ネイティブが教える ほんとうの英語の冠詞の使い方

冠詞の概念がない日本人にとって難しい冠詞

英語の学習で頭を悩ませることの多い「冠詞」。aやtheのように冠詞の使い分けが難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。それは、日本語には冠詞がないため、英語のネイティブではない多くの日本人にとって英語のニュアンスがわからないからです。しかし、裏を返せば、そのニュアンスを覚えてしまえば、冠詞の使い分けはそれほど難しくはないのです。筆者は、「冠詞を身につける」とは「冠詞の使い方に慣れる」ということであるといいます。本書はクイズ形式を中心に進み、読み進めていくうちに自然と「冠詞の使い方に慣れ」、「冠詞を身につける」ことのできる1冊となっています。

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デイビッド・セイン (著) , 森田 修 (著), 古正 佳緒里 (著)
出版社: 研究社 (2013/1/23)、出典:出版社HP

はじめに

ほとんどの読者は、英語を学んでみて初めて「冠詞」という言葉の存在を知ったと思います。なぜなら、日本語には冠詞がないからです。
そしてその複雑さに頭を悩ませ、「母音の前はa を an にする。waterやcoffeeには冠詞が付かない」くらいのルールを頭に入れ、あとはなんとなく「雰囲気で」aやtheを使い分けているのではないでしょうか?

そもそも「冠詞」とは、どのようなものを言うのでしょうか?
簡単に言えば、「名詞の前か後に置き、話し手が特定のものを示しているかどうかを表わす語」のことです。「簡単に」と書きましたが、改めてこの説明を読めば、まったく簡単ではありませんよね? 「なんで日本語にはないのに、英語にはそんなものが必要なの?」と思われるのも、無理はありません。
英語では、名詞の前に冠詞が置かれます。つまり、「まず冠詞ありき」なのです。なぜ「まず冠詞ありき」なのかといえば、冠詞の有無で文全体の意味が変わるからです

ためしに、以下の3つの文を「冠詞のニュアンスを出して」日本語に訳してみてください。
1. John has a cat.
2. John has the cat.
3. John has cat.

1がもっとも一般的な文で、「ジョンはネコを飼っている」です。2は「ジョンはネコのほうを持っている」、3は「ジョンはネコ肉を持っている(?!!)」です(なぜこのような訳になるのかは、068 ページをご覧ください)。
ふだんは1の「自然な英語」しか目にしないでしょうが、2も3も、不自然ではあるものの、英語として通じます。1は○で、あとは×と言い切ることはできず、「それぞれの冠詞のニュアンスを出した解釈ができる」のです。

「ジョンはネコとイヌのどっちを飼ってるの?」と聞かれたなら2の返事をするはずですし、ネコの肉を食用とする習慣がある国ならば、3のような返事もありえるでしょう。
冠詞の使い方を知るには、冠詞本来の意味を知ることが大切なのです。
では、どうすれば冠詞の意味がわかるようになるでしょうか? 文法書を読めばいいでしょうか、それともフレーズを暗記すればいいでしょうか?

それには、私たちネイティブが、どのように冠詞の使い分けを習得したかがヒントになります。私たちは冠詞を「覚えた」のではなく、自然に「身につけた」のです。言い換えれば、「冠詞を身につける」とは、「冠詞の使い方に慣れる」ということなのです。
定冠詞・不定冠詞・無冠詞の使い方をルール化すれば、100近いルールになるといわれ、例外も山ほどあります。そんなルールをすべて暗記するのは、至難の業です。言葉とは本来、暗記するものではなく、自然に身につけるべきもののはず。ではどうすれば、自然に身につくでしょうか?
本書では、クイズのように簡単な例文を次から次へと読むことで、さまざまな冠詞の使い方に慣れてもらいます。冠詞による意味の違いを、繰り返し「刷り込む」ことで、ほんとうの冠詞の使い方が身につくはずです。

最後に、『ネイティブが教える英語の語法とライティング』『ネイティブが教える英語の動詞の使い分け』に続いて、本書の企画を実現してくださった研究社の金子靖さんに、心より感謝申し上げます。また、今回は編集段階で同編集部の鈴木美和さんにもお世話になりました。
この本は中学生にもぜひ読んでいただきたいと思い、既刊のシリーズ本よりずっと親しみやすい内容にいたしました。本書で、読者の皆さんが少しでもネイティブの冠詞感覚を身につけてくだされば本望です。

目次

はじめに
003
序章 ネイティブにとって冠詞とは?
007
第1章 a/an / the / 無冠詞とは?
013
第2章 ルールで覚える冠詞の使い方
031
第3章 冠詞の違いによるニュアンスの違いを実感する!
065
第4章 冠詞の英訳
087
第5章 中級編 ビジネス例文に挑戦!
109
第6章 冠詞の仕上げ問題に挑戦!
127

 

序章 ネイティブにとって冠詞とは?

Introduction – 冠詞とは「なくてはならないもの」

英会話学校で、日本人の生徒に「英語の何がむずかしいか」をたずねると、たいていの生徒は「冠詞」と答えます。
日本語には、冠詞がありません。ですから「なぜ物の名前の前に冠詞を付けなければいけないのか、理解できない」と彼らは言うのです。たしかに、それは一理あるかもしれません。
「ネイティブにとって、冠詞とはどういうものですか?」これもよく聞かれる質問です。
日本人には「邪魔なもの」かもしれませんが、私たちネイティブにとって、冠詞とは「なくてはならないもの」です。もし冠詞がなかったら、どうやって意味を理解すればいいのか途方に暮れるでしょう。冠詞があるからこそ会話が通じ、筋道だった文章を書くことができるのです。
次によく聞かれるのは、「ネイティブは、どうやって冠詞を覚えるのですか?」です。 the sun のように世界に1つしか存在しないものにはtheを、お互いが何を指しているかが限定できる時には the を付けて……なんて言い方はしません。

日本人だって、子供に言葉を教えるのに、ルール(文法)から教える親はいませんよね?
それと同じで、冠詞のルールを子供に教えることはまずありません。強いて言えば、ネイティブであれば子供に単語を教える際、”book”ではなく “a book”と、“sun” ではなく “the sun” と教えるでしょう。
英会話学校では、幼児に単語を覚えさせる際、よくフラッシュカードを使います。ほとんどのフラッシュカードが名詞なら名詞のみ(bookならbookだけ)ですが、”a book”と冠詞も付いていたら、より冠詞の必然性がわかるのに…と思います。
つねに名詞と冠詞をセットにすることで、「名詞には冠詞を付ける必要性があるんだ」と意識させられると思うのです。また「どの名詞にはどの冠詞が付くか」を、言葉と同時に覚えられます。ネイティブの親は、無意識にそうやって冠詞の使い方を子供に教えているはずです。
正直に言って、ネイティブが冠詞で苦労することは、まずありません。「いつのまにか自然に身につけている」としか言いようがないでしょう。
小学校から大学まで、冠詞の使い方を教えるような授業はありませんし、「冠詞はむずかしい」という意識すらありません。
つまりネイティブにとって、それだけ「冠詞の使い方はあたり前のこと」なのです。

どうして冠詞はむずかしい?
それでは、なぜ日本人にとって冠詞はむずかしいのでしょうか?
その理由は、冠詞を「使う/使わない」で「意味が明確に変わる」にもかかわらず、冠詞の意味がきちんと日本語に翻訳されていないからでしょう。
例を挙げて説明します。
I bought the red book.
を日本語に訳すと、次のどちらになりますか。
1 私は赤い本を買った。
2 私は赤いほうの本を買った。
ほとんどの人が、1の「私は赤い本を買った」を選んだと思います。しかし実は、それは間違いです。
正しい訳は、「私は赤いほうの本を買った」です。なぜそうなるか、わかりますか?
1を選んだ人が多いのは、「日本語としての自然さ」を優先させているためです。2は、確かに日本語として少し不自然です。
しかしネイティブが the red bookと言う時のニュアンスは、2の「赤いほうの本」なのです。「白でも黒でもなく、赤いほうの本」と言いたいから、the red book と言っているのだと考えるといいでしょう。
ただ「赤い本」と言ってしまうと、なぜ a red bookではなくthe ream bookと言ったのか、英語本来のニュアンスが伝わりません。

冠詞の意味合いとは?
冠詞の「ルール」を解説する本は、日本でも数多く出ています。本によっては100近いルールで説明しているものもあり、私もそれらを読んで「なるほど、こういうルールで the を使っているんだ」と改めて知ることが多々あります。
たとえば「われわれの周りにただ1つしかないと考えられる物の名には theを付ける」というルールで the sky, the world を覚えさせますが、山ほどあるルールをすべて覚えるのは無理でしょう(この本でも、参考までに2章でルールを説明しています)。学校の先生は無理を承知でテストに出すのでしょうが、ネイティブからすればルール以前に「英語本来の冠詞の意味合い」を 知るべきだと思います。
冠詞の持つ意味合いを「感覚的」に身につけ、その上でルールを(暗記ではなく)直感的に判断できるようになれば、冠詞を自然に使い分けることが可能となるはずです。
この本では「冠詞のルール」を紹介しながらも、それを感覚的に理解してもらうために「山ほどの例文(!)とネイティブの解釈」をセットにして紹介していきます。

「ネイティブの解釈」とは、ふだん目にする「自然な日本語」では訳されていない「ネイティブが感じとる冠詞本来の意味合い」のことです。
ネイティブの冠詞感覚を表現するため、あえて不自然な日本語訳をしていますが、その不自然な部分こそが、日本語化されなかった「ネイティブの冠詞感覚」なのです。
さまざまな例文と解説を繰り返し読むことで、感覚的に「ネイティブにとっての冠詞」を身につけてください。

デイビッド・セイン (著) , 森田 修 (著), 古正 佳緒里 (著)
出版社: 研究社 (2013/1/23)、出典:出版社HP