リスニング力を高める正しい学習ステップとは?【TOEIC®L&Rテスト分析[3]】

TOEIC®のリスニングスキルを伸ばすためには聴解力を鍛える必要がある。TOEIC®のリスニングは新形式になって難化しているため、リスニング力の向上は不可欠だ。そこで、60回以上の受験経験を誇る英悟さんに、公式問題集と自身の経験からリスニング力のトレーニング方法を教えてもらった。

リスニング力を向上させる4つのステップとは?

TOEIC®L&RテストのLはリスニングのことを指しますが、海外の教材ではLCと書かれていることがあります。LCは聴解力(Listening Comprehension)を意味します。聴解力とは、他者の話していることを聞いて、何を意味しているのかを理解する力です。そして、聴解力は聴力と理解力に分けて考えることができます。まずは、聴解力を4つのポイントに分解して考えてみましょう。

【聴力】
[1]音がわかる

【理解力】
[2]文字がわかる
[3]意味がわかる
[4]意図がわかる

最初に[1]音がわかるから説明していきます。私たち日本人には母国語ではない英語に対して、日本語と同じような聴力が備わっているわけではありません。英語の音がわからない状態だと英語も雑音でしかありません。そのため英語の音を知るトレーニングが必要です。また、音がわかったからと言って英語が理解できるというわけではありません。

そこで、[1]音がわかる→[2]文字がわかるというステップの移行が必要になります。ここで難しいのは単語の音は理解していても、会話の中では単語同士の音がくっついたり、強弱があったり、消えたりと変化するので、どのように変化するのかという知識がなければ文字がわからないのです。

その次のステップが[2]文字がわかる→[3]意味がわかるというものです。文字がわかっても、語彙力がなければ単語の意味がわかりませんし、文法力がなければ構文が理解できずに文の意味をつかめません。

[3]意味がわかるができたら、[4]意図がわかるに進みましょう。どんな言語にも、発せられた言葉には話者の意図があります。新形式のTOEIC®では、この発言の意図を問う問題が追加されています。

図の4つのステップを踏んだときに聴解力を身につけることができる

上の図のように、「音=文字=意味=意図」の4つが繋がったときに英語の意味がわかるということになります。TOEIC®のリスニングで言っている英語がわからない、スコアが上がらない、スコアが安定しないなどの場合は、この4つを短時間で一気に繋げることができていないからです。

このことを理解した上で、今自分がどこで躓いているのかを把握し、各ステップを乗り越えるためのトレーニングに取り組みましょう。分析と対策をせずに、ひたすら問題を解いているだけでは、効率が悪くスコアアップも期待できません。

最初に音がわかるようになるためのトレーニングを考えましょう。私の場合、ディクテーションを中心にトレーニングを積みました。ひたすら英語の音を聞き続け、ノートに書き取る訓練です。当時、中学生だった私は、洋楽を教材にしてLPレコードの針を上げ下げしながら、繰り返し同じフレーズを聞いて音を書き取っていました。英語ではなく仮名交じりで書き取ることで、単語がわからなかったのか、音がわからなかったのか、原因を明確にすることができました。ディクテーションをするときは、これ以上、修正できないというところまで書き取りましょう。

次の文字がわかるというステップでは、音を書き取ったノートと歌詞カード(スクリプト)を見比べながら何度も聞きます。ここでは、自分の書き取った音と文字の違いを認識することになります。音の変化と文字の組み合わせを頭の中の辞書に蓄積していきます。音の辞書の登録語数が多ければ多いほど、リスニングで効果を発揮して英語がわかるようになります。

社会人からの英語の再学習では、TOEIC®のスクリプトを使用してオーバーラッピングをしました。オーバーラッピングというのは、英語を耳で聞いて英文を目で見ながら音読するというトレーニング方法です。TOEIC®のナレーターの音声に自分の声が重なるように音読して練習します。アクセントやイントネーションだけではなく、息継ぎまでぴったり合うようになれば完璧です。

余談ですが、TOEIC®が新形式に変わって、ナレーションが一部高速化して難しくなったと感じます。キーワードが聞き取れずにリスニングセクションで満点を取り損ねたので、早口なナレーターの英文を聞いて練習しています。よく上級者が1.2〜1.5倍速で音声を聞いて訓練すると、標準速のナレーションがゆっくり聞こえるようになると言いますが本当でしょうか? 確かにゆっくりと聞こえるかもしれませんが、本当にわかるようになったと言えるとは限りません。

例えば、音がわかるレベルに達していない人が倍速訓練をしても、さらに聞き取れなくなってしまうだけですので注意が必要です。従って、TOEIC®の標準速のナレーションで音がわかるようになるまでは、標準速度でトレーニングすることをオススメします。

上級者の場合でも、単に音源を倍速したものではなく、ナレーター自身が早口で話している教材を使用することをオススメします。ネイティブスピーカーが早口で話すために発生した音の変化と、単に倍速した音声は大きく異なるものだからです。

以前、音読クラスで標準速のナレーションが聞き取れない人がいたため、講師がゆっくり話している音声を再生してくれたことがあったのですが、私にはかえってわかりづらかったです。これもゆっくり、標準、早口で話すときにそれぞれ違った音の変化をしているからだと思います。ですので、TOEIC®のリスニングに慣れるためには、公式問題集の標準速度でのトレーニングが最適なのです。

リスニング音声を倍速で聞く際は、あらかじめ早口な素材を使用すると良い

また、TOEIC®のリスニングには、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア出身のナレーターが登場します。唯一、公式問題集ならば本番と同じナレーターの声で練習ができます。人の声や癖は千差万別であり、テスト本番で初めてTOEIC®ナレーターの声を聞くようではスコアアップが望めません。

私の経験上、ひとりの人間の声や話し方の特徴をつかむまで3ヶ月くらい必要です。公式問題集の解説には、ナレーターの国籍と男女が記載されているので、自分の不得意なナレーターが登場する問題を集中的にトレーニングすると良いです。

しかし、このようにトレーニングをしても、リスニングで高得点を得るのは簡単ではありません。それはTOEIC®には合格・不合格という判定が存在せず、全てのレベルの人が同じ問題を解くため、難易度の低い問題から高い問題まで出題されます。ですので、初心者と中級者、上級者を判別するために組み込まれた沢山の“TRICK”に注意する必要があるのです。

私は「TOEIC®はTRICK」であると考えています。知らずに受けると出題者の思惑通りにはまります。俗に言う「ひっかけ」です。英語では「distractor(惑わすもの)」と言います。何処にどんな「distractor」があるか事前に知っていれば、上手く避けて通ることができるようになります。

「distractor」には上位語や類似音、同じ単語の繰り返しなど、いくつかのパターンがあります。最初にパート1に頻出の上位語を覚えておきましょう。座って本を読んでいる人の写真を見て「book」や「magazine」などのキーワードはあまり出てきません。TOEIC®では本や雑誌などを「reading material」と言い換えることが多くあります。他にもレストランの外のテーブルや椅子の写真で「table」、「chair」を待ち伏せしていたら、「furniture」と言い換えられることもあります。頻出単語には以下のようなものがあります。

「reading material(本、雑誌)」、「furniture(テーブル、椅子)」、「musical instrument(ギター、ピアノ)」、「vehicle(車、バス)」、「merchandise/items(商品)」 、「equipment(OA機器、コピー機)」、「device(携帯電話)」、「the water(湖、川、池など水辺)」などがリスニングセクションで言い換えられる単語として出てきます。他にもあるので、出会ったらメモしましょう。

次に、「car/cart」、「curtain/carton」、「train/training」のような似た音の単語が選択肢にある事があります。何となく聞き取れた箇所から単語の意味を理解しようとすると、ついつい似た音が入っている選択肢を選んでしまいます。同じく、設問と同じ単語や関連語が選択肢に入っていると誤答を選びがちです。その他にも主語や時制、目的語などが違うことにも注意が必要です。

公式問題集を使ってナレーターの声に慣れつつもディクテーションやオーバーラッピングで聴解力を伸ばします。また、TRICKのパターンも学習しておけば、本番で「これはあのパターンだな」と誤答を避けることができます。

最後になりますが、[2]文字がわかる→[3]意味がわかる→[4]意図がわかるというのはリーディングと共通の力です。このフェーズでは語彙力と文法力、読解力が必要となります。リスニングセクションのパート2で言われる「遠い答え」については、[3]意味がわかる→[4]意図がわかるに関わる部分でもあります。それらを含めてリーディングについても解説していきます。