょうか。「顔の見えない日本」を「顔の見える日本に変えていく努力は非常に大事だと思います。数の上でも中国とインドの人口を合わせると25億、日 は1億2500万で20分の1、しかもこれからどんどん差が開いていくわ 言葉ができ、国際的に通用する人材の比率もむしろ下がっていって すると、日本の存在はどんどん小さくなっていってしまうおそれがあります。

この状況を打開するにはどうすればよいでしょうか? そのためには、上 に述べたことに加えて、オーケストラのように、第1バイオリンも第2バイオリンも打楽器も、それぞれが自分のパートをこなしながら、全体として一丸 となって、ひとつの音として共鳴させ、発信していくようにしていかないと いけないのではないかと思います。あるいはサッカーのように、イレブンが それぞれの役割を果たしたうえで、縦横に、しかも互いに補い合って「勝利」 に向けて邁進していく姿も私のイメージのひとつです。もっと言えば、あら ゆるレベルの、あらゆる年代の人たちがそういう意識を持てば、必ずしもみんなが指揮者の元に一緒にならなくても、自然に日本人の声がひとつの大きな音楽となって、世界に届くのではないかという気がしています。

発言しなければ、存在は認められない

ところで、ダボス会議にやって来る各国のリーダー、首相や大統領といった人たちは、必ずしも英語で演説しなければいけないわけではありません。 plenary と呼ばれる全体会議の場では、自国の言葉で世界の指導者の胸を打つ演説もよくあります。しかし、5日間の会期中に2006300も行われる分科会やワーキングランチやディナーの席はそうはいきません。ほとんどの場合、同時通訳がありません。あるいは、自分専用の通訳を同伴することも基本的 に許されません。英語ができない人、あるいは英語でうまく発言ができない 人、十分に聞き取れない人が苦労するのはそこです。聞くのはわかるけれど も、発言ができないということで尻込みしてしまい、なかなかそういう場所 に出ていくことが億劫になってしまいます。

それに加えて、いろいろな国の人たちがどんどん参加するようになってきて、英語を母国語としない人間ばかりで議論をしなければならないような局 面も往々にしてあります。そういう意味では、ある程度英語ができないとコ ミュニケーションも取引も勝負も、また楽しむこともできないということに なります。現実にビジネスや交渉事に関わる場面では、英語はますます重要 になってきています。

現在、積極的な発言参加がいちばん目立つのはインド、東南アジアの人たちです。中国もかなり進んできましたが、まだ100%ではないと思います。余 談になりますが、2007年の夏、北京大学で行われた日中のフォーラムの際、 日本語のできる学生は1~2割なのに対して、大半の学生が英語ができると手を挙げていました。ほとんどの人に留学経験がないにもかかわらずです。そういう点からも、今後、中国の英語による発言は増えてくることでしょう。

もうひとつ、もっと大事なことかもしれませんが、気になることがあり それは、英語がそれほどできなくても、「自分の意見を持っている」とあ 分の意見を発表する」ことに恐れとか、はにかみをかなぐり捨てて心構えを持つことも、日本人にはまだまだ努力がいるということです かすると、他のノンネイティブの英語を話さなくてはならない立場の人、 比べて、日本人は恥ずかしいとか気後れするといった気持ちをかなで 勇気、彼らがひとこと言ったら、こちらはふたこと言おうという積極的さなのではないでしょうか。もっとも、これは英語に限ったことではない しれません。大学でも日本と世界の若者とのいちばん大きな違いは彼らが言うと、世界の若者の場合は矢のように相手から質問と反論が飛んできますが、日本の場合は「お説ごもっとも」とうなずかれてしまうことが多い す。違う意見や疑問を持っている人は必ずいるはずですが、それを人前で、 するのに何らかのブレーキがかかってしまう。それについては教育は本人の白背で乗り越えなくてはなりません。子どもの頃から英語教育を日 始めるか始めないかという論争は別としても、日本語の教育の中で、自らも 現し、違う考えを持つ人とわだかまりなく議論する環境を作っていき、訓 していくことが必要なのではないかと思います。

国際社会ではっきりしていることは「発言しなければ、その人は存在しみ い」ということです。発言しないとその人の存在が記録に残らない、ポリシー・メイキングに影響力を持つことができないということを考えると、聞きとる努力も大事ですが、積極的に能動的に発言する努力が求められます。心構えとしては、できるだけ早く手を挙げて、トンチンカンでも何でもいいからひとこと言ってこようということをあらかじめ決意して臨むくらいのほうがいいかもしれません。

世界で英語を使うための技術

本書で取り上げられている「世界の英語」に関してですが、ひとつ感じることはどこの国の人が英語をしゃべっても、その国の言語、生活の中の言葉 のリズムがかなり投影されていることです。もちろん、その人の癖もあるでしょうが、たとえばインドの人は一般的に早口で多弁です。また、ダボ 議に参加しているノンネイティブ・スピーカーの多くは留学経験があり: が、自分の母国語からくるアクセントから抜け出しきれていない人もいると、非常に高度な英語を身につけているだけに、教養の高い、高級な言い回しであるとか、イディオム、たとえ話、ジョークなどが手に入っていて、アクセントによってさらに聞き取りにくく理解できなくなることも間々あります。
英語を母国語としない人間にとっては自分の国の言葉ではありませんから、許すときに単語が出てこないとか、逆に相手の言葉の中にわからない単語が 出てくると、そこに引っかかっていわば思考停止になってしまうことがあります。そうなると、相手の話の続きが耳に入ってこなくなって、頭の中で翻 訳ができなくなります。それをどうやって乗り越えていくかということが、 技術的には大事になってきます。この本でも、ノンネイティブ・スピーカー がどのようにそういったピンチを切り抜けているか、そのヒントを垣間見る ことができるかもしれません。

仕事上、私が実践しているのは、ごくオーソドックスな方法です。まず、ある程度、事前にできることがあります。会議などの場合は、予想されるテーマに関する英語の資料をよく読んで、ジャーゴン(専門用語)をあらかじめ 調べておく。専門知識についてある程度用意があれば、全体の意味がつかめるということもあります。
また相手が母国語でない人であればなおのこと、わからなかったらわかったふりをするのではなく、わからないとはっきり言うことです。それがまた 「勇気」のいることかもしれませんが、非常に大事なことです。その際、「すみません、もう一度」と言うのではなく、「あなたの言っていることはこういうことですか?」と切り返していくと、それだけで会話になっていきます。

コンテクストで推測できる努力、つまり、事前に準備をして自分の中に下地を作っておくことと、恥ずかしがらないでわからないことは聞く、わかったふりは絶対にしないこと。このふたつは矛盾するように思われるかもしれません が、両方必要なことです。私が記者になって初めて取材をするようになった 70年代の初めに、当時アメリカの国務長官だったヘンリー・キッシンジャー にお会いしたことがあります。キッシンジャーの英語はレトリックがたくさん 入った高度な英語で、そのときは二重否定の文章がわからず、一重否定で意味 をとらえてしまいました。なにか「おかしいな」と思いながら原稿を書いたの ですが、案の定日本側の発表で出てきた原稿と照らし合わせてみると、まったく意味を取り違えていたことに気付きました。放送前だったから取り返しのつかないことにはなりませんでしたが、わからないところをわからないということにも必要なのだと身をもって感じたのを今でも覚えています。 また、大きなスピーチをするときは、原稿を練りに練って用意して、練習 繰り返して発表することができますが、会議や討論での impromptu な即興 発言で対応しなければならない場合では、そういうわけにいきません。その場合は、大事な単語をメモにして持っておくとか、あるいはポイント カードに書いて用意するとか、いくつもの「タマ」を用意して持っていて ある程度カバーできます。文章にしてしまうと、発言の際にどうして に引っ張られてしまいますし、読み上げを聞かされる相手も興味を生 まいます。実はこうしたやり方は、大学生のときにディベートで覚えたものです。アメリカの大学生が pro (賛成) と con (スターグかれて討論 ポイントだけ書いたインデックス状の紙を用意して、相手の論点に 対抗する論点のメモを取り出し、反論しているのを見て「なるほど」, たのです。こうした「タマ」は、自分が発言するときに非常に大きな助けになります。

ダボス会議の印象に残るスピーカーたち

それでは、本書に登場するスピーカーの中から印象に残っている人を簡単にご紹介いたしましょう。
<緒方貞子>
緒方さんとはいろいろな仕事でご一緒させていただく機会がありましたが やはり緒方さんという人は自ら足を運んでのフィールドワークと、外交照明 の研究者としての深い考察と、実際にUNHCR (国連難民高等弁務官事務所) という機関を動かしてきたアドミニストレーターとしての能力を兼ね備えて います。それだけではなく、そうしたものがすべて融合して発言の中で言華 となって出てくる。あるいは哲学として示されている。だから、説得力を伴 って聞く人の耳に言葉が届くのだと思います。国際舞台でもっとも存在感の ある、そして誰もが耳を傾ける数少ない日本人のひとりです。

〈コフィ・アナン)
前国連事務総長のアナンさんはガーナの出身ですが、非常に美しい英語を話 します。特に、信頼できる人柄がにじみ出てくる、説得力のある言葉、そして短い言葉にしても吟味した言葉を印象的に使って、その人の意志がよく伝 わる、いわゆる「サウンドバイト (soundbite)」に使える言葉の選択がうまい 人です。それはソニーの故盛田昭夫さんもそうでした。盛田さんはダボス 議で議長を務められたりパネリストとして出席されたことがありま 率直に申し上げてものすごく流暢な英語をお話しになるという人ではありませんでした。それでも、スピーチは印象的で、演説を聞いた人のいつまでも残る言葉を持っている人でした。

<クラウス・シュワブ>
ドイツ生まれのスイス人であるシュワブさんは世界経済フォーラムの創設者であり、理事長としてダボス会議をまとめ上げています。それと同時に、会 業の進行役として大事なセッションは自分で司会をします。そのセッション の議論のテーマをどう浮かび上がらせ、スピーカーやパネリストの基本的な 考えをどう引き出すか、ダイナミックな変化を片時も休まないグローバルな 世界の中で、どういうふうに位置づけられるかということをよく念頭に置いて発言しています。その年の会議が終わって一、二週間すると、もう次の年 の準備に入る、と本人から聞いたことがあります。 –
また、本書には登場しませんが、ビル・クリントンとヒラリー・クリント ンの夫妻も印象的です。ボディランゲージ、アイコンタクトが非常にうまく て、聴衆が思わず聞き惚れてしまいます。会場の聴衆の誰もが、自分のため に話してくれている、自分に直接語りかけてくれているとつい思ってしまう。 ふたりとも、そのような人を惹きつける力があります。

本書第2部に登場するヨルダンのラーニア王妃も素晴らしい人ですが、夫君 のアブドラ国王もイギリス仕込みの美しい英語を話す立派な方です。アンマ ンの王宮でインタビューした際に、事前に報道官から「聞いてはいけない」 と言われていた質問をしたときも、動じることなく誠実に答えてくださった ことを憶えています。07年のダボス会議の演説では、中東和平の見通しがど んどん悪くなっていくという不幸なタイミングだったので、苦しい表現にな っていたのが残念でしたが、国際イスラム会議を開き、対話を通じて異なる 宗教間に調和をもたらし、中東社会の安定を図ろうという姿勢には、中東和 平における今後の希望を感じさせます。

21世紀の世界で、連携を生み出すために
最後にもう一度、ダボス会議について触れて締めくくりたいと思います。 実を言うと、これだけダボス会議に参加しながら、長いあいだどこか意地悪 で、醒めた懐疑的な思いで会議を取材してきたという記憶があります。世界 を動かすトップたちが、スイスで1週間集まる時だけいい人になって、ウィー クエンド・ボランティアというかサンデー・クリスチャンというか、何かそういうものなんじゃないかと思っていたこともありました。でも、世界には どうしようもない現実、一筋縄では解決しない問題ばかりで、国の指導者や 企業の経営者は利害が対立する中で、結局、自国や自分の企業の利益を優先 的に考え、機会を最大限に活かすことを常に求められているわけです。逆に 言うとこの人たちこそ、地球上で今わたしたちが抱えている問題は何なのか、 どこにその最大の障害があるのか、未来に向かってただちに手を打つべき問 題は何なのか、ということを実はいちばんよく知っているんです。そして、ダボス会議とは、そういう人たちが「自分」ではなく「世界」「人類」を念頭において議論することによって、それぞれの国や企業を率いていく哲学を見直す、そしてそれぞれの利害のバランスをとりながら、少しでもいい社会、いい世界にしていこうと努力する場所なのだと思います。

に比べてようになってき 際世論が、間映されてきています。 日経済フォーラムその特に90年代の終わりから、グローバル化がもたらす「功」に比べて、「罪」の大きさがあなどれない問題であることが、広く認識されるようになりました。現実に起きている様々な問題とそれを強く指摘する国際世論が間違いなくダボスの「エリート」と「リッチ」の考えに反映されてきています。そして会議に集まる人たち、あるいは主宰している世界経済フォーラ ものが進路を変えつつあることは間違いありません。たとえば、ダボス 最近よく使われる言葉が PPP (Public Private Partnership: 官民協調)。この流れは、イギリスにいた頃に取材で知ったことや、その後、アメリ 行ってピーター・ドラッカーにインタビューした時にも感じたことと仕店 ています。つまり、テーマとして共通しているのは、資本主義や市場名波 システムを活かしながら、地球温暖化からアフリカの貧困問題にいたる世界的な課題に誠実に取り組み、いかに人々の暮らしや環境を良くしていくかということです。その流れに沿うようにして、social enterprise (社会的企業) であるとか social entrepreneur (社会起業家)の役割といったものがクローブ アップされるようになり、表で取りざたされる政治や経済のダイナミックカ 動きの中に、市民レベルのイニシアティブを積極的に取り込んでいく現培が ようやくできてきましたし、その成果が正しく評価される時代になってきた と思います。その点ではダボス会議の努力を前向きに評価できると思います。

また、世界経済フォーラムの主宰者であるクラウス・シュワブ氏の The Schwab Foundation for Social Entrepreneurship (「社会起業家のためのシュ ワブ財団」)が、2002年からダボス会議の直前にチューリッヒで世界中の社会 起業家を集めてサミットを行っています。そうした civil society の動きを 軸に、政治とグローバル経済をいかに結びつけて大きな dynamic coalition (大連携)を作っていくかということが21世紀の重要な課題だと思います。それには結局、65億人の1人ひとりの積極参加とコミュニケーションがカギになってくると確信しています。

今井義典(いまいよしのり)
1008年度應義塾大学卒業後、日本放送協会(NHK)に記者として 外信部(現国際部)、経済部にて活躍。78年アメリカ総局(ワシントン)キャスターおよび93年「おはよう日本」初代キャスターを務める。 (ロンドン)。2000年国際放送局長。03年解説委員長。現在、解説委員。 客員教授として教壇に立ち、「国際メディア論」の講義を担当している。

序章
日本 FORUM
Photo by World Economic Forum
緒方貞子 (国際協力機構(JICA) 理事長)
世界20カ国の英語の旅のはじまりとして、日本を代表する国際 人の緒方貞子さんの英語を聞いてみることにいたしましょう。
緒方さんは国連難民高等弁務官として、内戦や民族対立によっ て難民生活を余儀なくされた人たちを救うべく、世界各国の政府やあらゆる交渉相手に協力を求めて、厳しい国際舞台で10年にわ たって活躍されてきました。
言葉が持つ重要さを知る緒方さんのスピーチは、日本人が国際 舞台で英語を使って自らの意見を述べるとはどのようなことなの か、格好のお手本であると言えるでしょう。

鶴田 知佳子 (著), 柴田 真一 (著)
出版社: コスモピア (2008/1/25)、出典:出版社HP