読解スピードの有効な学習法
マーキングによるリーディングテクニックが紹介されています。本書を用いてトレーニングをすることで、読解スピードを格段に向上させることができます。知識としての英文法を使いこなせるレベルまで高めることができるので、ぜひ手にとっていただきたい1冊です。
はじめに
「誰でも、ネイティブなみに速く、正確に、英語を読めるようになる」
そのために、この本を書きました。
ボクは22歳で、映画監督を目指して渡米しました。学生ビザを取れば長期滞在できるので、大学院生として大学に籍を置くことにしました。当初は、何ひとつうまくいきませんでした。発音の悪さのせいで、大学の図書館で“book”すら通じませんでした。目の前が真っ暗になりました。
それでも、できることをとにかく全力でやり抜くことにしました。映画づくりに生かせそうなことや英語の上達を加速させてくれそうなことならば、何にでも取り組みました。その中のひとつが、大学の英文科が院生向けに開いていた「現代アメリカ文学史」を受講することでした。
この講座の内容は、1学期(約4ヶ月)のうちに7冊の長編小説を読み、その全てについてレポートを書き、更に学期末には1冊を選んで長めの論文を提出するというものでした。日本語で取り組んでも、相当な分量です。しかも、ボクはまだ渡米1年目で、前述のようにbookすら通じずに苦労していました。
1冊目は、ヘミングウェイの「日はまた昇る(The Sun Also Rises)」でした。いきなり、つまずきました。よく言われるように、ヘミングウェイの英文はシンプルで、比較的読みやすいのですが、読むスピードが授業に全く追いつかないのです。
ネイティブスピードで読めなければ、「現場」では全く通用しない。
そう痛感させられました。そこで、ともかくいつもこの本を持ち歩き、少しでも時間があれば必ず読むようにしました。それでも、間に合いませんでした。自分の英語力のなさが情けなくて、悔しくて、眠れませんでした。「絶対に途中で投げ出さない」とだけ心に決めて、暇さえあれば読み続けました。
すると、2冊目の「八月の光(Light in August)」を読み終える頃に、少しずつ事態が変わってきました。だんだん、読むスピードが上がってきたのです。それには、はっきりとした理由がありました。
「大量の英文を集中的に読むうちに、パターンがわかってきた」のです。
英文のパターンのことを、学校では「英文法」といいます。中学、高校、大学と、習い続けます。だから、当時のボクも知識としてはひと通り知っていました。でも、ネイティブと同じスピードで読むことが要求される場面で使いこなせるレベルにはなっていませんでした。ところが、このクラスで大量の英文に集中的に触れたことによって、英文法が「知識」から「ツール」に生まれ変わったのです。
嬉しくなって、このクラスの課題図書を読むのが「努力」から「楽しみ」に変わりました。すると、7冊目の「ビラヴド(Beloved)」を読む頃には次の変化をはっきりと感じるようになりました。
「筆者が言おうとしていることが、(英語という、母国語でない言葉で書かれているにもかかわらず)はっきりわかる」と、読みながら実感できるようになったのです。「ネイティブの感覚がわかり始めた!」と実感し、このまま努力を続ければ大丈夫だと確信しました。このときの感動を、ボクは今でもはっきりおぼえています。
「ネイティブなみに速く、正確に、英語を読めるような英語を学ぶ人ならば、誰もが一度は「そうなったらいいな」と思うはずです。上に記したような環境に身を置いて死に物狂いでがんばれば誰にでもそうなる可能性があると、ボクは経験から断言できます。しかし、それほどの時間もエネルギーも割くことができない人が多いのではないでしょうか。そこで、ボクの学校の英語クラスで3年あまり前からやり始めたことがあります。
それは、「英文法のルールに従って、英文にマークを書き込むこと」です。
マークは、全部合わせても、わずか14。何百ページもある分厚い文法書の内容を限界まで圧縮すれば、14のマークに行きつくのです。そして、これらを使いこなせるようになれば、複雑なセンテンスにも自在に対応できるようになります。
比較するために、マークのついていないものとついているものを並べてみます。
(ウ1) All that you need to do to get the situation settled is to make a couple of phone calls to the right persons. (その状況を落ち着かせるためにあなたがする必要があるのは、適任な人たちに2本の電話をすることだけだ)
例文(ウ1)と(ウ2)を見比べてください。(ウ2)のマークがついているところが、センテンスの中で最も重要な要素です。ここには必ず注意しながら、そして残りの部分は必要に応じて強弱をつけつつ読むようにすれば、効率よく、しかも正確に読めるようになるわけです。
要は、14のマーキングを徹底的に体に叩き込むこと。それだけでよいのです。
事実、英語クラスでは毎週の通常講座とは別に短期集中型の「英文法特別講座」を年に2回ほど開いていますが、約3時間で誰でも英文法の全体像をつかむことができます。その結果、中学生が、大学入試センター試験の英文に短時間で軽々とマークをつけ、ほとんど間違えないレベルに達します。ただし、マーキングする際には、いくつかの留意点があります。
1.時間を計り、全速力で行う。
2. 急ぐことを何よりも優先する。(最初のうちはいくら間違えてもよいから、とにかく急ぎ、頭で考えずに手を全速力で動かす)
3. 同じテキストを使って、必ず2回マーキングする。(マーキングを一度行った後で答え合わせを行い、その後もう一度マーキングに挑戦して、定着を図る)
4. 必ず記録を取り、できたことも、できなかったことも、目で見て分かるようにする。(そして、振り返る)
例えば、100語の英文は、ネイティブが普通に音読して30から35秒はかかる量です。マーキングは手を動かす必要がありますから、音読より余計に時間がかかります。従って、100語の場合は、50秒以内にマーキングを完了し、しかも間違えがなければ、「ネイティブスピード」と言ってよいレベルです。(そこで、本書は「語数+2」秒をマーキングの目標タイムに設定します)
実際にマーキングをしてみると、最初のうちは時間がかかります。目標タイムがあまりにも短く感じられます。英語クラスを受講し始めたばかりの生徒さんたちは、「自分には無理」「出来るわけがない」と異口同音におっしゃります。しかし、全員が着々とできるようになっていくのです。それどころか、80語のテキストを20秒台で終わらせて満点を取るような「達人」すら、何人も生まれています。
このプロセスを通して、生徒さんたちは皆、以下のように劇的に変貌していきます。
- 英文の構造が体で分かるようになった結果、「当てずっぽう」で読まなくなり、読みが正確になる。
- 読むのが格段に速くなるので、英文が苦にならなくなる。むしろ、読むのが楽しくなる。
- 自信がつき、英語全般が得意になる。更には、他の教科や仕事全般にまでいい影響がある。
早い人で1ヶ月程度、英語が苦手で相当時間のかかる人でも1年足らずで、全員がこうなります。このように劇的な成果が、短期間で、しかも全員にもたらされるのには、理由があります。 - 文法は、おぼえねばならないことが少ないので、短期間で成果が出やすい。(単語は何千とおぼえねばならないので、文法よりも必ず時間がかかる)
- 文法は、筋の通ったルールなので、きちんと理解した上で一度定着させれば、簡単には忘れない。
- マーキングは時間、正答率で客観的に成長を確認しやすいので、モチベーションの維持向上がしやすい。
そしてこのたび、クラスの仲間たちのみならず、英語を学ぶ全ての人が同様の成果を得られるよう、これまでの実践と研究の成果をまとめ、本にしました。
全速力で手を動かし、短時間で全力を出し切る快感。学ぶほどに着々とタイムが更新されていく達成感。文法の全体像が次第に見えてくる昂揚感。
心ゆくまで楽しんでください。
黒川裕一
contents
はじめに
contents
チャプター1 主語と動詞
チャプター2 文の種類、助動詞、受動態
チャプター3 時制1 現在・過去・未来
チャプター4 時制➁ 進行形と完了形
チャプター5 時制3 文の種類、助動詞、態との組み合わせ
チャプター6 準動詞1 未来分詞
チャプター7 準動詞2 現在分詞
チャプター8 準動詞3 過去分詞
チャプター9 準動詞4 事実分詞
チャプター10 準動詞5 分詞の応用
チャプター11 等位接続詞
チャプター12 従属接続詞
チャプター13 間接疑問文
チャプター14 比較
チャプター15 that 節
チャプター16 関係詞1 単純型
チャプター17 関係詞2 複雑型
チャプター18 仮定法1 単純型
チャプター19 仮定法2 if節によらない仮定法
チャプター20 省略・倒置・反語
《付録》 マーキング一覧
おわりに
本書の使い方
1囲み文
このチャプターで学ぶ主要ポイントを含む例文です。暗記してしまうことをおすすめします。
2ウォームアップ
このチャプターで学ぶべきポイントを、最重点のもののみに絞り込んで解説しています。まずは一読して先に進み、その後必要に応じて振り返ってください。
3このチャプターで学ぶマーク
マーキングの要点がまとめてあります。ここを頭に入れて、次の10問テストに直ちに進んでください。
410問テスト
このチャプターのポイントを開催した例文が10個並んでいます。「劇的に伸びる3つのコツ」に従って、必ず時間を計り、全速力で、マーキングを行ってください。
5解答&解説
10問テストの解答と解説です。答え合わせをしながらここを精読すればポイントの理解が更に深まるようになっています。「ワンポイント」「もう一歩先へ!」「翻訳のツボ」の3つの囲み記事にも、関連トピックをまとめてあります。
6 10問テスト
(再チェック用) 「解答&解説」で理解を深めた上で、10問テストに再度取り組み、定着を図ります。ここで目標タイムをクリアし、満点がとれれば、このチャプターの学習内容が身につきつつあると言えます。答え合わせは、すぐ前の「解答&解説」を参照してください。
7ワンランクアップ!
より長めで難しいセンテンスを素材とする、このチャプターの修了試験です。1話数は全て80話目標タイムは40秒、クリアできれば、このチャプターは突破できたと言ってよいでしょう。
2解答&解説
「ワンランクアップ!」の解答と解説です。10問テストの「解答&解説」と同様にご精読ください。
のコラムこのチャプターで学んだことに関連するコラムです。映画や音楽の中の実用例を主たる題材として選びました。